第90回

文字数 2,194文字

あけましておめでとうございます。

今年も「ひきこもり処世術」をよろしくお願いいたします。


脳内とネットでは饒舌な「ひきこもり」の代弁者・カレー沢薫がお届けする、

困難な時代のサバイブ術!

これを書いているのは1月2日である。

もはや毎年のことなので驚くこともないのだが、この連載は死者が出ない限り、盆と正月休まず営業という俺たちのイオソリスペクトスタイルなのだ。


盆と正月は何も言わなくても一週休みだろJK(女子高生)というのはもはやノットJK(非女子高生)なのである。

休みが欲しければ、向こうが「一回休みましょう」と言ってくれるのを待つ察してちゃんではダメなのだ。


自ら「週刊連載で一回も休みがなかったら、絶対正月中に原稿を書くことになるだろクソボケ」と言うか、匕首を取り出し、相手の首でも自分の手首でもどちらでもいいから率先して「死者」を作り出しに行かなければいけない。


休みは与えられる物ではない、もはや作り出すものでもない。「奪う」時代がやってきたのだ。


このような休暇戦国時代になってしまったのも、リモートワークが関係している気がする。


「労働」というのは人間が生み出したものの中でも「戦争」と互角の巨悪だが、長らくその右腕的存在であった「出社」がコロナという伏兵によって倒されることとなった。


だが、デスピサロしかり、ラスボスというのは周りを倒すことにより、さらに進化していくものなのだ。


通勤が倒されたことにより、仕事というのはわざわざ定時に会社に行かなくてもできるということが証明された。

一見楽になったように見えるが、逆に言えば「いつどこにいても仕事ができる」と証明されてしまったのである。


そもそもボスの右腕というのは、敵対しながらも意味深なことを言って主人公の成長を促したりするポジションだったりもする。

通勤も定時出社も、一見憎むべき的に見えて実は「生活サイクルを作り出す」という大役を担っていたのだ。

その右腕がコロナによって倒され、リモートワークという、味方に見えて実は終盤で裏切る奴が現れたことにより、一部の人間は生活サイクルが崩壊してしまったのだ。


いつでも仕事ができるということは、いつでも休める、ということでもある。

逆にいうと休日という「与えられた休み」がないため、休みや死者を自ら作れる計画性と気概がある人間以外は、永遠に働きがちになってしまうのである。


実際、web連載の「盆と正月スルー率」は、コロナが流行してから格段に上がったような気がする。

ただ単に「馬鹿どもに休みを与えるな!」という雄山スピリッツでそうなっているのかもしれないが、リモートになったことにより、会社員である担当も我々無職やひきこもりと同じように、曜日や休日という概念が消えてしまった可能性は十分にある。


そもそも日本人は「休み」という当然の権利を行使するのが苦手なところがある。休みとは他人が決め、与えられるものという意識では永遠に休めない。

来年こそは遅くとも12月上旬には匕首をアマゾソで購入しておきたい。


このようにひきこもりは、ひきこもりでもできる仕事を見つけることも重要だが、仕事を見つけたら今度は休みも自分で作るか奪うかなりする力が必要になってくるのである。


しかし、休日戦国時代に突入した私のような無職と、限りなく無職に近い感覚の会社員の方が多数派というわけではなく、私の村では普通に正月をやっている。


つまり、お互いの実家に年始の挨拶にいきながら、なおかつ原稿を書くという地獄になっている。親戚もまさか私が乱世を生きる武将だとは思うまい。


逆に言えば、正月休みを言って来ない編集たちは、一体正月をどう過ごしているのだろうか。

作家に正月仕事をさせて己は休んでいるかというとそんなことはなく、元日に原稿を送っても返事が返ってくるのである。


やはり、正月休みを用意しない編集たるもの、自分も正月休みを取らない。そのために帰省などが発生しないように、親類縁者は皆殺し、なんだったら村ごと焼くぐらいのことはして都会に出て来ているのだろう。

そのぐらいの覚悟を持っているのなら、こちらも正月働く気にもなる。


そう思いたいところだが、どうやら編集者というのは「ズラして」正月や盆の休みを取るようである、おそらく後10日もしたら「今週から正月休みをいただくのでお返事遅れるかもしれません」というメールが届くはずである。


この残虐ぶり含めてまさに乱世である。


こんなに長々文句を書くぐらいなら、自分で一週休ませろと言えば良いだろうと思うかもしれないが、私は察してクソ野郎なので、相手が言わない限り自分からは言わないし、言ってこなかったら来年も長々文句を書く。


「籠城戦」それが私の戦い方(やりかた)である。

カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。長州出身の維新派。漫画作品に『クレムリン』『アンモラルカスタマイズZ』『ニコニコはんしょくアクマ』『やわらかい。課長 起田総司』『ヤリへん』『猫工船』『きみにかわれるまえに』。エッセイに『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』『猥談ひとり旅』『非リア王』など。現在「モーニング」で『ひとりでしにたい』連載中&第1巻発売中。最新刊『きみにかわれるまえに』(日本文芸社)も発売中

★来週は緊急休載をいただきます。次回更新は1月28日(金)です。

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