「円居挽の言葉に救われた」 若林踏

文字数 1,000文字

(*小説宝石2021年8・9月合併号掲載)
2021/07/27 17:02

ステリの最前線で闘う作家たちの話が聞きたい。


 そんな思いを胸に抱き、私は一年ちょっとの時間をかけて、十人のミステリ作家とトークセッションを行った。

 円居 挽、青崎有吾、逸木 裕、斜線堂有紀、呉 勝浩、澤村伊智、阿津川辰海、矢樹 純、方丈貴恵、太田紫織。いずれもデビュー十年以内(企画立案時)のミステリ作家である。彼らと交わした創作論、ジャンル論を収めたのが今回の『新世代ミステリ作家探訪』だ。


 本のあとがきにも書いたが、『新世代ミステリ作家探訪』の企画は新型コロナウイルスが猛威を振るい、日常の風景が大きく変化していく過程とともに進んだ。二〇二〇年四月に一回目の緊急事態宣言が発令されて以降、政治経済は混乱を続け、人々は心休まらぬ日々を過ごしている。世の中がこんな有様なのに、悠長にミステリ小説の話などしていて良いものだろうか。そんな不安がよぎったこともある。

 それでも一冊の本にすることが出来たのはゲストの一人、円居挽氏の「ある言葉」に突き動かされたことが大きい。


 円居氏には二〇二〇年二月に「Live Wire High Voltage Cafe」で開催したイベント内で話を伺った。その時「これはぜひとも聞いておかねば」とかねてから思っていたことを質問した。円居氏の作品には人生の〝ままならなさ〟について深く考えさせられることが多いが、これは円居氏本人の思想が込められているのではないか。


 この質問に円居氏はどのように答えたのか。それはぜひ本書を手に取って確認いただきたい。とにかく、その時の円居氏の言葉が心に突き刺さった。当時、抱えていた個人的な悩みごとも一気に吹き飛んでしまうような、前向きな力を私に与えてくれたのだ。


 コロナ禍で〝ままならない〟ことが多くなったけれど、だからこそ円居氏の「あの言葉」は忘れないようにしたい。


2021/07/27 17:05
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【あらすじ】

若手書評家と話題の作家たちが交わす無数の言葉。熱中した物語、創作論作法、問題意識……。和やかなトークは、時に熱を帯びながら、深まっていく。そして、語らいの先に浮かび上がったものとは!? 各人各様に進化するミステリの最前線を知る野心的対談集。


【PROFILE】

1986年千葉県生まれ。ミステリの書評や文庫解説を中心に活動する書評家。雑誌連載、書籍への寄稿他、トークショーなど文筆以外の本にまつわるイベントにも注力。

2021/07/27 17:07

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