物語()は踊()る
陽菜()は、一
年()前()から
物()語()を
書()いている。
書()き
始()めたきっかけは、
自()分()の
人生()(といってもまだ十二
年()だけど)が「とても
平凡()」だと
感()じたからだ。
想像()もつかないような、
思()いもかけないような、
驚()くようなことがまったく
起()こらないので、
物()語()の
中()だけでもそういうことを
起()こそう、と
考()えた。
けれど
最近()、
想像()もつかなかったことが
本当()に
起()こってしまった。
新()しい
感()染()症()のために、
学校()へほとんど
行()けなくなってしまったのだ。その
上()、
夏()休()みもなくなってしまった。
実際()にそういうことが
起()こったらきっとワクワクするに
違()いない、と
空想()していたのに、
全然()そんなことはなく、むしろ
怖()くて
悲()しかった。お
父()さんとお
母()さんはお
店()やさんをしていて
普()段()はあまり
家()にいなかったのに、
今()は
営()業()を"
自()粛()"しているから、
長()い
時()間()一緒()にいられる。それはうれしいけれど、
二人()ともなんだか
悲()しそうだ。
陽菜()も
落()ち
込()んでしまう。
どんな
物()語()を
書()いたってこんな
現実()にはかなわないなと
思()うのだけど、それでも
陽菜()は、なんとなく
紙()に
文字()をらくがきしていた。
適当()に
思()いついた
言葉()や
変()な
漢()字()、おかしな
四()字()熟()語()、
自()分()で
考()えた
外国()語()──そんなことを
並()べていたら、なんだか
楽()しくなってきた。
自()分()が
面白()いと
思()うことだけが
浮()かんでくる。
最初()はただ
書()きたいことを
書()いていただけなのに、
次第()に
知()らない
女()の
子()が
頭()の
中()でしゃべりだした。うるさいほどおしゃべりなその
子()との
会()話()を
夢()中()で
書()いていたら、「あれ、これ
誰()かに
似()てる」と
思()い
始()める。
誰()だろう、と
考()えながら
書()き
続()けていたら──
突然()わかった。
これ、お
母()さんだ。しゃべり
方()とか
口()ぐせとか、
怒()り
方()とか
変顔()の
仕()方()とか、お
母()さんそのものだ!
だから
陽菜()は、その
子()が
絶対()に
楽()しいと
感()じることばかりをやらせてあげた。というか、
女()の
子()は
勝手()に
動()く。
書()く
手()が
追()いつかないくらい、
飛()んだり
跳()ねたり、
踊()ったり
歌()ったり。
本当()に
生()きてるみたいだった。
書()き
終()わった
時()、
陽菜()は
今()までとは
全然()違()うものを
書()いてしまったと
感()じたが、
同()時()に「
誰()かに
読()んでもらいたい」という
気()持()ちも
心()の
底()から
湧()き
上()がってきた。しかも
猛烈()に。
そこで、
居間()で
暗()い
顔()をしていたお
母()さんに
見()せてあげた。そしたら、
涙()を
流()して
笑()ってくれる。
大人()もこんなふうに
笑()い
転()げることってあるんだ!
「
陽菜()が
物()語()書()いてるなんて
知()らなかった。すごく
面白()いよ。
陽菜()は
才能()あるね」
止()まらない
涙()を
拭()きながら、お
母()さんは
言()った。その
言葉()は、
陽菜()にとって
今()まで
書()いてきた
物()語()より、そして
今()の
状()況()より、ずっとずっと
思()いがけないことだった。「
面白()い」ってたったひとことなのに、そう
言()ってもらえるだけで、びっくりするほどうれしい! こんなにワクワクするのっていけないのかもしれないけれど、
初()めてだ!
「じゃあ、お
父()さんのお
話()も
書()くよ!」
「うん、
書()いてあげて。きっと
喜()ぶよ」
お
父()さんも
面白()いって
言()ってくれるかな? お
母()さんみたいに、
笑()ってくれるかな。
矢崎存美(やざき・ありみ)
埼玉()県()出()身()。1985
年()、
星()新一()ショートショートコンテスト
優()秀()賞()を
受()賞()。1989
年()に
作家()デビュー。「ぶたぶた」シリーズなど
著()作()多()数()。
【
近()著()】