寄り道()小()道()
その
家()の
庭()にトイプードルをみつけたのは、ツツジの
花()が
咲()きそろう五
月()半()ばのことだった。
「なんていう
名()前()? かわいいね」
亜美()が
話()しかけていると
家()の
中()から
女()の
子()が
出()てきた。あわてて
駆()け
出()そうとして、
女()の
子()のかけている
色()付()き
眼鏡()や
白()い
杖()に
気()づく。
「みーちゃん、どうしたの。
誰()かいるの?」
「ごめんなさい。
犬()がかわいくて」
「ありがとう。
嬉()しい。
近()くの人?」
「
近()くだけど、この
道()は
初()めてなの」
いつもの
道()は
通()れなかったから、という
言()葉()はのみこむ。
「もしかして
小()学()生()くらい? わたし、五
年()生()よ」
「わたしも五
年()」
小()学()校()で
見()かけたことはないのでちがう
学()校()に
通()っているのだろう。
親()しみのこもった
笑()顔()を
向()けられ
亜美()もほほえんだが、
白()い
杖()を
手()に
歩()み
寄()る
女()の
子()に
身()がすくむ。マスクをしてない。
いっときも
早()く
離()れたくなるが、なんと
言()えばいいだろう。だまって
急()にいなくなったら
不()審()に
思()われる。
困()っていると「どうしたの?」と、さらに
近()づいてきた。
「マスク」
亜美()は
自()分()の
口()元()を
指()で
差()した。それでは
通()じない。
「わたしはマスクをかけているの。でもあなたはしてないでしょ。だから、した
方()がいいと
思()って」
女()の
子()は
驚()いたらしく、
手()にしていた
杖()を
放()してしまう。
犬()も
鳴()き
騒()ぐ。
家()の
中()から
誰()か
出()てきた。
「お
母()さん、マスク!」
「そうだったわね。うっかりしてた。お
友()だちかしら。ごめんなさいね」
お
母()さんにあやまられ、
亜美()は
首()を
横()に
振()った。
「ちがうんです。わたしのお
母()さんが
病()院()で
働()いてるから、うつしたら
悪()いと
思()って」
今()のところ
家()族()の
誰()にも
症()状()は
出()ていない。
感染()予()防()には
前々()から
気()をつけている。けれどウイルス
保()持()者()のように、
近()所()の
人()にも
学校()の
友()だちにも
恐()れられている。ついさっきも
買()い
物()に
行()こうとして、
数()人()のクラスメイトをみつけ、あわてて
隠()れた。コンビニもドラッグストアも
行()かないでほしいと
言()われている。
泣()きそうになって
下()を
向()く。
女()の
子()のお
母()さんは
犬()の
頭()をなでながら
言()った。
「うちはずっと、
病()院()の
先生()にも
看()護()師()さんにも
薬()剤()師()さんにもお
世()話()になっているのよ。もしかしたらあなたのお
母()さんにも
会()っているのかも。とても
感()謝()している
人()がいると
伝()えてね」
亜美()は
涙()目()のまま
顔()を
上()げた。
「そんなふうに
言()ってくれる
人()、いなくて」
「ほんとうはいっぱいいるのよ。あなたのお
友()だちも、いつかいろんなことに
気()づく。わたしだって
小()学()生()のころは、さっきみたいなことが
言()えなかったわ」
それからその
道()をよく
通()るようになった。「みーちゃん」こと「ミカエル」という
名()のトイプードルともすっかり
仲()良()しだ。
名()付()け
親()である
飼()い
主()とも。
ツツジの
花()は
終()わってしまったけれど、
今()はマリーゴールドやひまわりがたくさん
咲()いている。
大崎梢(おおさき・こずえ)
東()京()都()生()まれ。
元()書()店()員()。
書()店()で
起()こる
小()さな
謎()を
描()いた『
配達()あかずきん』で、2006
年()にデビュー。
近著()に『
本()バスめぐりん。』『
横濱()エトランゼ』『ドアを
開()けたら』『
彼方()のゴールド』などがあり、
最新作()は『さよなら
願()いごと』。
【
近刊()】