第39回

文字数 2,659文字

流石にちょっと寒すぎる。厳冬にこそひきこもり。

ガンガン部屋を熱して乗り過ごしましょう、コロナ・ウインター。


どんな季節も自室に籠城、

インターネットが私たちの庭なんです。


脳内とネットでは饒舌な「ひきこもり」の代弁者・カレー沢薫がお届けする、

困難な時代のサバイブ術!

昨日か一昨日あたりに再び首都圏で緊急事態宣言が発令された、らしい。


日付けはもちろん、本当に発令されたのかどうかすら確信が持てないほど、二回目の緊急事態宣言は盛り上がっていない。

バズった映画の続編を作ったが全くウケず、後にファンから「なかったこと」にされるヤツである。


しかし前の緊急事態宣言は、国民が真剣に受け止め過ぎていた部分もある。

マスクや食料品はもちろん、ホットケーキミックスまでが買い占められ、高額転売されたり、緊急事態宣言中にも関わらず外出している輩を、法に変わって自分が裁く、というバットマンから財力と志を奪ったような自粛警察が現れたりと、リアルゴッサムシティと化していた。


国民が強い危機感を抱くことで、感染者数が一時期減少したとも言えるが、逆に不安にかられすぎて、起こらなくても良い問題も起こってしまっていたように思える。


それに比べれば、今回の緊急事態宣言に対する反応は「舐めてる」としか言いようがない一方で、京都人に言わせれば「えらい落ち着いて受け止めはって、立派やわ」と捉えられなくもない。


そもそもコロナウィルスに対して、個人で出来ることというのは非常に限られている。

自粛に応じない店のシャッターに、閉店後ドロップキックをすればコロナが退散するというなら別だが、必要以上の外出と他人との接触は避け、手洗いうがいをする以外で効果的な行動というのは今のところあまりない。

変にやる気になって、「コロナに負けるな!」と叫んだ時点ですでに飛沫が飛んでしまっているのだ。


自分の力ではどうにもならないことをいつまでも不安がっても仕方がなく、それよりは早々に諦めた方良い。


「諦める」というとヤケクソになったように聞こえるが、逆である。

私が、売れている作家への嫉妬が隠しきれず、常に鼻毛の代わりに憎悪が鼻の穴からはみ出してしまっているのは「自分が売れる」というのを諦めきれていないからである。

それが諦められたら楽になって、売れている漫画でも純粋に楽しめるようになり、今頃『無限列車』を無限に見に行っているはずである。


最近、ニソテソドースイッシを購入し、桃太郎電鉄のオンライン対戦を連日やっているのだが、キングボンビーにつかれて物件を全て失い借金を10億以上作り、勝ちを諦めた人間の声は「明鏡止水」と言っていいほど落ち着いている。

そして冷静に目的を勝利ではなく「他プレイヤーの妨害」にチェンジし、逆に総資産100億以上の青年実業家のように、的確にオナラカードやうんちカードを使い始めるのだ。

「うんち」ほど青年実業家が言わなさそうな言葉はないが、とにかく諦めた時点で、逆に誰よりも余裕になっているのだ。


それよりも、これからキングボンビーがつくんじゃないかと怯えているプレイヤーの方が取り乱しており「俺よりあいつにつけた方が良い」など醜い本音を晒してしまい、危機が去った後、ばっちりヘイトだけ買っているということも多い。


このように、緊急事態であればあるほど「落ち着き」というのは大事であり、その落ち着きを得るためには「じたばたしても仕方がない」という早めの諦めも時には必要なのである。


よって今回の緊急事態宣言下でも、言われなくても落ち着いてはるとは思うドスが「やれることをやったら、落ち着いて正しい情報を得て、適切な判断をしていく」しかない。


やれること、というのは前述通り、むやみに外出せず人間と接しないことである。

つまり今年も、しばらく「ひきこもり」が推奨されるライフスタイルということであり、私にとっては「いつも通りにしておけばいい」ということである。


しかし、今一番安全とされているひきこもりになっても、不安と、不安によるトチ狂いとの戦いは続く。

むしろ、今回ひきこもったことにより、不安になってしまった人も多いかと思う。


仕事の都合などで、外出を余儀なくされている人に比べれば、家から出なくて良い人間が不安になることなどないだろうと思うかもしれない。


だが、今はネットがあるので、家から出ずとも情報はいくらでも得られる。

そして情報ばかりが入ってくる一方で、一人でひきこもっていると、他人との交流がないため、情報交換や、他人の意見を聞く機会は激減してしまっているのだ。

周囲に人がいれば「考えすぎだ」と諫めてもらえたり「その情報は間違っている」と指摘してくれたり、ドストレートに殴ってもらえたりするが、ひきこもりにはそれがない。

ネットでも意見交換は出来ると思うかもしれないが、ネットでは己の望む情報のみを集め、自分と同意見の人間だけと交流しがちなのである。


よって、ひきこもりは一度思い込んだり、ネガティブな思考に囚われると、そこから脱しにくいのである。


そして不安にかられるままに、ネットに攻撃的なことや、不安をさらに煽るようなことを書きこみ、ウィルスを蔓延させない代わりに、自分が不安をばらまくウィルスになってしまったりする。


今年も大変なスタートであるが、こんな時だからこそ、まずは落ち着くことが大事であり、そのためには、どうしようもないことはまず諦めよう。


コロナには気をつける、だが気をつけても罹る時は罹る、かかったら適切な処置をしてもらい、もしそれで周囲から糾弾を受けたら、仕方がないので用水路に毒を流して引っ越す。


そこまで諦めておけば、無駄な不安は消え、落ち着いて適切な行動がとれるはずである。

★次回更新は1月29日(金)です。

カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。長州出身の維新派。漫画作品に『クレムリン』『アンモラルカスタマイズZ』『ニコニコはんしょくアクマ』『やわらかい。課長 起田総司』『ヤリへん』『猫工船』『きみにかわれるまえに』。エッセイに『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』『猥談ひとり旅』『非リア王』など。現在「モーニング」で『ひとりでしにたい』連載中&第1巻発売中。最新刊『きみにかわれるまえに』(日本文芸社)も発売中

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