第20回
文字数 2,955文字
東京を中心に、コロナ感染者が再び激増し、政府肝いりの”Go Toキャンペーン”も迷走している。
隙あらば、BBQやシャンパンタワーに興じたいという向きには、まだまだ厳しい時代が続きそうだ。
「ひきこもりこそ世界を救う」という千年に一度のパラダイムシフトが起きつつある今、どうすれば人類が生き抜けるのか、意外とためになるヒントが、そのライフスタイルからは見えてくる。
脳内とネットでは饒舌な「ひきこもり」の代弁者・カレー沢薫がお届けする、困難な時代のサバイブ術!
ひきこもりとして生きるには、家から出ずに収入を得る手段が必要と言ってはみたが「漫画家になれ」とは口が裂けても言えないし、親御さんにも申し訳が立たない。
よってユーチューバーになることをお勧めする。
これは冗談ではなく、たとえ最高再生回数「49回」という、あらゆる意味でノーフューチャーな結果に終わったとしても、「動画編集能力」というスキルは現在わりと需要があるのだ。
よって、お子様が急にユーチューバーになると言い出して、一日中パソコンの前にいたとしても、漫画家になると言ってずっと推しキャラの右斜めバストアップ模写をしているよりは五億倍マシなので、ぜひ自力で動画を1本仕上げるまで見守ってあげて欲しい。
心配するのは、動画を1本も完成させることなくユーチューバーを諦め、次の日プロゲーマーになると言い出してからでも遅くない。
つまり今の世の中、どんな能力が将来生きるかわからないので、中高生のころから勉強だけでなく、邪気眼以外の「スキル」を身に着けておくことも大事ということだ。
しかし、社会で生きることを苦痛に感じている人が、一人でも多くひきこもりでも生きていける方法を真剣に考えた場合、スキルを身に着け家から出ずに稼げるようになろう、というのは、難易度が高く再現性が低いような気がする。
それに自分がそう言ったことにより「○○さんの年齢は?年収は?恋人は?調べて見ましたがわかりませんでした!」というような、クソキュレ―ションサイトが増えても困る。
よって、もはや家で「働く」という概念すら捨てることにした。やはり時代は不労所得である。
ひきこもりになりたいが、今一歩将来が心配で踏み出せない、という人のために、働かずとも不労所得だけで生活を成り立たせることが出来るか否か、株を何点か購入したその日に安倍首相が退任を表明し、日経株価が激オチくんして、オラびっくりしているのが現在である。
またしても、「外で働くのが一番簡単で堅実かつ、間違ってもマイナスになることはない」という事実を覆せなかったが、この「不労所得・生活編」は水面下で続けて行こうと思うし、成果が出たらここで発表しようと思う。
つまり、私から言い出すまで絶対に「株はどうなりましたか」と聞いてはならない。
しかし、労働よりもさらに確実なのは「支出を減らすこと」である。前回言った通り、支出さえ少なければ、ひきこもりとして生きる難易度はぐっと下がる。
私も今まで「節約」というものを意識したことがなく、必要性も特に感じていなかったが「節約すればするほどひきこもりでいられる期間が長くなる」ということに気付き、がぜんやる気が出てきた。
このように「節約」をするには何よりまず「目的」が必要なのである。
それも「老後2000万ないと野垂れ死ぬ」というようなネガティブな目的のための節約は長くは続かないし、生きる意欲がなくなり、「老後が訪れる前に死ぬ」という斬新な方法で老後2000万円問題をクリアすることになってしまう。
たとえ大きな目標が「老後のため」であろうとも、それとは別に「インドかアムステルダム、もしくはカナダに旅行に行く」等のポジティブな目的も必ず必要なのである。ちなみに場所に他意はない。
私も今まで節約に前向きでなかったが「1円節約するたびに、ひきこもれる時間が1秒増える」と言われたら、全く苦ではなくなってくる。
とはいえ、空腹や暑さ寒さに耐えるような生活では、やはり心が荒んでくる。
まず目指すのは「無駄のない生活」、つまり「ミニマリスト」の精神である。
それにしてもつくづく、「ミニマリスト」というのは名前で損をしていると思う。
我々のような、スタバに用意されているコンセントをソシャゲの周回のためのしか使ったことがない人間は、「ミニマリスト」などという言葉を聞いた瞬間「しゃらくせええええ!」と家中の棚という棚の中身を床にばら撒いてしまい、ますますミニマム生活から遠ざかってしまうのだ。
もっと「短小生活」とかダサい名前で我々に親しみを持たせてほしかった。
ネットで見かけるミニマリストの部屋が、軒並みローテーブルにアイパッド、やたら白いドラム式洗濯機、という感じなのでミニマリスト=意識高い系のオシャレ生活、というような印象を抱いてしまうが、ミニマリストの本質はオシャレではない。
ミニマリストとは必要最低限の物で暮らすことだが、「必要」の定義は暮らすのに必要なものだけではなく、「自分にとって必要なもの」も含まれているのである。
つまり、生活にはマストではなくても、自分の人生を豊かにしてくれるものなら、たとえ他人からは「その破廉恥な絵が描いてある、やたらでかい抱き枕は無駄ではないか」と思われていても、ミニマリストの精神からすると「必要な物」になるのである。
この考え方は家計にも応用できる。
今の生活を見直し、生活のために必要な出費と、豊かな心のために絶対に必要な出費だけを残すことにより、家計もミニマム化できるのだ。
また、持ち物が少なければデカい家に住む必要もないため、家賃と言う大きな固定費を減らすことにつながる。
現在私はこの原稿を、床というものが存在しない部屋で書いている。
床がない、というのは抜けている、という意味ではなく、物を置き過ぎて肉眼で見えなくなっているだけだが、そのうち重みで物理的に床がなくなる日が来るかもしれない。
さらに、二人住まいなのに、二階建ての一戸建てに暮らすという、マキシムな生活を送っている。
デキるだけ生活をコンパクトにするのが、ひきこもりになる近道であり、長くひきこもりを続けるコツである。
そういった意味では、何十年もローンを払うような住宅を購入する、というのは一番やってはいけない。家が欲しいなら一括だ。
ひきこもりになるための方法はまだ示せていないが、「ひきこもるために絶対にしてはいけないこと」を示せただけでも満足である。
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。長州出身の維新派。漫画作品に『クレムリン』『アンモラルカスタマイズZ』『ニコニコはんしょくアクマ』『やわらかい。課長 起田総司』『ヤリへん』『猫工船』『きみにかわれるまえに』。エッセイに『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』『猥談ひとり旅』『非リア王』など。現在「モーニング」で『ひとりでしにたい』連載中&第1巻発売中。最新刊『きみにかわれるまえに』(日本文芸社)も発売中。