夢と現実のミステリ

文字数 1,074文字

 最近見てゾッとした夢の話を一つ。
 僕は自分の部屋にいて、一歳になる娘がベッドでわんわん泣いている。娘をあやしながらふと窓を見ると閉まったカーテンが揺れていて、なんだなんだと思っているうちに、カーテンの陰から一人の女性が現れる。年齢は二十歳前後。背が低くショートカット。僕をにらみつけるその目に、なんともいえない非難めいたものが宿っている。
「お前、誰だ!?」
 僕は思わず乱暴な口調で問いただす。すると彼女は、泣いている娘のほうをちらりと見て、すぐにまた僕の顔に視線を戻し、こう言ったのだ。
「あんたの可愛い子どもの……娘よ」
 瞬間、僕は目を覚ました。
 実はその直後、僕はとある場所へ取材に行く予定を入れていた。しかし、なんとなく胸騒ぎを覚えていて、やめようかなと迷っていたのだ。
 その心理状態が見せた不可思議な夢と片付けてしまうこともできる。だが、生まれたばかりの娘の娘――つまり、ずっと未来に生まれることになる孫が夢に登場するなどとても普通ではない。どう考えても「取材に行くのを考え直せ」というような視線だった。妻にも話したところ「やめれば?」と言うので、ひとまずその取材は延期した。
 当該日時、行く予定だった場所で大事故が起こった……というような話があればオチもつくのだが、現実はそうはいかない。ともあれ、あれは僕が孫から受け取った何らかの警告だったのだと信じている。

 このたび文庫になった『二人の推理は夢見がち』は、モノの記憶を夢で見ることのできる男と、腹話術人形と夢の中で話しながら記憶・情報を整理する女の物語。北関東の田舎で起こる殺人事件をめぐるミステリだが、夢と現実を行き来するような不思議な感覚を味わってもらえたらと思う。
 さらに翌月には、この二人に加え、予知夢を見る人物が登場する『未来を、11秒だけ』も刊行予定。二冊並べるとカバーイラストがつながるサービス付き。どうぞよろしくお願いいたします。



青柳碧人(あおやぎ・あいと)
1980年千葉県生まれ。早稲田大学教育学部卒。2009年、『浜村渚の計算ノート』で、講談社の公募企画「Birth」の第3回受賞者に選ばれ、デビュー。2020年、昔話を下敷きにしたミステリー『むかしむかしあるところに、死体がありました。』が本屋大賞にノミネート。近著に、『霊視刑事夕雨子1 誰かがそこにいる』『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』『猫河原家の人びと―花嫁は名探偵―』などがある。

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