第2回『レイトショー』/マイクル・コナリー

文字数 1,642文字

「猫」と「音楽」、そして「海外小説」を愛してやまないtree編集者・茶屋坂ねこ氏による、

海外小説入門のすすめ『左綴じ書評』!


第2回の今回は『レイトショー』(マイクル・コナリー)です。

80年代、「女性作家」が「女性主人公」の作品を「女性読者」想定で書いた小説が次々と刊行され、「3F」と呼ばれるムーブメントを生みだしました。


代表的な作品だと、サラ・パレツキーのヴィクことV・I・ウォシャウスキーシリーズや、スー・グラフトンのキンジー・ミルホーンシリーズなどでしょうか。


彼女たちの、権力や暴力に怯まず堂々と立ち向かい、強い意志をもってボロボロになりながらも犯人を追い詰めていくタフな姿は、それまでのミステリ・サスペンス小説における、どちらかといえば男性主人公のお飾りや世間の「女性」というイメージを演じる道化役が多かった女性像とは違って、クールでかっこよく、読んでいて心躍ったものです。

そして21世紀も令和に突入した現在(いま)、熱き正義感溢れる刑事ハリー・ボッシュや一匹オオカミの「リンカーン弁護士」ミッキー・ハラーなどタフな男を描いてきたマイクル・コナリーが、ついにタフな女性主人公を送り出してきました。


その名をレネイ・バラード、LAPD勤務の34歳。

レネイはハワイ出身、ロス市警ハリウッド分署の別名「レイトショー」と呼ばれる深夜勤務担当刑事。


それは深夜の通報をうけたら現場に向かい初動捜査するものの、朝が来れば報告書を作成して、しかるべき捜査担当班に引き継いでおしまい──という役目。事件の「解決」までは担当しないのです。


このシフトは市警の政治と官僚主義と衝突した警官に「罰」として言い渡されるのが普通で、実はレネイも以前の上司をセクハラで訴えたものの、証言してくれるはずのパートナーが自己保身に走って土壇場で裏切ったため、「レイトショー」に左遷されるハメに陥ったのです。

そうなってしまったら、くさってテキトーに仕事をしそうなものですが、レネイ姐さんは違います。

ある夜、レネイはクラブでの銃による殺傷事件とトランスジェンダーの売春婦が瀕死の状態で発見された暴力事件と、二つの事件の通報を受け駆け付けます。


現場を見た彼女の刑事としての勘が、二つの事件は見た目通りではないと告げていました。そこで、こっそり独自に二件とも捜査を続けることに。彼女が水面下で何やら怪しい動きをしていることに気づいた元上司(セクハラ野郎)や、現上司(ことなかれ主義)に注意されながらも、捜査をやめる気のないレネイ。


そして周囲を怒らせながら、犯人と対峙し文字通り満身創痍のボロッボロになりながらも見事事件を解決に導いていくのです。

こうした彼女の行動に、「自己中心的すぎる」「いくらなんでも無茶しすぎ。こんな女性刑事はいない」などと言うむきもあるようなのですが、いやちょっと待ってくださいよ、ハリー・ボッシュだってミッキー・ハラーだって相当自分勝手な男では? かなり無茶もしていますよね……? ……男性だとそうした無茶無謀も「評価を気にせず男らしい」とか言われるのですから、ここは少し大目に見てあげてほしいものです。

とはいえ、もう令和。体を張った調査はサラ・パレツキーのヴィクさんがすでにやってくれましたし、21世紀の女性主人公にはもう少し違うところも期待したいものです。

今回はシリーズ第1作ということもあって、物語的にはいろいろ盛沢山すぎで若干とっ散らかってしまった印象がありますが、新主人公としてのレネイ姐さんの存在感と魅力はまずます、といったところでしょうか。


なんにせよ、こういう女性主人公をマイクル・コナリーが書いたというのが面白いなと思います。これからのレネイ姐さんの活躍を大いに期待しています。

(Writing by 茶屋坂ねこ)

tree 編集部編集者、翻訳本を中心に面白かったものをどんどんご紹介していこうと思います。

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