子供主人公はやめとけ

文字数 1,156文字

「子供主人公はやめとけ」
 小説家志望者がいたらまず真っ先に伝えたい言葉がこれだ。なぜ子供主人公がダメなのか。小説というものはよほど低年齢向けでない限り、子供でも分かる言葉だけで綴り続けることはできない。時には難解な語彙や抽象的な描写も駆使する必要がある。だが子供主人公でそれをやってしまうと、「子供はこんな言葉は使わない」「こんな考え方はしない」と読者に言われてしまう。子供は子供なりに(それこそ下手な大人と遜色ないレベルには)色々考えているということは、自分が子供だった時を思い出せば分かるはずだが、多くの大人は都合良くそれを忘れている。もちろん子供主人公の名作はたくさんあるが、そういった作品を書くには、それ相応の力量が求められるということは覚えておいた方がいい。
 私もそれは重々承知している。承知しているのだが、なぜか自然な筆の動きに任せて書き始めると、子供主人公の話になることが多い。精神年齢が子供だからかもしれない。しかし推理小説的な要請もある。今作は何と主人公どころか、主要登場人物が全員子供。嵐の孤島に立つ児童養護施設(!)を舞台に、子供たちが殺し殺される話だ。人によっては倫理面で眉を顰めたくなるかもしれない設定だが、推理小説的な企みを実現するためにはこの設定がベストだったと考えている。単行本刊行時、ウェブサイト「本がすき。」のエッセイでも書いたが「人数比」が重要なのである。
 簡単なあらすじを紹介すると、主人公は復讐のために未明いじめっ子の部屋を訪れるが、彼はすでに殺されていた。しかも左目を抉られ、代わりに金柑を嵌め込まれるという残虐な装飾を施されて。僕のような正当な「殺人犯」の先回りをするクレイジーな「殺人鬼」は誰だ!? という主人公の叫びを反映したかのような『殺人犯 対 殺人鬼』というタイトルである。犯人視点で別の犯人を探すという趣向はままあるが、それとは別に新しい驚きを仕掛けることができたと自負しているので、ぜひ読んでみてください。



早坂吝(はやさか・やぶさか)
1988年、大阪府生まれ。京都大学文学部卒業。京都大学推理小説研究会出身。2014年に『〇〇〇〇〇〇〇〇殺人事件』で第50回メフィスト賞を受賞しデビュー。同作で「ミステリが読みたい!2015年版」新人賞を受賞。’17年『誰も僕を裁けない』で第17回本格ミステリ大賞候補。著作に『アリス・ザ・ワンダーキラー』『メーラーデーモンの戦慄』『四元館の殺人 探偵AIのリアル・ディープラーニング』 などがある。

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