十四年ぶりの流れ星

文字数 1,008文字

 拙作『流星さがし』がようやく文庫化される。単行本は2009年に出たので、文庫になるのに十四年もかかってしまったことになる。お待ちいただいていた読者の皆様には、本当にごめんなさい、と平謝りするしかない。ここまで文庫化が遅れたのは大半が私の責任で、この作品の文庫化と同時に刊行予定だった同じ主人公の作品を完成させることができなかったことが大きい。なんとも面目ない。もう一度ごめんなさい。
 十四年ぶりに『流星さがし』をゲラで読み返してみると、十四年という歳月がいかに長かったかを思い知った。十四年前はスマホというものがまだ普及しておらず、SNSもmixiくらいしか使われていなかったと思う。LINEのリリースが2011年だから、この作品の登場人物たちはスマホを持たず、TwitterもLINEも知らない世界で暮らしているわけである。
 なので不安があった。作品自体が古臭く思えるのではないか。若い世代が読んだら共感できないのではないか。
 そうした不安は、本作の文庫の評判を待たないと解消されないだろう。あるいは結果として、不安的中してしまうのかもしれない。
 が、それでも、ゲラを読み返して「このままで行こう」と思った。この連作短編集が描きたかったのは、変化に流される日々の中で、流されずに残るものの正体、ではなかったか、と思い至ったからである。
 いつの時代、どんな状況に生きていても、人の心にある「変わらないもの」。
 それは、打ち上げ花火の残像にも似て掴みどころがなく、確かめようもなく、けれど、確かに美しいものに違いない。
 そんな「美しいもの」が、流れ星のように読者の心をよぎってくれれば、作者としてそれ以上の幸せはない。
 十四年ぶりの流れ星が、あなたに届きますように。



柴田よしき(しばた・よしき)
東京生まれ。青山学院大学文学部卒。1995年『RIKO-女神の永遠』で第15回横溝正史賞を受賞してデビュー。「猫探偵 正太郎」シリーズ、『激流』、「お勝手のあん」シリーズなどがベストセラーに。警察小説、本格ミステリ、伝奇ロマン、恋愛サスペンスなど多彩な作品を手がけ、幅広い読者層に支持されている。

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