愛シノ我ラガ少年探偵團

文字数 1,101文字

『千手學園少年探偵團』の舞台に大正時代を設定したのは、大正浪漫という言葉に代表されるように、近代でありながら、どこかお伽噺めいたイメージがあったからだ。この時代に生きる少年たちを描いたらどんな話になるであろう? ワクワクしながら小説を書き始めた時、私も主人公の檜垣永人とともに新たな世界に飛び込んだのだ。
 主な舞台である千手學園は「特権階級に属する子息たち」という設定だ。軍人に政治家、官僚、華族、医者、商人……様々だ。書き進めるうちに見えてきたのは、少年ら一人一人が、現代とは比べ物にならないほどに「時代」を負っていたことだ。行動一つ、言葉の一つ一つに「家」の存在がある。
 反して、その軛(くびき)から解放されているのが主人公の永人だ。彼は庶子という出自に翻弄されながらも、時代の制約や常識、同調圧力から自由だ。己が正しいと感じたままに行動し、学園にはびこる呪いや噂、心ない中傷に立ち向かう。現代を生きる私は永人に憧れている。彼はまさに私のヒーローなのだ。
 しかし、そんな彼でも、日本が国際舞台に乗り出した過渡期、大正時代という激動からは逃れられない。今回発刊したシリーズ第三巻『千手學園少年探偵團 浅草乙女歌劇』は、この時代をさらに色濃く反映した内容になった。
 第一話「夜光仮面現る!」は、探偵小説の『夜光仮面』を名乗る窃盗団が現れたことから話が始まる。第二話「浅草乙女歌劇」は浅草で少女たちが消えるという事件が勃発する。そして第三話「〝秘密〟 ノ 『サトル』」では、現れた転校生が学園内に不穏な影を落とし、混乱させる。
 どの話にも通底するのは、変遷し、混とんとしていく時代の姿だ。その中に登場する変わろうともがく人、己の立場を守ろうとする人、そして無闇に他者を傷付けんとする人──
 永人を始めとする少年探偵團も、時に悩み、そして傷付く。それでも謎や事件に立ち向かわせるのは、そのたびに「立ち上がれる」ことを私が信じたいからだ。彼らが手を組み、ともに走る姿に、私自身が勇気づけられているのだ。
 ぜひ、貴方も千手學園少年探偵團の仲間になってほしい。

金子ユミ(かねこ・ゆみ)
『アナタを瞳でつかまえる!~天然女子はカメラアイ!?』(コスミック出版)でデビュー。ゆみみゆ名義でボーイズラブノベル、漫画原作を手がける。幼少の頃より、江戸川乱歩や横溝正史など、妖しく艶やかな世界観に耽溺。他の著書に『異世界宿屋でおもてなし~転生若女将の幸せレシピ!~』(コスミック文庫α)がある。








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