ゾフィー上田の「自分では出会わない本について語る会」第十一回

文字数 2,786文字

お笑いファンに絶大な支持を得るコント師・ゾフィー上田航平さんは、読書家としても知られています。

でも、最近ふだんの読書だけでは物足りない様子。。。


そこで当コーナーでは、編集部からご自身では絶対に買わなそうな本をチョイスして、上田さんに読んで語ってもらいます!

〇怖い話はもうコリゴリ・・・! 日本各地の怪談を凝縮したマスターピース。

高所恐怖症だ。高めの脚立も登れやしないし、スパイダーマンの映画は好きだけど、彼が糸にぶら下がって高い所から勢いよく下降する時は目を伏せる。たまにおしゃれなビルに透明なエレベーターがあるけどあれだけは絶対に許せない。こっちは見えないから乗れるのに。さらに私は幽霊恐怖症でもある。「ゴーストバスターズ」を見て眠れなくなった経験があるくらい、とにかくお化けが怖い。そんな私が絶対に読まないであろう書籍「ナナフシギ列島怪談あなたの地域の一番怖い話」が送られてきた。「250本以上の怪談からナナフシギが選んだ7つの地域の最恐話27本」と書かれている。怖いのが怖いのに怖い本が届いたことがもう怖い。でも本なら。ギリギリ文字なら読めるかもしれない。怖いもの見たくなさでページをめくる。


そもそもこの本の著者であるナナフシギさんがお笑いコンビで怪談にお詳しいことは承知しておりましたが、それ以上のことは怖くていっさい遮断して今日まで生きて参りました。「はじめに」を読む。大赤見ノヴさんの苗字が呪われていて数々の不幸に見舞われているという話がもう怖いです。だめだ。「はじめに」という言い方がもう怖い。とりあえず、サンマルクのチョコクロを食べずに置いておくことにした。視覚に入るチョコクロのポップなビジュアルが恐怖を緩和してくれそうな気がする。そういえば、磯丸水産で後輩芸人のガクヅケ木田くんが突然怪談話を始めた時も、目の前でぐつぐつと煮え立つ蟹味噌の甲羅焼きが怖さを完璧に打ち負かしていた。「美味しそう」VS「怖い」勝つのはどっちだ?


最初の1話を、苦い顔でゆっくりと読み、ゆっくりと本を閉じた。やっぱ怖い。慎重に読んだがために、より想像が増して、より没入してしまい、怖さが倍増してしまった。恐る恐るが一番恐い。先週、かもめんたるのう大さんが「最近怖い話にハマっている。背景や動機がコントを作る参考になる」と言っていた。しかし、う大さんほど脚本を書く才能がある人が怖い話に触れると、ひと一倍に怖い想像が働いてしまって、夜道がすごく怖くなってしまうらしい。自分にも木目が泣き叫ぶ人の顔に見えてしまうくらいの脚本力はある。妄想が恐怖を煽る。なんかチョコクロすら怖く見えてきた。想像力をかき消すために、読書の速度を上げてみる。「呪怨」だって早送りで見たら怖くないっしょ? いやでも一瞬映る青白い女の子の顔とかマジ無理だわ。はぁ。怖い話はとにかく怖い。


2話目の「宝船」。なんか大丈夫そうな雰囲気だった。子供が内緒で祖父の布団屋さんの枕を使って寝る話。「そっか、これだけ怖い話があれば、軽めの怖いお話もあるか」なんて油断してたら、はい、どーん。はい、戦慄。1話目より怖かったんですけど。余裕で戦意喪失。もうダメだ帰ろう。チョコクロをほうりこんでサンマルクを出る。帰り道、まるで人間がひとり入るほどの大きさのバッグを担いだおじさんが信号待ちしていた。恐怖妄想、イージーモード。


日を改めて、長崎の動物園ロケに向かう飛行機の中でこの本に挑むことにした。当然飛行機も怖いので、毎回離陸着陸で怯えているのだが、この恐怖と幽霊の恐怖を戦わせてみることにした。毒を持って毒を制す。相打ちになって弱っているところを一気読みする作戦である。すると不思議なことに、するすると文章が読めたのだ。当然お話は怖いのだが、上空にいるという緊張感が物語への埋没から引き剥がしてくれて冷静な距離感が生まれたのである。すると一気に、恐怖の霧に包まれて見えなくなっていた、人間そのものへの興味が湧く。人間が人間に対して、目に見えない憎しみや悲しみを抱くと、本来見えないものが見えるようになってしまう。つまり、幽霊の恐怖は人と人の間にしか生まれず、人間の背後に潜む幽霊の背後には、必ず人間が潜んでいるということが判明した。ふむふむ。なるほど。実に興味深いことだ。などと考えを巡らせながら読み進めていると、最後の方に登場した「赤い傘」の話。はい、怖い。インテリな感じで読んでたけど、はいめっちゃ怖い。少しずつ近づいてくる恐怖ってダントツで怖いよな、なんて怯えながら、次の話を読もうとした時、あることに気付いた。本の左隅に書かれた「列島怪談九州・沖縄地方」の文字。そう、この本は日本各地から集めた怖い話を地域ごとにまとめられていて、冒頭のタイトルにはカッコ付きでどこの都道府県の話かが明記されている。おいおい。まさか。いやいや。そんなはずは。そろりとタイトルの書かれたページに戻る。「赤い傘(長崎県)」。どーん。本を閉じて愕然としたまま、飛行機が長崎に到着した。もう嫌だ。長崎怖い。空港で思わず赤い傘を探したが見つからなかった。わーん。それどころか、現地は信じられないほどに暑い日差しで、カンガルーと添い寝するなどしてすっかり癒された。ありがとう、太陽とカンガルー。怖い本はこれっきりにしてくださいと頼もう、と日向ぼっこで決意した。


最後にこれっきり記念で、私の怖い話をご紹介します。あれは私がはじめて一人暮らしをしていてそこから新居に引っ越しをすることなった日の前日、引っ越しを手伝ってくれる友人にいわくつき物件が網羅されているサイトがあることを教えてもらったので、その場で引っ越し先を調べてみることに。「いまさら引っ越し先が事故物件だったとしてもどうすることもできないよ!」とビクビクしていたら特に記載はなく安心したのだが、さらに調べてみると、なんと、それまで住んでた家の方が登録されていたのです。ががーん。今思い返してみると、夜勤のバイト前に仮眠してたらどうも寝過ぎて何度も遅刻していたのは、そのせいだったのかも知れません。

上田航平(ウエダコウヘイ)
1984年生まれ。神奈川県出身。慶應大法学部卒。2014年にサイトウナオキとゾフィーを結成、2017年、2019年「キングオブコント」ファイナリストとなった。また、ネタ作り担当として、「東京03の好きにさせるかッ!」(NHKラジオ第1)でコント台本を手がけるなど、コンビ内外で幅広く活動している。趣味は読書とサウナ。なお、祖父は神奈川県を中心に展開する書店チェーン店「有隣堂」の副社長を勤めたこともある。

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