『天を測る』刊行記念 対談 今野敏×小栗さくら「本当の幕末をお教えします」④

文字数 2,111文字

「隠蔽捜査」「ST」などの人気警察小説シリーズを手掛ける今野さんが、今回、初の歴史小説を執筆! そこで、歴史を舞台にマルチな活躍をするタレント・小栗さくらさんと幕末について語りあいました! 大河ドラマ『青天を衝け』放送前に必読です!

【構成・文】末國善己

今野敏(こんの・びん)

1955年、北海道三笠市生まれ。78年「怪物が街にやってくる」で問題小説新人賞を受賞しデビュー。以後旺盛な創作活動を続け、執筆範囲は警察・サスペンス・アクション・伝奇・SF小説など幅広い。2006年『隠蔽捜査』で吉川英治文学新人賞、08年に『果断 隠蔽捜査2』で山本周五郎賞及び日本推理作家協会賞、17年には「隠蔽捜査」シリーズで吉川英治文庫賞を受賞。空手の源流を追求する、「空手道今野塾」を主宰。

小栗さくら(おぐり・さくら)

博物館学芸員資格を持つ歴史好きタレントとして活動中しているほか、歴史番組・イベント・講演会等で、講演やMCとして多数、出演している。また、歴史系アーティスト「さくらゆき」のヴォーカルとして、戦国武将を中心に幕末志士、源平時代など様々な時代の人物をテーマに、日本全国でライブ活動中。「小説現代」2018年10月号にて、初小説「歳三が見た海」が、2020年4月号には、中村半次郎を主人公とした「波紋」が、2020年11月号には小栗忠順とその養子・又一を扱った掲載されている。

◆第四回 今野流・作家の流儀


小栗 今野さんは幾つものシリーズを手掛けていらっしゃいますが、テンションを保ってシリーズを書き継ぐ秘訣は何かあるのでしょうか。


今野 テンションは保てないです。だから逆に、自分の中でインフレーションを起こすんです。一度、書いたら同じことは書けません。だから一作目は直球で勝負し、二作目もギリギリ、直球が投げられます。ただ三作目になると、変化球でないと読者も満足してくれなくなります。四作目になると、気分を立て直して再び直球にするなどメリハリを付けています。あとはシリーズを書いていると、キャラクターが育っていきます。脇役が、自分が思ってもいない行動をするようになるので、それには助けられています。


小栗 実際にキャラクターが勝手に動き出すことが、あるんですね。


今野 ありますよ。キャラクターが勝手に動き出すと、書いていても楽しいです。


小栗 いま歴史小説は、自分の感情に影響されないように書いていますが、いつも同じ気分ではないので、そこでも苦労しています。


今野 影響されてもいいんです。乗らない時に書いたらダメになると考えがちですが、一生懸命にきちんと書いているので緻密な作品が生まれることがあります。乗っている時は勢いで書いているので、リーダビリティーが高くなります。両方にいい面があるので、その時のコンディションを否定しないことです。


小栗 ありがとうございます。どのように息抜きをされていますか。


今野 コロナの前はよく飲みに行っていましたが、最近は、ネット配信の海外ドラマを見ています。小栗さんはどうですか?


小栗 史跡めぐりですね。


今野 史跡めぐりには行ってみたいんですが、歩くので体力が続かないんですよ。


小栗 先日は四日連続でファンの方と史跡めぐりをしたのですが、一日二万歩は歩いていました。


今野 それはすごいですね。


──最後に、次に書きたい歴史上の人物を教えてください。


今野 咸臨丸の艦長だった木村摂津守は興味があります。それから老中の阿部正弘。ただ、今は、初めて歴史小説を書いて抜け殻状態ですので、歴史に詳しい小栗さんに、取り上げたら面白そうな人物をレクチャーして欲しいです。


小栗 海舟の関係でいえば、山岡鉄舟がいます。江戸無血開城は、西郷と鉄舟が事前交渉をしてまとめたのですが、海舟の手柄にされており、その真相は、あまり描かれていませんから。私は幕末に外交を担当した岩瀬忠震を書いてみたいです。


今野 忠震も、すごい人ですよね。


小栗 あとは、箱館戦争で敵味方を区別せず治療した医師の高松凌雲です。凌雲は、パリ万博に慶喜の弟の昭武の随員として行って、そこで貧しい人も治療する「神の家」に感銘を受け、その精神が箱館戦争で活かされたようです。そうした人が日本にいたのに、なぜかあまり取り上げられていません。


今野 どの人物も興味深いです。薩長史観に一石を投じるためにも、二人で頑張りましょう。

『天を測る』あらすじ

安政7(1860)年、咸臨丸が浦賀港からサンフランシスコを目指して出航した。太平洋の長い航海では船室から一向に出てこようとしない艦長・勝海舟を尻目に、アメリカ人相手に互角の算術・測量術を披露。さらに、着港後、逗留中のアメリカでは、放埒な福沢諭吉を窘めながら、日本の行く末を静かに見据える男の名は、小野友五郎。男は帰国後の動乱の中で公儀、そして日本の取るべき正しい針路を測り、奔走することになる―。知られざる幕末の英雄の物語!
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