異色のタッグが暴く巨大な闇とは? 『冬の狩人』評・西上心太

文字数 1,072文字

(*小説宝石2021年1・2月号掲載)

『冬の狩人』大沢在昌(幻冬舎)本体1800円+税

 H県本郷(ほんごう)市は世界的な計測機器メーカーのモチムネの本社がある企業城下町である。本郷市随一の料亭で四名が死傷する銃撃事件が起きた。被害者は市長やモチムネの関係者だったが、同席していた弁護士秘書の阿部佳奈(あべかな)が現場から姿を消してしまう。


 三年後、県警に〈阿部佳奈〉名義のメールが届いた。事件の詳細を話すつもりだが、H県警は信用できないので、新宿警察署組織犯罪対策課の佐江(さえ)による保護と同行が出頭の条件とあった。県警の新人刑事川村(かわむら)は、佐江の行動確認を命じられ新宿に赴くことに。


 六年ぶりとなる五作目の狩人シリーズだ。もともとこのシリーズは、新宿に現れた訳ありのアウトサイダー(地方警察の現職や元警官)が主人公で、佐江は折々に顔を出しては、彼らに何らかの影響を与える渋い脇役に過ぎなかった。だが三作目の『黒の狩人』から、佐江と若手警察官による相棒小説へと変わってきた。


 休職中だった佐江は復職し、自分が指名された理由もわからないまま、重要参考人・阿部佳奈との接触を図る。部外者の介入を嫌った県警は、佐江の見張り役も兼ねて川村を同道させることに。こうしてコンビを組んだ二人は、未解決事件に挑む。


 強引だが的を外さない捜査能力に瞠目(どうもく)した川村は、佐江に畏敬(いけい)の念を覚え始める。だが県警からは裏切り者扱いされ、板挟みの立場に思い悩む。佐江はそれを察して気遣いをみせる。佐江が決して乱暴なだけの人間ではないことがよくわかるのだ。


 東京とH県を行き来し、暴力を厭(いと)わない者を相手に、二人は真相に肉薄していく。容疑者が浮かんではまた消えていく謎解きの妙もたっぷり含まれた、警察相棒小説の逸品である。

コロナ禍の時代を切りとった傑作シリーズ

『インフォデミック 巡査長 真行寺弘道』榎本憲男(中公文庫)本体800円+税

 新型コロナウイルスによる緊急事態宣言下の二〇二〇年五月。自粛要請の手伝いで池袋を訪れた真行寺は、ライブハウスで活動を続ける伝説の歌手の浅倉マリと出会う。彼女はさらに大がかりなコンサートを計画していたが、そのイベントには真行寺と関係が深い白石サランが関わっており、真行寺は板挟みの立場に。巡査長シリーズ第五弾は、コロナ禍の時代をいち早く切りとり、様々な立場の人間の思惑をあぶり出す。二〇二一年早々に出るDASPAシリーズ二作目の『コールドウォー』(小学館文庫)とリンクするという仕掛けも楽しみでならない。

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