エンターテインメントは必要不急

文字数 982文字

 新型のウイルス感染症が世界中に広がったことで、私たちは誰も経験したことのない新しい生活習慣や社会ルールを強いられています。そんな中で急速に広まった「不要不急」の概念——―つまり「どうしても必要というわけでもなく、急いでする必要もないこと」ですが、残念ながらエンターテインメント事業はこの不要不急のカテゴリーに入れられてしまいました。もちろん短期的には娯楽が「急いでする必要もないもの」であることに間違いないのですが、すでに中長期的管理が必要となっている今、果たして本当に「どうしても必要というわけでもないもの」と言えるのでしょうか。

 日常生活や仕事などの様々なことに対して自粛を求め続けられている今こそ、人という知的生命体が心と身体のバランスを保つために、娯楽は必要不可欠なものになっていると私は思っています。最近になってようやく多くの人たちに受け入れられるようになった「推し」という言葉も、広義には「生き甲斐」や「心の支え」といった意味を含んでいると言えるかもしれません。

 そんな状況下で出版された本作のテーマは、収束と幸せです。光文社キャラクター文庫の創刊に選んでいただいた1巻から5巻までに起こった出来事をすべて収束させると共に、読後は世界中の人々が願う最大公約数の幸せを感じていただければという思いでストーリーを構築しました。因果律に従って収束していく主人公たちの姿を最後まで楽しんでいただいた後には、きっと既刊の5冊を読み返して確認しながら、もう一度初めから物語を楽しんでいただけるのではないかと思っています。

 読書は感染拡大防止の観点からすればとても秀逸なもので、人に触れず、人と群れず、人と話さず、ひとりで完結します。それこそがエンターテインメントである「本」にできる、最大の感染症対策ではないでしょうか。



藤山素心(ふじやま・もとみ)
広島県生まれ、東京都在住。第11回HJ文庫大賞【金賞】を受賞して、2018年に『テキトー男の異世界スローライフ』でデビュー。著書に「江戸川西口あやかしクリニック」シリーズ、「おいしい診療所の魔法の処方箋(レシピ) 」シリーズ(双葉文庫)、「亜人さん、今日はどうされましたか?」(HJ文庫)などがある。


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