②北島直明プロデューサーが語る「ネメシス」驚きの仕掛け

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広瀬すずさん・櫻井翔さんのW主演で、企画発表直後から話題となった新ドラマ「ネメシス」(日本テレビ系毎週日曜日 夜10:30〜)が4月11日より放送開始となる。


広瀬すずさんが「探偵事務所ネメシス」の天才すぎる助手・美神アンナを、その助手が支えるポンコツ探偵・風真尚希を櫻井翔さんが演じ、事務所の大黒柱の社長・栗田一秋を江口洋介さんが演じる――それだけでかなり豪華なのだが、謎の失踪を遂げているアンナの父(この探偵事務所を設立した一番の目的はこの父を探すこと協力し合うのようだ)を仲村トオルさん、ネメシスと対立しつつも協力し合う神奈川県警捜査一課チームを勝地涼さん、中村蒼さん、富田望生さんらが演じているなど、他にも豪華な俳優陣がずらりと並んでいる。総監督を『AI崩壊』『ギャングース』などの映画監督・入江悠氏が務めることでも話題だ。


また、「ネメシス」は、脚本作りの段階から、少し変わった取り組みが実現されている。複数名のプロのミステリ作家と文芸レーベル「講談社タイガ」が参加し、本当のミステリのプロと映像のプロがタッグを組んだ新しいミステリドラマなのだ。


主演の櫻井翔さんをして「プロの集まった中での一員になっている」とワクワクしたコメントがインタビューでも話されていたが、この企画を熱い思いで実現したひとりである、北島直明プロデューサーはどのようにドラマを作ろうと考えたのか。「小説現代2021年4月号」に掲載された北島さんのインタビューを特別転載。

北島直明(きたじま・なおあき)


映画・ドラマプロデューサー。『藁の盾』でプロデューサーデビュー。同作は第66回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品。『22年目の告白ー私が殺人犯ですー』で、エランドール賞プロデューサー奨励賞を受賞。『キングダム』では、藤本賞特別賞を受賞。

プロデューサー北島直明が語る「ネメシス」驚きの仕掛け

──最初に連続ドラマ「ネメシス」の誕生の経緯を教えていただけますか?


北島 入江監督と映画『AI崩壊』(2020年公開)の制作中に、次はどんなものを作ろうかと話をしていました。入江監督と僕は同世代なんですが、僕らが小中学生のころは、21世紀に向けて未来は明るくなっていく希望があり、それが映画やドラマの世界の物語作りにも活かされていて、“憧れ”が存在していたと思います。ですが、平成の30年間で暗澹としたものが広がってきたような気がします。そして令和の今、どんな物語を作るかを考えたときに、やはり明るいもの、みんながワクワクするようなものが作りたいと思ったんですね。では、どんな題材がいいのか? 痛快で、コメディもあって、スリルもある……そう考えた時に、“探偵”が浮かんだんです。警察が手を出せないような事件を痛快に解決するヒーローで、それでいて、コミカルさもあって。事件としては現実的なスリリングなものも扱える……監督も僕も即決で、新しい“探偵物語”を作ろう! となりました。


──現実的というと、今作の舞台は横浜ですが、そこにも理由があったのですか?


北島 人気のある探偵は、因数分解するといくつかの要素があると思います。そのうちのひとつが、実際に存在する街に紐付いていること。例えば『探偵はBARにいる』はすすきのが舞台、『私立探偵 濱マイク』は横浜に住んでいて、『探偵物語』は渋谷にいるし、ホームズはベイカーストリート。大活躍する探偵というフィクション的存在を、現実の街を舞台にすることで実在しているように感じさせられるのでしょうか。今回、「ネメシス」の舞台となる横浜は昭和のノスタルジー感があり、同時に現代っぽくもある、そこが魅力でした。もう一つはバディものという要素があります。横浜を下見しているとき、町並みの中をコミカルな掛け合いをしながら、探偵と助手の二人が疾走している絵が見えたんです。そういう魅力的なバディを作りたい、と思ったのが企画のスタートですね。


──なるほど。北島さんは元々映画のプロデューサーですよね。なぜ今回はあえてTVドラマというメディアを選ばれたのでしょうか。


北島 キャラクターを育てていきたい、という意識でしょうか。映画は二時間ほどしかないので、設定やキャラクターを説明する時間はすごく短く、その中で主人公たちの成長を描くのは非常に難しい。現代のその瞬間を切り取った物語を届けることはもちろん大切ですが、今は長く愛されるキャラクターとコンテンツを作り育てる時代です。単発で作品を消化して終わってしまうのではなく、どんどん広げていく。今回の風真とアンナはそれに足るキャラクターになっていますし、魅力的なサポートキャラが主人公たちの仲間になっていくのも探偵物語の面白さですよね。そんな構造には連続TVドラマが最適だと思いました。


──小説の二巻には、道具屋の星憲章が主人公のスピンオフストーリーがあります。こんなふうに物語の世界が広がっていくのは視聴者・読者も嬉しいのではないでしょうか。


北島 視聴者のために、ドラマの全十話できちんと完結する物語になっていることは必要だと思います。その上で、視聴者や読者が彼らをもっと見たいと思ってくれるならば、さらに広げていきたいですね。



前代未聞の制作システムの理由


──今回、連続ドラマとしては、かつてないシステムを取られています。今村昌弘さんを筆頭に複数のミステリ作家と、講談社を脚本協力に迎えてドラマを作る、というのは前代未聞です。


北島 この理由は明快で、ミステリ映画で大ヒットして傑作と言われているものは、ほとんど原作があるんですよ。それは当然の話で、24時間365日、ミステリ・トリック・謎解きを考えているミステリ作家の方々には、僕たちはどう頑張っても敵わない。ミステリを生み出す能力は特殊技能だと思います。でも、これが映画だったらここまでたくさんの作家さんの力を借りなかったかもしれない。連続ドラマだからこそなんです。せっかく連ドラを作るなら、僕は後世に残るようなものを作りたい。令和時代のミステリドラマと言えばこれだよね、と言われるものを作りたい。そのために一話ごとに違う物語を見せたかったんです。ミステリには、密室トリックやアリバイトリック、叙述トリックなどいろんなジャンルがあって、それぞれを得意とする作家さんがいますよね。その方々に協力いただくことで、毎話が万華鏡のように変わっていくドラマにしたかったんです。


──確かに、ドラマのテイストは一話・三話の今村昌弘さん、二話の藤石波矢さん、四話の周木律さん……と脚本協力された著者によって違います。ワイダニット・フーダニット・ハウダニット、など、みなさん得意とする作風が違いますしね。


北島 それが「ネメシス」の楽しみ方の一つですよね。依頼人が来て、事件の解決に乗り出す、そのフォーマットは一緒なんです。でも、事件現場に行ってみると全然味わいが違う。次に何が起こるか分からない、それが今回の醍醐味だと思います。

広がる「ネメシス」ワールド


──このドラマの続編が作られる際には「私も参加したい!」というミステリ作家さんが増えてくれると面白いですね。探偵事務所ネメシスに依頼人が来るように、「ネメシス」という箱に今度はミステリ作家さんがお仕事をご一緒したいと依頼に来てくれて、新しい物語が生まれれば。


北島 そうですね、小説も映像もどんどん世界が広がっていくと面白いですね。骨子のキャラクターと世界観の軸がぶれなければ、いろんな楽しみ方ができる物語になって欲しい。


──ドラマの撮影現場のお話もお伺いします。主演のお二人、広瀬すずさんと櫻井翔さんの印象はいかがですか?


北島 広瀬すずさん演じるアンナというキャラクターはある意味では、無敵なキャラクターです。快活で、格闘技ができて、推理能力もあって。このキャラクターを全力で演じられるのは、『ちはやふる』の映画でご一緒した彼女しか思いつかなかった。なので企画段階から決めていましたね。


──実際、演じられている姿を見ていかがでしたか?


北島 素晴らしかったです。広瀬さんは、走り方が綺麗で、ダイナミックで、まさにアンナ。運動神経が良くて、健康的な魅力がある、こういう方は人気が出ますね。


──僕たちも制作のメンバーの一員として、第一話のオフライン(編集前の映像)を拝見しました。確かに通常のドラマよりも動きが激しい印象があります。今回はアクションシーンもかなりありますし。


北島 映画もドラマも舞台も経験して、サスペンスからコメディまでこなせて、表現力の引き出しがずば抜けている。それでいて、表現したいことを実現できる運動神経も持ち合わせている。希有な女優さんだと思います。


── 一方、櫻井さんの演じる風真についてはいかがでしょうか。


北島 風真は、一生懸命過ぎて空回りすることもある、だけど可愛げも感じる、人間味が一番あるキャラクターです。それには人間力の表現が重要になる。今回、改めて櫻井さんの出演作を見直して、それらに通底する、命とどう向き合うか、愛する者をどう守るかの資質、それを感じたときに、ああ、風真は櫻井さんしか演じる事が出来ない、と確信しました。



ずばり「ネメシス」の見所は?


──確かに、風真はコミカルな役回りではありますが、軸がないわけではない。みんなに愛されるキャラクターです。そんな役を櫻井さんは自然体で演じられているように感じました。


北島 櫻井さんと風真を重ね合わせて脚本を作っているところはあります。風真というキャラクターが、櫻井翔さんそのものになってくれるといいな、と、できるだけ彼の素を引き出せるように意識していますね。櫻井さんの解決編の「解けない謎もいつかは解ける。さあ真相解明の時間です」から始まる長台詞は必見です。広瀬さんだけではなく、風真も推理中、すごく動くんですよ。それがまた風真のキャラクターになっている。そして、風真が動き出すことで、アンナも動く。そうすると栗田を演じる江口洋介さんも動き出す。それはジャズのライブセッションを見ているようです。そしてそのセッションがサポートキャラたちにも伝播していきます。「ネメシス」の現場でうねりが起きているのを感じます。


──確かに、会話の掛け合いはもちろんですけれども、「ネメシス」は動きが多く感じます。みんな止まってない。


北島 映画的な撮り方ができているんでしょうね。カメラがお芝居を追いかけて行くイメージです。だから役者さんは自由に動ける。それによって躍動感が出ている。なので、通常のTVドラマの三倍動いていると思ってもらえれば(笑)。


──では、最後に連続ドラマ「ネメシス」を楽しみにしている視聴者の方にメッセージをお願いします。


北島 一話ごとが面白いのはもちろんですが、十話を連続して見た人にだけ伝わるドキドキってあると思うんですね。連続ドラマというのはそういうものだと思います。間違いなく楽しんでいただけるエンディングを用意しているつもりなので、期待していただけると嬉しいです。

※本記事は「小説現代」2021年4月号のインタビューを転載したものです。

※インタビュー日時:2021年3月4日

★書籍情報


人気ミステリー作家が手がける小説版『ネメシス』は1・2巻が全国書店にて好評発売中!

【1巻】今村昌弘(購入はこちら!)

【2巻】藤石波矢(購入はこちら!)

【3巻】周木 律(4月15日発売予定)

【4巻】降田 天(4月15日発売予定)

【5巻】藤石波矢(5月14日発売予定)

【6巻】青崎有吾/松澤くれは(5月14日発売予定)

★ドラマ「ネメシス」

・出演:広瀬すず/櫻井翔ほか

・総監督:入江悠

・監督:片桐健滋/岸塚祐季

・脚本:片岡翔/入江悠

・脚本協力:講談社タイガ/今村昌弘/藤石波矢/周木律/降田天/青崎有吾/松澤くれは

・企画・プロデューサー :北島直明

・プロデューサー:里吉優也/次屋尚/田端綾子

・制作会社:クレデウス

・製作著作:日本テレビ

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