『借りぐらしのアリエッティ』/石川宗生

文字数 1,567文字

8月27日(金)から、『劇場版 アーヤと魔女』がいよいよ全国ロードショーされますが、夏休みの夜といえば、そう、ジブリ映画ですよね!


「物語と出会えるサイト」treeでは、文芸業界で活躍する9名の作家に、イチオシ「ジブリ映画」についてアンケートを実施。素敵なエッセイとともにご回答いただきました!

毎日更新もいよいよ最終回! 今日は石川宗生さんです。

石川宗生さんが好きな作品は……


『借りぐらしのアリエッティ』

アリエッティは細部に宿る 


 イケメン魔法使いの城がてくてく歩いたり、みんなで一緒に「バルス」と唱えたくなる伝説の城が空を飛んでたり、またあるいは清廉潔白な娘がグライダーで空を飛びまわったり、なんだか体臭が漂ってきそうなワイルドな娘が大きな犬にまたがって駆けまわったりと、ジブリ映画はなにかと場面転換が多い、動的なイメージがあるけど、なかでも『借りぐらしのアリエッティ』はかなり静的な作品だ。なにしろ舞台が田舎の一軒家で、物語のほとんどはそこで完結してしまう。冒険活劇は角砂糖とティッシュペーパー探し。主な危険は詮索好きの家政婦で、物語の山場は家政婦に捕まった母親をアリエッティが救出するところ。こうやって字面にすると地味にも聞こえるが、こびと目線の描き方が秀逸なので、静的ながらかえって他作品よりダイナミックさすら感じさせる。


 それに加えて、小道具の一つひとつが観ていて本当に楽しい。色とりどりのボタンや切手の壁飾り、釘と物差しの足場、魚の醤油入れの水筒、紅茶のカンカンのタンス、クリップの髪留め……。アリエッティたちの家のシーンが映るたび、思わずポーズして家具をつぶさにチェックしたくなってしまう。水や紅茶はサイズが小さいがために表面張力が顕著で、ポットから注がれるときに大粒となるのだが、それがまたなんとも美味しそうでたまらない。まあ本作に限った話ではないかもしれないが、ジブリは食べものの描写が本当に上手だと思う。


 映画や小説ってスケールの大きい作品のほうが尊ばれる傾向があるけど、『借りぐらしのアリエッティ』は見せ方ひとつで日常もこんなに面白く描けるんだということを気づかせてくれた。それになにより、アリエッティが純粋にかわいい。あれこれ勿体つけて話してきたが、案外これが一番のアピールポイントだったりもする。

石川宗生(いしかわ・むねお)

1984年千葉県生まれ。オハイオ・ウェスリアン大学卒。2016年に「吉田同名」で第七回創元SF短編賞を受賞。2018年に受賞作を含む短編集『半分世界』を刊行。2020年に『ホテル・アルカディア』で第30回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。他の著書に『四分の一世界旅行記』アンソロジーVoyage 想像見聞録』がある。

さぁ、出かけよう! 「物語」という旅へ。


様変わりした生活、奪われる自由――。

でも大丈夫、私たちには「小説」がある。


国境、日常、現実を飛び越え、行き先は無限大!

宮内悠介、藤井太洋、小川哲、深緑野分、森晶麿、石川宗生――。

最旬の作家たちが想像の翼を広げて誘う、魅惑のノベル・ジャーニー!



宮内悠介 「国境の子」

対馬から韓国まではわずか一時間。でも「ぼく」にはそれが遠かった。


藤井太洋 「月の高さ」

旅公演スタッフとして遠征中、あの日見た月が胸に去来する。


小川 哲 「ちょっとした奇跡」

自転が止まった地球。カティサーク号は、昼を追いかけ移動を続ける。


深緑野分 「水星号は移動する」

移動式の宿・水星。今日はどんなお客様と出会うのだろう?


森 晶麿 「グレーテルの帰還」

あの夏、最後の家族旅行での惨劇が、私の運命を大きく変えた――。


石川宗生 「シャカシャカ」

地表が突然シャッフルをはじめた!? 姉弟の生き残りをかけた旅が始まる。

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