コロナ禍で出会った自分好みの世界/葉一

文字数 1,866文字

2020年を覆ったコロナ禍では、子どもたちもあたりまえの日常を送ることができませんでした。

そんな子どもたちのために、treeでは7月1日~8月31日の毎日、それぞれ異なる書き手による掌編連載「Story for you」を掲載しました。

このたび、「Story for you」が書籍化されるにあたり、各方面で活躍されている書き手の方に「Story for you」62本の作品の中からお気に入りの2本を挙げて語っていただきました。


お二人めは、教育系YouTuberとして活躍されている、葉一さんです。


★書籍版『Story for you』は2021年3月25日発売!

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葉一(はいち)


わかりやすい授業動画を配信する教育系YouTuber。運営するYouTubeチャンネル「とある男が授業をしてみた」は登録者数130万人を超える。

また、公式サイト「19ch(塾チャンネル)」では2000本を超える授業動画やテキストをすべて無料で公開し、子どもたちや学びたい人たちの学習をサポートしている。

主な著書に『塾へ行かなくても成績が超アップ! 自宅学習の強化書』(フォレスト出版)などがある。

「情熱大陸」などメディア出演や講演も多数。

普段から小説は自分の好きな方の本だけを読むことが多いので、今回、62名の方の世界に触れることができたのはとても刺激的な体験でした。

その上、一つ一つの世界が4ページくらいの短編集なので、とてもカジュアルに読むことができます。今回、このような書評という立場で感想を書かせて頂いておりますが、私自身、活字があまり得意ではなく、飽き性な性格が顔を覗かせることが多いタイプだと自負しておりますが、そんな私でもサクサク読み進めることができました。


その中でも、私が特に好きだった作品を2点紹介させて頂きます。


まず1作品目が一穂ミチさんの「玉ねぎちゃん」です。


コロナ禍で、私たちは「自粛」「検温」など、それまであまり使うことのなかった言葉たちを使うようになりました。その中の一つである「不要不急」と言う言葉。今、この文章を書くためにパソコンで「ふようふきゅう」と打っても一発で変換が出てきませんでした。そのくらい馴染みのないこの言葉がこの物語のキーワードになっています。


不要不急はいつも我慢とセットです。

そして、その我慢を強制されたのは子どもたちも一緒です。それはときとして子どもたちに理不尽に映ったと思います。そんな主人公「わたし」が直面する不安や理不尽、そして父親への苛立ちや甘えといった揺れ動く心模様の描写に心を鷲掴みにされました。「わたし」が数年経ったときに、今の「わたし」を笑って振り返ってくれたらいいな。。。


そして、2作品目がぶんけいさんの「ラジオ体操の幽霊」です。


多くの小説を読んできたわけではありませんが、私自身が惹かれる世界の共通点は「風景が見える文章」だと思っています。もちろん、その見えた風景の中にも好き嫌いがあるわけですが、今回の62作品の中で一番好きな風景がこの作品でした。実は、ぶんけいさんは個人的な知り合いのため、読む前からハードルを上げておりました。ですが、見える風景や文章のテンポがすごく好きだったので紹介させてもらいました。

是非、この続きを読みたいな、ぶんけいさん。


以上、2点の作品を紹介させて頂きました。

冒頭にも触れましたが、この本の良さは62個の世界が詰まっている点にあります。

しかもそれぞれが独立した世界を持っていて似ている作品がありません。なので、どんな方に読んで頂いても、好きな世界がいくつかは見つかるはずです。


特に私自身が学生相手の活動をしているので、学生のみんなに読んで欲しいなと言うのが読了したときの感想でした。「玉ねぎちゃん」の感想でも書きましたが、学生のみんなも多くの我慢を強いられています。そして、長い我慢は心のドアに鍵をかけてしまうことがあります。

そんな方が、この本の世界に触れることをきっかけに鍵を開け、忘れていた気持ちや想いを思い出すきっかけになったらいいなと思っています。

「ネオンテトラ」一穂ミチ(「しょうせつ現代げんだい」6・7合併号)
『腹黒のジレンマ』ぶんけい(KADOKAWA)
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