〈乱歩賞原稿募集企画1〉予選委員・編集部員らによる特別座談会

文字数 7,640文字

江戸川乱歩賞の選考の裏側から待望する作品論についてまで、編集者たちが語ります。

〈企画2〉では予選選考委員への緊急アンケートもあり!

「年齢は若い方が有利」「締切直前は激戦区」「紐綴じの方が印象が良い」──。


デビューを夢見て原稿執筆に励む投稿者の皆さんの間には様々な噂があると聞きます。ひとりで原稿に向かっているときにどうしたらいいか迷うことも多々あるでしょう。そんな疑問、不安に乱歩賞の予選を担当する評論家と編集部の面々がお答えします。近く本年度の江戸川乱歩賞受賞作も刊行され、来年の応募締切にむけてモチベーションを高めているいまこそ、参考にしてください。


乱歩賞の応募要項など詳しくはこちら

応募の基本編「応募要項を確認しよう!」

Q 原稿体裁って選考に関係ある?


A 規定通りなら問題ないです。

江戸  乱歩賞は歴史の長い賞だけあって、そもそも手書きしかない時代から応募要項を少しずつ変えてきたせいか、枚数の規定が複雑ですよね。申し訳ないです。いま改定を検討中です。


   いまはほとんどの人がワープロ原稿だと思うので要項にあるとおり「一行30字×40行で115~185枚」の範囲でしたら問題ないんですよね。四百字詰めに換算すると枚数オーバーになってしまうと問い合わせをいただきますが、ワープロならワープロ換算でいいんですよ。


江戸  規定には「必ず一行30字×40行」とありますが、意外に守ってない人、多いです。


  WEB応募の原稿はほぼプリントせずにiPad等で読んでます。だから一行あたりの文字数が40字を超えると単純に読みづらいですね。


  わかります……あらゆる体裁を無視してぎっちり詰まっている原稿は読みづらいんですよね。逆に20字×20行などの余白でぱらぱらしている版面も集中しにくい。


江戸  中途半端な行数指定をすると応募者を混乱させてしまうから、A4横位置にしたときに一番読みやすい切りのいい数字である30字×40行にしているんですよ。ああ、あとWordの原稿用紙フォーマットに流し込んでいるのも読みづらいですね。あの升目の……。


  文字の級数が極端に小さいのも気になるんですよね。まあこれは私が老眼なだけですけど、10級以下はしんどいな。


  とても細かいことを言えば、30字×40行にするときも、Wordのデフォルトになっている版面(本来は40字×40行)のまま30字に変更すると字間が空いて読みづらくなるんです。だから天地を調整してくれると嬉しいけど、Wordを使いこなしているかどうかを確認するための賞じゃないから、できればでいいです。


  これも応募規定のせいだと思うんですが原稿が「紐綴じ」されているもの、あれもめちゃくちゃ読みづらいですよね。ダブルクリップにしてほしい。


江戸  これも賞を長年運営するにあたって慣習で残ってしまったものですね。昔はダブルクリップなんてなかったから、コヨリで止めてたから……。無理して穴を開けなくても大丈夫ですよって言いたい。大変だと思います。


  紐の結び目をほどくのも大変なので、最終的には紐を切らざるをえないんですよね。何百枚もの原稿用紙に穴を開けてくれたのにと申し訳なくなりますよ。一方、輪ゴムでくくってくる方もいらっしゃるのですが、これはばらけてしまう可能性があるので危ないので止めてほしいと思います。

Q 手書きか? ワープロか?


A 基本的にはどちらでもよいが、いずれにしても読みやすく。

歩  パソコン使えるならワープロのほうがいいですよね。


川  現役の作家さんにも手書きの方はいるし、良さは間違いなくあるけど、応募原稿はそのまま読んでもらうことが前提なので、読みやすいのは圧倒的にワープロ。


乱  私は手書き原稿も嫌いじゃないですよ。四百字ごとにめくる作業も、どんどん読み進めているような手応えを感じられるという効果もある。字もよほど下手でなければ大丈夫! ただ読めないほど汚いのはNGです。

Q ファイル形式はWord? PDF? テキストファイル?


A 最善PDF。Wordも良。

江戸  今年度の要項から推奨応募形式を「Word、PDF、テキスト」の三種類にして、「一太郎」を除外しました。


 「一太郎」は互換性が低いので外したんだよね。最近はプリントアウトせずにパソコンやディバイスで読むことも増えているので、私はPDFがいいです。Wordだと書式が反映されないことがあって、横書きになること多数。もし行替えや文字組みにこだわっているところを見せたい場合は、PDFのほうが確実かと。


 PDFは適正な文字組みであることが前提だけどね。組み替えができないから。

 私のベストはWordですね。テキストデータはあんまり……。Wordに貼り付けるなり、PDFにするなりしてくれると助かります。


江戸  Macユーザーの方はWordが入っていないこともありますから、テキストで送らざるを得ない場合もありますよね。テキストデータは、こちらでコピペして体裁に貼り付けて読むこともしますが……。


 いやー、応募原稿データを触るのってめちゃくちゃ怖いよ。もしこちらのミスでコピーミスして本当はあったはずの文章が欠落しているのに気づかない事態が起こりそうで。可能な限り、データには触りたくないというのが本音。だから私はPDF推奨なんです。


江戸  文字化けなどを気にされるかもしれませんが、どうしても読めない場合は事務局から連絡しますし、それが選考に影響することはないのでご安心ください。オススメの書体はありますか?


 基本は明朝体でしょうから、そこはそんなに拘らなくても。


 強調したいところはゴシックなどと書体を使い分けるのは、どんな意味があるんだろうとワクワクするからいいと思う。ただし、それに意味はあってほしい。

応募の実践編その1「乱歩賞が求めている作品とは!?」

Q 乱歩賞にどんな作品を求めますか?


A 広義のエンターテインメント。何より読者を楽しませられること!

江戸  乱歩賞は殺人事件が起こらなければ、世界を股に掛けるスケールの大きな事件を起こさねば、など大柄な物語でないとという投稿者たちの気負いを感じることがありますが、実際はどうでしょうか。


 確かに「今年の乱歩賞はこれか!」と世間にインパクトを与える作品であって欲しいとは思います。ただ近年、いや長年、社会派の作品でないとダメだと思われている投稿者が多い印象がありますが、その必要はないと思います。ミステリー=広義のエンターテインメントと捉えて欲しいです。重い、軽いも含めて自ら枠を狭めないで欲しい。大切なことはエンターテインメント=読者を喜ばせることに長けていることです。


 同時に映像化が可能かどうかを視野に入れるとなお良いかもしれないね。やや抽象的だけど、その作品がどれだけリアリティを担保できているかも重要。現実的に考えてありえないとなれば、その時点で減点。たとえば警察の機構の事実誤認とかは必ず選考会で指摘されます。


 細いことですが、時系列を描くときに大切な場面にもかかわらず「それから数日」「しばらくして」というような曖昧な表現を使われると少々もどかしい気持ちになりますね。「三日後」と書くのであれば、日付や曜日も明記したほうがわかりやすくなるので意識してみてはどうでしょうか。時系列表や時間経過の矛盾を自身でも確認、理解ができているということなので、推敲にもなりますよ。


 個人的にはトリックよりも、設定や展開のスピード感を求めたいですね。


江戸  仕方ない部分はありますが、殺人事件を起こさなければならないという考えに囚われている作品、多いですよね。十年以上前、東野圭吾さんが選考委員のときに「犯罪を絡ませなくてもミステリは書けるということを知ってほしい」と選評に書き、当時投稿者だった横関大さんがその一文に刺激を受けて、翌年受賞が叶ったということがありましたね。


 私は殺人は必ずしも起こさなくてもいいと思います。ただ、長編として緊張感を最後まで保つためには中身の厚い事件を考えることは必要ですよね。


 逆に殺人事件を起こさずにうまくミステリー作品を仕上げられたなら、むしろ筆力がある証拠かと。謎は殺人事件だけではなくあらゆるところにあります。


江戸  ミステリーだからといって必ずしも殺人事件を起こさなくていい、というのは編集部の総意ですね。こんな作品を読んでみたいという希望はありますか?


 ハードボイルド作品は既視感があるものが多い傾向にあるので、あえてその路線ではなく、学園、医療ものなどが出てくると「オッ」と目立ちますね。


 そう、他のたとえば小説現代長編新人賞の応募作を読んでいると「これは乱歩賞でもいい線いくのでは」と思う作品があったりする。SF、時代小説、さらにはジャンルを超越、あるいは破壊するような作品に出会えればなお嬉しいですよね。


江戸  ミステリーという枠の中であれば、時代小説や歴史小説も歓迎ですよね。


 ただ、乱歩賞に限りませんが、時代小説、歴史小説の時代考証の精度には一定のハードルがあることは肝に銘じて欲しいです。絶対に当時使われていなかった言葉、道具などが出てきてしまうともったいないと思いますし、そもそも世界観に影響してきてしまうこともあるので、挑戦する場合は気をつけて下さい。


 私は乱歩賞という場で時代、歴史小説で勝負することはあまりオススメしないですね。予選委員、選考委員ともども、どうしても判断のハードルは高くなってしまうように感じています。


 過去の受賞者の中にはその後、時代小説で活躍されている方もいるので、アリなんじゃないかな~とは思いますけどね。

Q 複数作応募についてどう思いますか。


A 質が高いならいいが、得てしてそういうことは少ない。

江戸  複数作、つまり同じ年に二作以上を応募する方は必ずいます。残念ながら同じ選考委員に回らない限り複数作応募していることは伝わらないんですよね。


 逆に複数応募だからといって点が辛くなることもないですよね。少しでも可能性を増やしたい、一年一作ではもどかしい、どんどん書けてしまうという人はどうぞと思います。が、率直に言って私は自信のなさの表れだと感じてしまいますね。オススメしません。


 そうそう。それぞれの質が高いなら何も言うことない。だけどどうせならば他の賞にも応募して、たとえば「このミス」と「乱歩賞」の同時受賞を狙うなどしたほうがアピールとしては効果的では?


 そうですね。過去にも複数の新人賞を獲ってデビューした人もいたし、毎月のように〆切りはあるわけだから、「全部の賞を獲る!」くらいの気持ちを持って欲しいと思います。

応募の実践編その2「原稿内容を磨こう」

Q 別の賞に応募した原稿を修正して応募し直すのは?


A あんまりオススメはしません。

江戸  今年の二次選考の講評で、再投稿の是非について書いてくださった予選委員の方がいらっしゃいましたね。


 私は賞の性質に合っていて、なおかつよくなっているならいいと思うけど。


 自分なりに落選した理由を分析した上で修正して、さらに確かな手応えを感じているならの場合ですよね。その作品で選考が進まなかったなら、潔く切り替えることも重要。ボツにしたアイデアもプロになってから別のアプローチで生まれ変わらせることもできるし、同じ作品にこだわるだけでは道は開けない。


 規定で禁止するほどのことではないけど、志としてはすべて新作で勝負するくらいであって欲しいです。題材や素材についてのこだわりは一人一人違うから繰り返し取り上げるものがあってもいいけど、一度選考委員に読まれたものを書き直して別の賞に応募してもプラスになりにくいような気がします。

Q:タイトルが思いつきません!


A:タイトルに時間割くなら内容のほうに時間割いてください。

 長編を書けるネタを思いついているのに、タイトルが考えられないってのはどうなんでしょう。


江戸  川、タイトル問題に厳しいよね……。毎年最終選考会では「タイトルがよくない」という意見は出ますが、タイトルがダメだからといって物語の内容を全否定するような結果には絶対にならないですよね。


 受賞したら編集者も一緒にタイトル考えます! だからダサくてもいいので、とりあえず何かつけてください。


  タイトルで悩まれる方へのアドバイスとしては、オチがバレないくらいに、終盤の文言をヒントに考えてみたらどうでしょう。どうしてもでないのであればまずは無難に二文字でまとめる、セリフから引っ張ってみる、○○の○○と当てはめてみる……いろんなアプローチがありますが、そもそもタイトルは難しい! 編集者も「正解」を出せるとは限らない。


  確かにそう。タイトルを考えるのに四苦八苦する方は、そこに時間を割くより、その分内容の精度をもう一度見直すとか誤字を直すとかに時間を割いてみるとよいかも。


  それもありですね。

Q 良い小説を書くために何をしたらいいですか。


A 小説をたくさん読んでください。

江戸  難しい質問ですけど、これは単純にもっと小説を読んでくださいとしか言いようがない気がします。小説を読まずに小説が急に書ける人も稀にはいるかもしれないけど、自分が思いついているものは先人も思いついているかもしれないという畏れは持って欲しいです。


 良い小説をたくさん読むこと、これにつきますよ。いい作品を読むことによって書けなくなるって人もいるかもしれないけど、それは結局読者として小説を楽しむべき人だったわけで、書く人じゃなかったということ。


 小説を読んで、その構造やヒットの理由を細かいところまで学んでください。ヒットしているのには理由がある。


 ミステリーに限らずエンタメ作品は読者を楽しませるべきものです。自分の書きたい気持ちをぶつけるのはもちろんだけど、作品を読んだ人がどう思うのか、驚くのか、喜ぶのか、涙するのか、想像して逆算して書いて欲しい。


江戸  自分が面白いからというだけで押し通すのは少々独りよがりになりがちですよね。客観的に物語を見直すことをしてほしいです。

応募の噂編「<都市伝説>にお答えします!」

Q 本当に最後まで読んでますか?


A 読んでます。ただ、最初の印象が最後で大きく変化することはほぼない。

江戸  昨年小説講座をやったときにも何度か投稿者の皆さんに聞かれましたよね。「最後まで読んでないですよね?」って。


 最後まで読んでるけど、基本的に小説は全体の構成によってなりたっているから、最後だけいいから当選ということは、残念ながらあまりないですね。


 正直にいえば選考段階によっても読む姿勢は変わってくるよね。一次選考だと一章を読み終えた時点で小説が書けているかどうかがなんとなくわかってしまう。キャラクターや内容の整理、そもそも文章が書けていないものに関しては早々に判断できてしまいます。一次の段階だと、新人賞によるけど一人あたり100本弱、少なくとも50本を数週間で読む。だから、キラリと光るものの印象は相当強く残るんです。


 二次以降に関しては小説として成立している作品が残っている状態になるので、内容や文章力での比較になるなど、評価軸はそれなりに変化していきますね。


 小説のラストや結末だけで大逆転で○になったという経験はないですね。ミステリーだからあると言いたいところだけど……。いい小説は最初からいい。仮にオチが面白かったところで、そこまで読ませる力がなければ読者はついてこられない。


江戸  確かにいろんな作品が投稿されているので、読む集中力のようなものは出し入れしていますね。たとえばフィクションの賞にノンフィクションが投稿されていたり、んん~これは小説じゃなくて脚本を送ってきたんだな!?とかもあるので……。そういう事象も含めて投稿された作品すべてに目を通さないと、私たちも判断つかないので、全部読んでますよ。だから本当にお願いしたいのは、枚数規定等、応募要項は守ってほしいんです……。最後まで読んで「枚数足りてない!!」はけっこう悲しいですね。

Q 乱歩賞はプロ作家のほうが有利ってほんと?


A プロフィール、名前は隠して選考しているのでそれはないです。

江戸  近年デビュー済みの方が受賞することが続いているので、プロのほうが有利なんじゃないかという噂もあるらしいですが、基本的に予選委員、選考委員には個人情報をお渡ししておりませんので、プロフィールや筆歴を抜きにして作品のみで判断していただいています。そういう経緯もあって要項では本文、小説タイトル+ペンネームのトビラと個人情報は別にして提出してもらうように明記しているんですね。たまに一緒にしてしまっている方もいますが、その場合は事務局が確認して、その部分を削除して選考委員の方にお送りしています。だから応募要項は守ってほしいと繰り返しているんですね……。


 わかりにくいことも多い応募要項だけど、それにも意味がある、ということですね。


 プロのほうが一度編集者や読者の目を通った経験があるからこそ洗練されていることも多く、評価されている部分はあると思いますが、どちらが有利とは一概には言えないでしょう。根拠なきイメージですが、アマチュアの方のほうが「いい意味で」怖いもの知らずなチャレンジができる可能性も高いと思います。


 必ず言えることは、作品の善し悪しよりもプロフィールを重視することはない、ということですよね。

Q 枚数が規定ギリギリのほうが有利って本当ですか。


A 嘘です。

江戸  乱歩賞は規定枚数ギリギリまで書かないと、一次で落とされるっていう噂があるらしいです。


 あり得ないですね。


 刊行された作品がそうだから、でしょうか。最終的に刊行される受賞作は、応募原稿から校閲や選考委員のアドバイスなどを受けて修正することが多いため、応募段階とは違う枚数になっていますよ。


 予選委員の方もおっしゃっていましたし、、小説にはその物語にふさわしい枚数というのがあります。規定枚数上限に合わせるために意味のない会話などを増やすほうがよほど不利になります。規定枚数は守ってほしいけど、根拠なき情報に惑わされないでほしいです。

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