第59回
文字数 2,452文字
コロナウィルスが蔓延したことにより、「コロナ鬱」になってしまった人が結構いるらしい。
コロナに対する不安やそれを巡る人々の諍いで精神的にまいってしまった人も多いと思うが、外出自粛による運動不足、暴飲暴食などによりまず体調を崩し、それが精神にも及んでしまった人もかなり含まれると思う。
さらに外出自粛生活をすると当然「日光を浴びる時間が少なくなる」。
前回も書いたが、人間は日光を浴びることで脳内に天然合法シャブがキマり、ハイになれるらしい。
逆にいえば、日光を浴びないと、シャブが切れてダウナーになってしまうのだ。
人間は基本的に昼行動するように造られた生物なので、それに反するのはやはり体に良くないようだ。
それにも拘らず、人間にはなぜかわざわざ昼夜を逆転させて健康を害す個体が、割と高確率で現れる。
他の生物だったら「昼型のフクロウ」など滅多にいないはずだ。
やはり人間というのは、動物の中でも生きるのがダントツに下手な気がする。
しかし、夜働かなければいけない人もいるし、そういう人たちのおかげで我々の生活が成り立っているのも事実である。
それに対し、何の使命もなく昼夜逆転しがちなのがひきこもりだ。
ひきこもりというのはまず昼夜が逆転し、次に曜日感覚がなくなり、季節を見失い、最終的に年単位で記憶が飛ぶようになる。
ただし最近は、ソシャゲのおかげで季節だけは見失わないひきこもりも増えてきている。ソシャゲというのは刀剣乱舞以外、水着やクリスマスなどの季節イベントを欠かさないからだ。
つまりひきこもりは生活リズムや体調を崩しやすく、さらにそこからメンもヘりやすいという悪循環に陥りやすいのである。
よって、社会復帰する予定、もしくはひきこもったまま健康的に生きたいと思うなら、むやみに時空の旅人にはならないほうがいい。
そもそも、何故ひきこもりは昼夜が逆転しやすいかというと、まずやることがない、もしくはやる時間が決まってないからだ。
人間はいくら昼型といっても、朝スッキリ起きられるという人間は少数派であり、多くはクソネミ、もしくは目覚ましより3時間ほど早く目が覚めてしまい、再びウトウトするころには起きなければいけない時間でやはりクソネミ、という初老である。
それでも何故嫌々起きるか、というと定時に学校や会社に行ったり、もしくは行くふりをしてハロワや公園に行くという、やらなければいけないことがあるからだ。
学校や仕事がなくても、家族の弁当を作ったりという役目があれば起きる。
逆にいえば、役目がなければ起きないし、むしろ起きる意味がない。
よって、好きな時間まで寝るようになるので、まず起きる時間が不定期となり、そうなれば寝る時間も定まらなくなってしまい、気づいたら世間と時間の流れが半周ぐらい周回遅れになっているのだ。
私も無職になってから、寝る時間がかなりフリースタイルダンジョンになってしまっているのだが、それでも朝は夫の朝食を作ったりするので決まった時間に起きて、決まった時間に二度寝をブチかますという規則正しい生活を送っている。
これがもし、一人暮らし、もしくは夫が全部自分で支度して音もなく出勤していくようだったら、完全に昼夜逆転しているだろう。
しかし、そうだったとしても朝、会社というサバトへ向かう夫の手前、起きるだけは起きるような気はする。
実は昔は、二度寝も夫が出ていくまでは我慢していた。
よって、何一つやることがないひきこもりでも、同居家族と繋がりがあればある程度それに合わせて生活するため、そこまで昼夜が逆転しなかったりする。
逆に家族と関係が悪いと、家族を避けるため、家族が寝ている時間に活動しようとするので余計夜型になりやすい。
もしかしたら、家族の方が先に夜活動するようにすれば、ひきこもりの昼夜逆転を封じることができるかもしれないが、それはそれで新しい問題が生まれそうな気がする。
もちろん家族と不仲なら、極力顔を合わせないように部屋からも余計出てこなくなってしまう。
このように、ひきこもりの改善には家族関係が大きく作用する。
家族がひきこもりになった時、早く社会復帰させようとして家族仲が悪くなるれば、ひきこもりも悪化してしまう可能性が高い
もし、ひきこもりの家族が「一人暮らしがしたい」と言い出したら、それは自立の兆しではなく、目障りな家族の目を離れてのびのびひきこもりたい、ということなので許可しない方がいいという。
そしてひきこもりが昼夜逆転しがちなのは、家族に会いたくないのもあるが、社会の皆さまの視界に入りたくない、というのもある。
仕事や勉強に励む皆さまの前に、自分のような何もしていないひきこもりがノコノコ姿を現したら申し訳ない、という気持ちがあるのだ。
だがそれだと社会から余計遠ざかり、ビジュアル的にも世間に顔向けできない度が上がってしまうのだ。
やはり「己を恥じる」ことから社会や他人との断絶ははじまる。
たとえ何もしていなくても、この国に住んでいる以上、自分には健康で文化的な生活を送る権利があるということを忘れてはならない。
しかし、忘れないようにその条文をブツブツ言いながらコンビニとかに行ったら、本当に近所で恐れられる存在になってしまうので、心の中で復唱しよう。
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。長州出身の維新派。漫画作品に『クレムリン』『アンモラルカスタマイズZ』『ニコニコはんしょくアクマ』『やわらかい。課長 起田総司』『ヤリへん』『猫工船』『きみにかわれるまえに』。エッセイに『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』『猥談ひとり旅』『非リア王』など。現在「モーニング」で『ひとりでしにたい』連載中&第1巻発売中。最新刊『きみにかわれるまえに』(日本文芸社)も発売中
★次回更新は6月18日(金)です。