GRWMの罠⁉ お耽美少女がホップ、ステップ、ヘンタイ!

文字数 1,346文字

森茉莉『私の美の世界』『紅茶と薔薇の日々』

倉橋由美子『聖少女』


最近、YouTubeで、可愛い女の子のモーニングルーティンや、GRWM(Get Ready With Me=一緒に準備しましょう)的なものが流行っている。アイドルやインフルエンサーなどの可愛い女の子の、朝食、スキンケア、化粧、毎朝の習慣などを公開して、それをファンたちが共有できる、というものだ。


一昔前のお耽美少女たちを虜にした森鴎外の娘・森茉莉や、今の純文学少女たちを魅了している倉橋由美子の本にはそれと同じ要素がある。

レースやフリルで彩られた本の世界で、独特な美的感覚と道徳観で自分を貫きながら生きる主人公の少女たち。


森茉莉や倉橋由美子の本の主人公たちはそんな、純文学お耽美少女たる私たちの憧れの存在だ。

そして、彼女たちの本には、その、美しい主人公たちの暮らしぶりが余すことなく描かれている。 


例えば、毎日の日課。

倉橋由美子『聖少女』の主人公・未紀の毎朝は次のようなものから始まる。


「母がレモンのしぼり汁をもってきてくれました。それにソーダ水を注ぎ、ウイスキイを垂らして飲むのがあたしの朝の習慣です。」


こんな背徳的な朝の習慣が他にあるだろうか…! 


森茉莉のエッセイ『私の美の世界』からも。


「マリアの好きなように直したような洋杯に、大型ジャーの中に岩屋の氷室さながらの涼風をさざめかせているダイヤ氷を充分に入れた上から、熱い紅茶を注ぐ即製冷紅茶」


これは物語ではないけれども、生涯、本の中の主人公のような生活をし続けたお嬢様・森茉莉の、アイスティーの儀。

ハイボール、アイスティー、そんな飲み物ひとつとっても、彼女たちの言葉を通してみると、なんだかとても特別で官能的で、美的感覚の優れた行為に見える。


倉橋由美子や森茉莉の本には、そういった、彼女たちの有り余る美的感覚から見た日常生活が、例えば食べ物のレシピに到るまで詳細に描かれている。

つまり、「読んで(YouTubeで言うなら「見て」)、すぐ実践できて、自分も同じ世界観に浸れる」のだ。


そういうわけで、今の女の子たちがYouTubeで憧れのアイドルの私生活を覗き見て真似するように、我々お耽美少女たちも、彼女たちの本を、聖書のように崇拝して真似するのだ。 

↓森茉莉のレシピを真似て作ったものたち。トマトのバタア焼き、ドイツ風サラドゥ、平目の刺身。


『私の美の世界』森茉莉/著(新潮文庫)
『薔薇と紅茶の日々』森茉莉/著(ちくま文庫)
『聖少女』倉橋由美子/著(新潮文庫)
↑写真/静川文一
吉行ゆきの@変態文学大学生

「文学」と「変態」と「酒」を偏愛する北大生。主にTwitterで活動し、全国で無駄にリテラシーの高い変態文学イベントなど開催。ミスiD2021受賞。

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