「危険な賭け〜私立探偵・若槻晴海〜」/阿津川辰海

文字数 1,766文字

イラスト/国樹由香
二匹の保護犬と暮らす、漫画家の国樹由香さんが、そのあふれんばかりのわんこ愛をそそぎ、紡いでくださる大好評連載「いつも犬(きみ)がいた」

同業のパートナー、喜国雅彦さんとの共著『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』第17回本格ミステリ大賞受賞をしている国樹さんが、「犬の出てくる面白い小説」をネタバレなしで紹介してくださる大好評連載の第26回目は、阿津川辰海さん「危険な賭け〜私立探偵・若槻晴海〜」(『入れ子細工の夜』所収)です!

 今更ですが、国樹は本が好きです。大好きです。
 同業の我が連れ合いはというと書痴(ビブリオマニア)の域であり、昭和初期の探偵小説コレクターでした。それらの本を必死で集めるエッセイを「本棚探偵シリーズ」として4冊書いたほどに。

 そんな彼も3年前の引っ越しを機に、1万冊を超えていた蔵書を思い切って減らしました。とはいえ本好きは不治の病ですので、今現在は別ジャンルの本をウキウキと集め出している始末。

 余談のような前置きを書いたのには理由があります。
 今回ご紹介するのは阿津川辰海さんの短編集『入れ子細工の夜』に収録されている「危険な賭け〜私立探偵・若槻晴海〜」(光文社)。こちらを語るにあたり、本好きについて言及しておきたくなりました。

 物語は私立探偵の若槻晴海(わかつきはるみ)が、牧村真一(まきむらしんいち)という男の足取りを追うシーンから始まります。

 牧村はとある殺人事件の被害者でした。彼が犯人検挙に繋がる「何か」を持っていたことに気付いた若槻は、喫茶店のマスターを皮切りに、聞き込みをして歩くのです。
 それぞれのやりとりは実に小粋で、巧みな文章からキャラクターの容姿や性格がありありと浮かびます。コロナ禍の話なので、登場人物たちがマスクをしていることに今を感じました。

 この連載で取り上げるということは当然犬が出てきますが、それ以上に注目してしまうのは本好きにはたまらない古本屋が何軒も出てくるところです。もしかして、あの店がモデルかな? それともあちら? というくらいのリアルさで。
 店構え、本の選び方、店主とのやりとりに至るまで、既視感に包まれることこのうえなしでした。我が連れ合いがさんざんやってきたことですから。

 物語内でふれている実在本も興味深いものばかりです。驚いたのは、聞き込みで立ち寄った古本屋での「犬の出てくる本」フェアのエピソード。
 その中には私がこの連載で紹介した本も何冊か入っていたのです。かなりのビブリオマニアとお見受けする阿津川さんと、国樹の選んだ本が同じだなんて。なんとも誇らしい気持ちになりました。

 あとがきによると憧れのハードボイルドに挑戦してみたそうで、結果としてハードボイルドとして成功しているだけでなく、本格ミステリとしても楽しめ、とても素晴らしい読書体験となりました。若槻は「何か」を見つけて、犯人を捕まえることが出来たのでしょうか。真相に辿り着くまでの仕掛けの数々にうならされます。

 ところで肝心の犬はどこに出てくるのか、気になりますよね。予想外の登場をしますので、是非お読みになり「そういうことか!」と激しく頷いてくださいませ。
 読了後は皆さまもきっと国樹同様、古本屋に駆け込みたくなること間違いなしです。
イラスト/国樹由香

国樹 由香(クニキ ユカ)

漫画描き。近年はエッセイも手がけている。ミステリとメタルと空手と犬が大好き。代表作に『こたくんとおひるね』『しばちゃん。』『犬と一緒に乗る舟』など。講談社文庫では、共著のメフィストの漫画』などがある。2021年、極真空手参段に昇段。メタルDJもこなす。2017年に『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』(喜国 雅彦と共著)で第17回本格ミステリ大賞受賞。


公式ツイッター→https://twitter.com/kunikikuni
公式インスタグラム→https://www.instagram.com/kunikikuni/

国樹さんちの愛犬たち、今日も仲良くお散歩です!
金時(きんとき)
黒白のMIX犬/11歳/甘えん坊なシャイボーイ(怪我治療中)

「かんな、ついてきてる?」

柑奈(かんな)
茶色のMIX犬/9歳/自由に生きるおてんば姫

「おはな、きれいね」


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