美少年と高官との出会いで、失意の日々が一変。注目の中華検屍ミステリー!
文字数 7,814文字
しかし医者として致命的な怪我を負い、実家の医院を手伝うこともできず、生きる意味を見いだせないまま引きこもりながら失意の日々を過ごしていた。
ある日、紅花の姉の鞠花が仕事として検屍に赴いたところ、何やら腹立たしい出来事があったようで……。
慶暦二年九月八日、人口約百万の首都である開封の初秋。まぶしい光が射しこむ街はあまたの店が並び、呼びこみが声を張りあげ、大通りは人混みでいっぱいだ。駱駝の隊商が行き過ぎる道を、子供たちが笑いながら走っていく。都市は陸路だけでなく、水路も発達している。一攫千金を狙う若者たちが旅装束で、瞳をぎらつかせながら集ってくる。城壁の門は見上げるほど大きい。そのうちのひとつ、梁門の近くに、とても繁盛している医院があった。
瘍医(外科医)として戦地で過ごした医聖が大荷物を抱えて帰郷した──噂は、またたくまに江湖(世界)に広がり、各地から突撃する勢いで患者がやってきて、医院をさながら戦場へと変えていた。
窓に戸をかけているのに、街の賑わいが細い光とともに入りこんでくる。
辛い。
薄暗い部屋の寝台で、紅花はひとり膝を抱えてうずくまっていた。寝台の傍らには低い棚があり、埃を被った医学書と木刀が置いてある。
生きているのがこんなにも苦しいものだなんて。
息をするのも億劫だ。いっそとまればと思うけれど、自分の首を絞めるのも面倒で、ただ惰性でやり過ごしている。
どうしてこんなことに、という考えが何度も頭を過る。本当なら、今も父の隣で戦場を駆け回り、患者を救っていたはずだ。まだ助けを求める患者はたくさんいる。紅花と父なら、助けられる命がある。騒々しくて、慌ただしくて、紅花を興奮させる戦場とはうって変わって、今は薄暗い部屋でひとりぼっちだ。
「もうたえられない!」
若い女の嘆き声が、医院のざわめきを一瞬で消しさった。
姉の声だ。美しく、医院の役に立てる、二十七歳の姉。いつだって前むきで、今の紅花になにも言わない。沈みこんでいる自分とは真逆の優しい許鞠花だ。
再び医院からざわめきが響き始めた。
さっきの嘆き声が耳にこだましている。なにがあったんだろう。あんな声ははじめて聞いた。関係ないという気持ちもあったが、知らないふりができなかった。重い体を動かして、なんとか立ちあがった。
部屋を出ると、光が目に痛かった。清々しい風が吹きつける。庭の木の葉が音を立てる。部屋に逃げこみたい、けど、行かないと。紅花の部屋から医院は回廊で繫がっている。回廊の壁に手をつきながら、声のしたほうにむかった。
人がいない医院の裏口から、なかに入る。壺や薬草がある作業場に、鞠花はいない。ならば、待合室のほうか。通路の角を曲がったとき、誰かとぶつかった。ふらついていた紅花は尻もちをついた。
「すまないね」
涼しげな声が頭の上から降ってきた。絹の官服を着た二十代半ばの男だ。紅花は美貌にうろたえて、立ちあがれなかった。まじまじと容姿を見てしまう。背は高く、乱れなく結いあげられた髪は、少し茶色がかっている。西域の血が混じっているのかもしれない。眉の形が整っており、瞳は涼しげで、鼻は高く、薄い唇に微笑みを浮かべていた。凜々しく、端整な顔立ちだ。こんなに顔のよい男は物心ついてからはじめて見た。どうやったらこんな容貌で生まれられるのだろう。
それに、ぶつかったのは男の胸だったが、適度に筋肉がついていて、張りのある体をしているとわかった。顔だけでなく体にも恵まれている。
大きくって、逞しくって、羨ましい。
それによい匂いもした。
紅花にはないものばかりだ。
見られるのに慣れているのか、紅花の反応になにをするわけでもなく、男はそのまま通り過ぎて、医院の奥へとむかっていった。許希に話でもしにきたのだ。
「びっくりした」
紅花は胸を押さえてから、壁に手をあてて立ちあがった。男の容姿を思い出すと、芸術作品を見たときのように圧倒された。だからだろうか、助け起こそうともしなかったことを、無作法だとは思わなかった。
使用人に間違われたかな。
紅花はぼんやりと歩いて待合室にむかった。
ひしめきあって床に座る患者のなかに、女性が腕を組んで立っていた。桃色の縁のついた白い対襟の上着に、薄緑色の褲を穿いている。動きやすさを重視した簡単な衣服だが、それを着ている人物の容貌には天女と評される美しさがある。上品な眼差しに、通った鼻筋、唇は艶やかで、見る者を虜にする。体だけでなく、心までも救われる心地になる者も少なくないはずだ。大好きな姉だ。
だが、今は情けなさそうに、くっと唇を嚙みしめている。そんな顔ははじめて見た。紅花の胸は苦しくなった。
困惑している患者たちのあいだを縫って、紅花は姉に近づいた。
「なにがあったのですか。どうか私に何でも言ってください」
「紅花。……来てくれたのね」
姉の許鞠花が目を見開き、それから微笑みを浮かべた。まわりの患者から恍惚の息が聞こえる。美しいが、無理して笑っているんじゃないか。
心配だと口にしようとしたとき、患者たちが自分を見ている視線に気づいた。突然あらわれた紅花を、何者だと思って怪しんでいるのだろう。
芳潤な天女を思わせる姉とはちがって、紅花は小柄で細身で実年齢よりも幼く見られる。戦場でも、はじめの頃は「こんな小娘に任せられるか!」と反発にあった。だが、次第に信頼を勝ち得るようになった。治療を受けた兵士が紅花のことを、仲間たちに「外見に惑わされるなよ」と紹介してくれた覚えもある。
この街ではどうだろう。同じように「小娘」だと思われているにちがいない。戦場とちがう点は、今の紅花にはその印象が覆せないということだ。
「会えて嬉しいわ。……ああ、勢いでつい帰ってきてしまったけれど、やっぱり検屍に戻らなくては……ごめんなさい、心配をかけてしまって。もう大丈夫よ」
鞠花が紅花の肩にぽんと手を置いて、医院を出ようとした。
検屍に行っていたのか。紅花にも状況が吞みこめてきた。
医師である姉がたまに引き受ける臨時の仕事を思い出す。
通常、検屍は役人の仕事だ。検屍官(文官)が受け持つ。だが、検屍官は学問に優れていても、人体の知識には、疎い。よって、司法局は、医師や葬儀屋に検屍助手を依頼するのが常だ。
紅花の右手は勝手に震え始めた。
「お待ちください。なにも話してくださらないのは、私の手が思うように動かないからですか?」
「いいえ、そういうわけではないの」
鞠花が、紅花の右手をそっと手で包んだ。
「今も震えているわね」
「忌々しい手です」
あの日から、患者の患部を切りとる刃物を持ったとき、家事手伝いで熱い鍋を持ちあげたとき、自分の無力さに落ちこみながら眠りにつくとき、紅花の右手は気まぐれに震えるようになった。
なんとかなると思いたくて、鍼や投薬を試したけれど効き目はまったくなかった。自分の手が、自分の思いどおりにいかないという事実を受けいれるのに時間がかかった。
利き手が不自由なままでは、瘍医にも軍人にも、なれはしない。
そんなことは認めたくなかった。けれど、事実なのだ。
紅花は泣いた。布団に顔をうずめて叫びまくった。どうして自分にそんなことが起きるのかと吠えた。天に祈り、やがて天を怨んだ。腹の深くに黒い塊が生まれ、それが次第に巨大化していくような感覚がした。どうにもならないという事実を受けいれたくなかったが、最後には絶望した。
人の役に立てないのなら、生きている意味などない。
慌ただしい医院で働く家族の顔を見ているのも辛くて、部屋に引きこもった。扉は内側から鍵をかけた。食事は扉の外まで運んでもらっている。用を足すときは厠にむかうが、扉に耳をあて、外に人の気配がないのを探り、声をかけられないように気をつけながら部屋を出る。
惨めだ。けれど、どうすることもできない。
命を断てば、父母や姉が悲しむことはわかっている。
「小さい頃から頑張ってきたものね。父上の学問所に通いながら、武術教室も学びに行って、家に帰ったら患者さんの治療にあたって。毎日この手を酷使してきた」
「必要だったからです。無茶なんかしてません。それなのに、この手が、私を裏切るなんて!」
毎日、国の民を守るために戦い、救うために治療してきた。紅花は、他人に、生きる意味を持てなどとは思わない。生きているだけで尊いのだと言ってきた側だ。
けれど、いざなにもできなくなってみると、途端に、自分の存在が疎ましくなった。時間をかけて悲しみの肉をゆっくりと溶かしていったら、なかから絶望という名の骨が姿を現した。
そんな紅花にとって、鞠花はまぶしすぎた。医院での仕事だけでなく、公的な検屍までこなしている。誰からも頼りにされ、その期待に応えている。
私とはちがう。暗がりに引きこもるしかない、役立たずの私なんかとは。
「あなたは二年も戦場で暮らしてきた。だから、たくさん死体を目にする機会があったでしょうね……」
姉は二十七歳だ。姉妹は十歳年齢が離れている。離れていたあいだに、お互いずいぶんと変わってしまった。
「そのとおりです、もし死体の異変であれば、私にも、……きっと、わかります」
役立たずでも、姉の助けになりたい。そうでなければ、本当に自分はこの医院のお荷物だ。
紅化はじっと鞠花を見つめた。もし、目をそらされたらどうすればいいか、わからないのが怖かった。
「ちがうのよ。問題は、髑髏真君なの」
「何者ですか?」
髑髏の真君(仙人)とは禍々しい呼びかただ。美しい姉の口から出るとも思えない。
「知らないのね? とんでもない変人、……いえ、会ったほうがわかりやすいわね。私の代わりに行ってもらおうかしら。紅花、頼りにしてもいい?」
紅花はほっと体の力を抜いた。
「もちろんです。どうか、頼りにしてください! それでその──髑髏真君と、どのような問題があったのですか?」
「検屍結果についてよ。言いがかりをつけられたの」
「まさか、姉上の判断に?」
「そうなの、それも大勢の前で! ああ、今思い出しても悔しい。いっそひっぱたいてやればよかった!」
なるほど、事情がわかった。それで姉は用ずみと帰されたのだろう。むかむかしてくる。
「それでは、その死体を、私が再検屍すればよいのですね?」
私にも、医師としての経験がある。
「ええ、髑髏真君のおかげで、司法局は再検屍を命じたから。でも、私には、江湖で最も美しい死体よりも、診なければならない生者が、たくさんいる」
「江湖で最も美しい死体、とは?」
「その言葉どおりの意味よ」
「死体だけれど、別格に美しいというわけですね」
「そう。不謹慎な言いかたかもしれないけれどね。とにかく、私は生きている患者さんを診てあげたいのよ」
力強い言葉だった。紅花は鞠花を羨ましく思った。患者は、利き手が使えなくて雑用すらできない紅花より、治療もできる鞠花を必要としている。
紅花は右手を引っ搔いた。赤い線が肌に浮かんだ。
この手さえ思うように動くなら、医院の仕事を手伝えるのに。
「舟は私が戻るまで待っていると言っていたわ。紅花、行ける?」
「ええ、もちろん」
紅花は鞠花とともに家屋から出た。
〜中略〜
これまで部屋にこもっていた日々から、一歩踏み出す。
戦場にむかうときよりも心細かった。躊躇いを感じとったかのように手まで震え始めて、泣きたくなった。
弱いままでいたくない。誰かの役に立ちたい。さっきまで、そう思えたはずだった。
今や役立たずの手しか持たない自分に、果たしてそれができるのだろうか。
「今の私は医院のお荷物ですが、……お荷物なりに頑張ってまいります」
「紅花。そんなことを言うのはおよしなさい」
姉の手が紅花の右手を握った。
「手の震えは、戦場で射られた後遺症なのよ。あなたは私の大切な妹。医院のお荷物だなんて、あなたにだって言わせないわ」
麗しい顔に、鋭い眼光が宿る。美しいだけではなく、鞠花は強い女性だ。どきりとした。
父親が戦場にむかうと決まったとき、助手として、紅花が選ばれた。鞠花も望んでいたが、婚約者がいるので同行はできなかった。
父と妹が戦場にいるあいだに、鞠花はさらに綺麗になった。華やいだ表情は、まぶしい光を浴びていっそう美しく輝いている。
「あなたにはできるわ。きっと、ええ、何だって! 私は知っている、だから心配はしなくていいの」
姉の強さをまぶしく思う。その一方で自分を振り返ってしまい嫌になった。でも、ここで姉のためになりたいのは本当だ。笑顔を作った。
「わかりました」
「まずは、私の代わりに髑髏真君をへこましてきなさい。手加減なんていらない相手よ、思う存分にやればいいわ!」
紅花は笑った。姉のように自然に笑えているとは思えない。久しぶりだから、ぎこちないものになっているはずだ。
まずは、江湖で最も美しい死体だ。
そもそも、美しい死体とは何だろうか。容姿だろうか。それとも殺されかただろうか。
「いってらっしゃい」
「はい。全力を尽くします」
紅花は二ヵ月ぶりに家から出かけた。
まさかこの先に、人生を変える出会いが待っているなんてーー!
「なにが検屍官だ、笑わせる! やはり、ぼくが正しいぞ!」
嵐のような人影が、妓院のなかから前庭に飛び出してきた。
眼光が異様に鋭い。年頃は紅花と同じくらいか。その人物は高らかに笑いながら、立ちつくす官吏たちを、言葉の鞭で容赦なく打った。
「貪った金でぶくぶくと太り、瞼さえも開けられないほど肥えたか、猪元猛。この金豚め!」
ふいに雲間から銀月が姿を現すような、絶妙な美しさがそこにはあった。
紅花よりも頭ひとつ背が高く、細身だ。その体は、繊細な刺繡の施された絹の衣を身につけている。日常で使うには考えられないほどに質のよい高級品だ。
外見だけを見れば、紛うかたなき良家の坊ちゃんだ。艶めく黒髪に、日にやけていない白い肌、通った鼻筋に、紅色の唇を持つ。女だと言われたら、信じてしまいそうなくらい綺麗だ。
だからこそ、紅花は耳を疑った。まるで容貌に似合わぬ言葉の暴力が、形のよい唇から滑らかに飛び出してくる。
「高九曜よ、目上の者に対する礼儀作法がなっておらぬぞ」
肉団子を潰したような中年官吏が、高九曜と呼ばれた人物を窘める。すると、傍らにいた痩せた官吏が、全身を震わせて怒りを爆発させた。
「猪殿を、ぶっ、ぶぶっ、豚などと! なんたる失礼な物言いだ。おまえが検屍の場に出入りできておるのは、開封府長官の配慮ゆえ。我ら官吏は認めてはおらぬのだぞ!」
感情を破裂させた喚き声だ。だが、九曜をとめる効果は微塵もなかった。
「うるさい、黙れ、石英! その石頭にできる、最善の行動を教えてやろう。今すぐに呼吸をとめろ!」
「なんだと!」
「初検屍を金豚に担当させ、再検屍に石頭をよこすとは、開封府はよほど人材に恵まれておらぬのだな!」
蛇蝎か蚰蜒を見るような目で、九曜が石英を笑った。
あっけにとられた紅花は、一歩も動けずに九曜を眺めた。
容姿は整っている。けれど、自信家らしい傲慢さと、よく切れる刃物のような鋭さが混ざった表情は、他者の好意をよせつけない。
これは、とんでもない現場に来た。思っていたよりも、はるかに苛烈だ。想像を超える状況にいっそ笑いがこみあげてくる。紅花は遺体に目をむけ、あらためて九曜を見つめた。
間違いなく、この人物が髑髏真君だ。左腕には、髑髏をしっかり抱えている。
なぜ、髑髏を持っているのか。見当もつかないが、だからといって、知りたいとはつゆほども思わなかった。九曜こそが、鞠花を憤激させた最大の原因だとは、容易に想像がつく。
ならば敵だ。これからこの青年と戦って、真実を明らかにせねばならない。
「年相応だと思うと、痛い目に遭うよ。中身は、まるで嬰児だから」
白雲が耳元に囁いた。誰とは言わなかったが、目の前の九曜のほかに誰がいるのか。
「初検屍は誤りだ。化粧台の爪屑は、蛍火の爪ではないだろうが!」
九曜の言葉に、紅花は苛立った。喚き散らす口を縫いつけてやりたい。
誤りなんかじゃない。鞠花の仕事ぶりはよく知っている。どんなに不本意な仕事だとしても、手は抜かない。
姉の正しさを証明したい。すぐに、検屍にとりかかりたい。妓院の前庭の中央には、遺体が置かれている。しかし、蓙に包まれて、姿は見えない。
今すぐ近づいて蓙を剝ぎとってやりたかった。爪とはいったいなんのことだ。九曜と官吏は、激しい応酬を繰り返している。
「もしや、わざわざ、繫ぎあわせたのか?」
石英が、化け物でも相手にするような目つきで言った。
「繫ぎあわせるとは、何だ? まさか、爪か! ああ、まったく、正気か石英。誰の爪かなど、見ればわかるだろう!」
紅花は、ちらっと己の爪を見た。
「爪屑だぞ。どうして爪屑から、その持ち主がわかるのだ」
九曜が驚嘆の叫び声をあげ、頭を押さえて地団太を踏んだ。
「なぜわからない! 頭を使えよ凡愚ども! すべてはこの綺麗な爪が教えているではないか! 金を貪るしか能力がない無駄飯食いの豚なら、検屍官など早く辞めてしまえ。開封府長官、ひいては民のためにもな!」
荒ぶる九曜に、石英が顔をしかめる。
爪でわかると喚いているが、その着眼点は非凡だ。
きっと、天才か異常者のどちらかだ。
「長くなりそうだから、検屍、できるところから始めちゃってよ」
白雲に肩を叩かれて、紅花は我に返った。
「わかりました。──お二方、失礼いたします」
声をあげると、男二人の視線がむけられた。誰だおまえは。どちらの目もそう問いかけてくる。
「私は許鞠花の妹、紅花と申します。姉の代理としてこのたびの再検屍に遣わされました」
いつまでも事態をただ眺めていてはだめだ。部屋のなかに閉じこもっているのと変わらない。
「仕事を始めてもよろしいでしょうか。このままでは遺体が朽ちてしまいます」
ここは戦場だ。そう思え。姉の仇を討つためにやってきたのだ。だとしたら、けっして負けてはならない。
九曜は腕を組み、地を踏みしめている。苛立ちが体からあふれてどうしようもないと言った様子だ。石英が宥めているが、効果はない。
不機嫌な九曜の横顔は、整っているからこそ凄みがある。
外見はすごく整っているのに、内面は扱い辛そうな人だな。
紅花はちらっと九曜を見つめてから、微笑みを作った。
「よろしいですね? では、これより始めることとします」
ひどい震えがきませんようにと祈る気持ちできっぱり口にした。
爪の推理を聞き、その見事さに感嘆しているとーー自分を受け入れてくれた紅花のことを、九曜が気に入ってしまった!
引きこもりの毎日からは想像できない、波瀾万丈な日々が始まる……!
続きは、講談社タイガ『唐国の検屍乙女』(著・小島環)でお楽しみください!!
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