隣人X/パリュスあや子
文字数 1,479文字
丁寧に描きつづけた男がいた。
何百枚、何千枚とPOPに”想い”を込め続けるうちに、
いつしか人々は彼を「POP王」と呼ぶようになった……。
……と、いうことで、”POP王”として知られる
敏腕書店員・アルパカ氏が、
お手製POPとともにイチオシ書籍をご紹介するコーナーです!
(※POPとは、書店でよく見られる小さな宣伝の掌サイズのチラシ)
……身近な存在であるほど無性に気になる。
わずかな生活音から想像する隣人たち。不安が募り妄想が膨らむと感性も研ぎ澄まされる。周囲に住むのは言葉の通じない人なのか、もしかしたら異星人なのかもしれないし、この世のものではないかもしれない。
冒頭に登場する「惑星難民X」と名づけられた地球外生命体こそが名前の知らない隣人かもしれないし、異星から地球にたどり着いた自分自身なのかもしれない。こう考えだすと恐ろしさに拍車がかかる。
生きづらさを象徴するような悩みを抱える三人の女性を軸にストーリーは展開するが、描写がとことん細やかでテーマはとにかく豊かだ。社会派エンタテイメントであり近未来小説でもありホラー色の強いSFとしても読める。この奥行きの深さは特筆ものだ。
200年以上前に描かれたこの名作は圧倒的な迫力がある。画面に大きく出現した謎めいた巨人の存在は、世界を覆い尽くす重苦しい空気を感じさせ、その足元で逃げ惑う小さな人々の群れは、逆らうことのできない運命の中でひたむきに生きる無力な人間たちの象徴にも見えるのだ。
作品に込められメッセージが不思議なくらい明確なビジュアルとなって飛び込んできた。こういう読書体験も稀有である。
作品の中で容赦なく丸裸にされる現代社会。不安に満ちた時代の空気もそのままに、全編から伝わるのはざらついた違和感たちだ。異なるものの存在から日常のリアルがダイレクトに伝わり、綱渡りのような危うい対人関係から人間そのものを形成する要素も見えてくる……
この世界の病理を俯瞰するような視線を持ったパリュスあや子、恐るべし!