「大人の求めるZ世代像」への違和感/竹田ダニエル

文字数 2,613文字

文芸誌「群像」では、毎月数名の方にエッセイをご寄稿いただいています。

そのなかから今回は、2020年12月号に掲載された竹田ダニエルさんのエッセイをお届けします!

「大人の求めるZ世代像」への違和感


「竹田さん、アメリカのZ世代って大統領選挙についてどう思ってるの?」


 このような質問を受けるたびに、しばらく考え込んでしまう。自己紹介から始めると、自分は現在アメリカに住むZ世代であり、本業の理系研究と共にフリーランスで米国カルチャーについての執筆や、音楽関連のコンサルタントの仕事をしている。そのため、日本に住む大人から「米国のZ世代の傾向や特徴」についての意見を頻繁に求められる。若者の意見を聞き入れようとする姿勢自体は、いいことだと思うが、単に「ある年代に生まれた集合体」を代弁するだけでは、Z世代の本質は語れない。新たに生まれている「Z世代的価値観」とは何かをまずは理解しなくては、若い世代がなぜ社会に変化を起こしているのか、なぜ彼らの影響力が増しているのかの全貌が見えないのだ。


「Z世代」とは、一般的には1990年代後半から2010年頃までの間に生まれた世代のことを指す。Z世代という単語を聞くと、奇抜な音楽性とファッションが話題の18歳のアーティストのビリー・アイリッシュや環境活動家のグレタ・トゥーンベリ、テニス世界チャンピオンの大坂なおみ選手が思い浮かぶかもしれない。そして「社会に革命を起こす先進的なデジタルネイティブたち」というイメージも、メディアを通じて形成されつつある。さらに日本のメディアが「(特に米国の)Z世代」を取り上げる際に、「多様性」「LGBTQ」「環境問題」「リベラル派」という単語とセットで紹介し、「一方では日本のZ世代は政治に関心がなく、インスタ映えのことばかりを気にしている」と比較する。こうして日本のZ世代に呆れてみせることによって、まるで海外のZ世代が地球の救世主であるかのように、「海外のZ世代から見た〇〇」を当事者から聞き出したがる人が日本では増えたように感じる。マーケティング企業やコンサル会社が「Z世代とは」という概念を資本主義的に作り上げたり、大人の批評家が「〜がZ世代に人気の理由」を勝手に分析したがったり、都合の良い「Z世代の代弁者」を作り上げ、「大人の見たいZ世代像」を押し付けることによって形成される偏見と違和感は増しつつある。


 さらに大きな問題なのが、日本のメディアがいざ日本のZ世代当事者に対して「意見を聞きたい」と言う際には、実際には「面倒なことになるから大人はしたくない鋭い社会批判」や「なんだかんだ言って子供らしい青臭さ」のようなものを頻繁に求め続けることである。多様な価値観が存在することこそが「Z世代らしさ」であるにもかかわらず、「Z世代を代表する意見」というものを欲しがるのは、あまりにも矛盾しすぎている。


 私はそもそも「Z世代」というのは生まれた年月で区切られるものではなく、「社会に対して目を向け、常に自分と向き合い、誰もがより良い社会を目指すべきだという〝価値観〟」で形成される「選択可能」なものなのではないかと考えている。米国でZ世代が「特別な世代」として扱われている理由は、彼らが多様な人種と思想と価値観の人が社会に存在するという事実を、インターネットによって幼い頃から実感している世代だからだ。同時に、今までずっと社会に存在し続け、大人たちが見て見ぬ振りをして解決せず、後回しにし続けた人種差別や環境問題、性差別やLGBTQへの差別のおぞましい実態をスマホの画面上で見られる。それに対して反発する同世代たちの声も簡単に聞くことができるため、「世界中の問題をこれ以上無視することはできない。私たちの世代で変えなければいけない」という使命感を持ちやすいのである。もちろん、Z世代全員がこのようなラディカルな思想の持ち主ではなく、保守的、差別的な思想を持つ個人も多く存在する。そのため、「Z世代は全員こんな感じだ」という偏見を植え付けるような「特徴」を語ることは危険だ。


 では、「Z世代的価値観」とは何か? それは、膨大な情報量と「繫がり」を駆使する能力を持ち、自分たちの世代で物事を変えていこうという当事者意識を持ったことによって生まれた新たな価値観である。今まで分断を引き起こしていた壁を崩壊させ、多様で新しい価値観に誰もがアクセスできる中で、目まぐるしく変化する社会に抵抗するのではなく、前向きに学び合い、受け入れることを可能にする。つまり、世代による情報量のギャップなどが少なくなり、年齢による「世代」で区切ること自体がナンセンスになってくる。そのため、「Z世代」たるものを語る際に、「年代層」を指すのか、「価値観」を指すのかによって、大きな差が生じる。この二つは似て非なるものであり、決して混同してはならないのだ。


 海外のZ世代、そして日本のZ世代を語る上で最も大切なのは「Z世代当事者の経験と声を聞き、Z世代が作る未来の社会に柔軟に対応し、〝Z世代的価値観〟を年齢を問わず取り入れること」なのではないか。若者にモノを言わせることと、受け入れがたい社会の変化にも柔軟に対応する姿勢を持った上で「Z世代的価値観」に学ぶことは全く異なる。日本の若者たち自らが「若い人たちはすごい! 若い人たちは社会を変える!」というメッセージを胸を張って発せられるような社会を形成することに、私は尽力したい。

竹田ダニエル(たけだ・だにえる)

音楽エージェント、ライター。初の著書となる『世界と私のA to Z』が11月に発売されました。

「群像」に「世界と私のA to Z」を連載中です。

『世界と私のAtoZ』(著:竹田ダニエル)
Z世代って何を考えてるの? SNS、音楽、映画、食、ファッション――、Z世代当事者がアメリカと日本のカルチャーからいまを読み解く画期的エッセイ!

◯「弱さ」を受け入れる ◯「推し」は敬意で決める ◯「文化の盗用」って? ◯買い物は投票 ◯「インスタ映え」より「自分ウケ」 ◯恋愛カルチャーの「今」 ◯すべての世代が連帯し、未来を向くには


<Z世代とは?>

1990年代後半から2010年頃までに生まれた世代。デジタルネイティブで、社会的不平等、人種差別、ジェンダー、環境問題に対して関心が高く、変革への意識が強いとされる。


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