「群像」2023年5月号

文字数 1,629文字

〈書き手の意図じゃなくて、執念で作品をエクストリームなものにまで持っていけば、作品じたいが別の場所にあるエクストリームなものを召還できるようになると思う。何を題材に書くにしても、そうなればいいなと思っているし、そのために最初から最後まで全部を見てやる、それから誰にたいしてなのかこれも謎なんだけど、見せてやるんだという思いで書いているような気がする〉(「エクストリームで個人的なものとしての文学」より)


 今号の「特集・川上未映子」では、最新作『黄色い家』を軸に、川上さんの文学世界を解剖しています。大澤聡さんによるロングインタビュー、小澤英実さんの書評、「ニューヨーカー」と「ニューヨークタイムズマガジン」に掲載された記事を上田麻由子さんと小澤身和子さんにそれぞれ翻訳していただいた、重厚で読み応えのある特集となりました。


◎今号巻頭は、松浦寿輝さんの新連載「B」。会議って、いつも頭のどこかで別のことを考えてしまいますよね……。


◎新連載はもうひとつ。青葉市子さんの「星沙たち、」。過去でも未来でもない情景のかさなり。メモワール。


◎創作は川上弘美さん「栃木に飛んでいく」。本作を含めた作品集は、今年単行本化予定です。


◎シンガーソングライターのSIRUPさんと、単行本『世界と私のAtoZ』が各所で話題の竹田ダニエルさんによる対談「私たちにとっての音楽、言葉、世界」をお届け。


◎石田夏穂さんの中篇「我が手の太陽」を一挙掲載。今回の主人公は溶接工です。


◎批評は、安藤礼二さんの連作「空海」。


◎松村圭一郎さん『旋回する人類学』の単行本化にあわせて、松村さんのエッセイと猪瀬浩平さんのロング書評をお送りします。


◎浅田智穂さんの「article」。インティマシーコーディネーター、ご存じですか?


◎「本の名刺」は、稲泉連さん、木村紅美さん、鴻上尚史さん、千葉一幹さん。


◎NHK Eテレ「100分de名著」とのコラボ企画、増村十七さんのレポ漫画「100分de名言を求めて」が久々に戻ってきました。今月は本誌でもおなじみの若松英輔さんによる『新約聖書 福音書』。


◎阿部公彦さん「事務に狂う人々」、高原到さん「復讐戦のかなたへ―安倍元首相銃殺事件と戦後日本の陥穽」、皆川博子さん「辺境図書館」、松浦寿輝さん、沼野充義さん、田中純さんの「二〇世紀の思想・文学・芸術」が、それぞれ最終回を迎えました。


◎第66回群像新人文学賞の予選通過作品を発表しています。最終選考結果は次号発表予定です。


 大江健三郎さんが逝去されました。15人のみなさんに追悼文を、奥山紗英さんには追悼詩をお願いしました。いずれも大江さんや大江作品を通した自画像ともとれるようなすばらしい文章です。ありがとうございます。私は94年に大江さんがノーベル文学賞を受賞されたときに、『個人的な体験』と『日常生活の冒険』で、はじめて大江文学にふれました。内容にも文体にも衝撃を受けましたが、何より大江さんの作品と「ともに在る」ことがうれしくて、いつも鞄に文庫本を入れていました。長じて就職の際、大江さんの生み出すような「文学」とともに在り続けたいと思い、出版社に入りました。まだいまも、呆然としています。大江さんとの個人的な体験は、今回追悼をお願いしたみなさんにかぎらず、世代を超えて、多くの人にあるのではないかと思います。そしてみなさんのリ・リーディングが、もうすでに始まっているはずです。「群像」では、これからも大江作品のリ・リーディングを続けていきます。謹んでお悔やみを申し上げます。

 今号もどうぞよろしくお願いします。

(T)



〇投稿はすべて新人賞への応募原稿として取り扱わせていただきます。なお原稿は返却いた

しませんので必ずコピーをとってお送りください。


〇石戸諭氏、川名潤氏、三木那由他氏の連載、SEEDS、創作合評は休載いたします。

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