早大生本読みのオススメ「没入感の高い小説」10選

文字数 3,174文字

今、どんな作品を読んだらいいの?

そんな疑問にお答えするべく、大学生本読みたちが立ち上がった!

京都大学、慶應義塾大学、東京大学、早稲田大学の名門文芸サークルが、週替りで「今読むべき小説10選」を厳選してオススメします。

古今東西の定番から知られざる名作まで、きっと今読みたい本に出会えます。

春。この季節がうららかなのは俳句の世界だけで、現実では環境の変化に気疲れしたり、気付けば桜は緑だし、実は一年で最もてんやわんやなシーズンだ。

ましてや未曾有のウイルス災害。いま小説に求められている役割はなんだろうか。色々大変な時期だからこそ、現実を忘れさせてくれるような、とにかく楽しいものがよいのではないか。そういった角度で時節に「ちなむ」ことに決めた。

テーマは『没入感』。読み終わって「面白かったー!!」と思うのはもちろんのこと、読んでいる最中も面白い小説の選書を心がけた。

主題には沿いつつも、散弾銃が如くジャンルをバラけさせたかったのですが、私の正面にミステリがあるので、着弾地点がどうにもちょっと偏りました。

(執筆:My/ワセダミステリ・クラブ)

ワセダミステリ・クラブ(わせだみすてり・くらぶ)/早稲田大学

1957年に江戸川乱歩先生を顧問に発足した総合文芸サークル。数多くの作家、評論家、翻訳家等を輩出してきた。

現在の部員は50人ほどで、日夜活動している。

①『ハサミ男』殊能将之

第13回メフィスト賞。この不吉な数字を纏って君臨する作品は『ハサミ男』であって他ならない。

美少女を殺害し、ときんときんに研ぎ上げた金属製のハサミを死体の喉笛に深々と突き立てる猟奇殺人鬼・ハサミ男。

世間を震え上がらせる狂人・ハサミ男はある日、犯行に及ぶ際に死体を発見する。

その首元にはハサミ男のトレードマークであるハサミがギラギラと突き刺さっていた。

自分の手口を真似た模倣犯は一体誰なのか。

犯人視点で謎を追い掛ける倒叙モノとしての緊迫感もさることながら、大胆な仕掛けのトリックも一級品で、もうホント最高。

物語全体を包み込む、ひんやり冷たく心地よい低温の文体は正にハサミ。

淡々と描写される異状に、ページをめくる手が止まらない。

②『獣の奏者』上橋菜穂子

巨大な生物が闊歩し、竪琴と笛の音が響く世界。

そこに暮らす人々の息遣い、食べているもの、守るべき理を、鮮やかな筆致で描いた名作。

ファンタジーと現実は対極に位置するように思えて、実は非常に近しい存在である。

究極のファンタジーとは果てなき幻想世界ではなく、もう一つの現実を生み出すものであり、この『獣の奏者』がそれである。

③『夜のピクニック』恩田陸

歳を重ねるたび、夜が好きになった。

それにつれて、だんだん自分の中で『夜ピク』の存在も大きくなった。

本書は高校生が夜通し歩く物語である。

「それだけ?」と思われた貴方は野外を夜通し歩いた経験がおありだろうか?

自慢だが、私はある。

寝静まった街に、自分と友の足音だけが響く。

普段は絶対にしないのに、立ち止まって星とか眺めてた。

いつしか身体も心も疲れ果てるがそこで交わす言葉は真で、満身創痍で出会った朝日がどうしようもなく美しかった。

大人か子供、あるいはその重複部分に立つ貴方の青春入門編に。

④『名探偵のはらわた』白井智之

「こんなご時世なのに人がバタバタ死ぬ物語を楽しんでいいのだろうか」と眉を顰める方がいるかもしれない。

別によいのではないか、小説は小説だ。

日本中を震撼させた伝説の殺人犯たちが現代に蘇り、そこかしこで大事件を起こすトンデモ設定のミステリ小説。

今日のジャパンの百倍しっちゃかめっちゃかな日本に触れることで、心の持ちようが変わることもあるだろう。

⑤『インパラの朝』中村安希

突然、どこか遠くへ行きたい衝動に駆られる。

YouTubeで旅動画を見れども心は満たされず、却ってやり場のない憧憬が募るばかり。

そんな時にはこの本を。

本書は著者の中村安希さんが684日もの間、世界を放浪した際の記録である。

大きなメディアでは映らない景色が、強く、それでいて繊細な筆致で描かれている。

紀行文としても素晴らしいが、自分の足で歩く意味を教えてくれる作品でもある。

お守りのような一冊。

⑥『六枚のとんかつ』蘇部健一

稚気、忘れていないだろうか。

幼稚なアソビ心は時としてどんな理由をも凌駕する原動力となる。

『六とん』は有名なバカミス作品で「単なるゴミ」と称されたこともあるが、実際はとても面白い短編ミステリである。

没入感がテーマなのに短編集とはこれいかに、やもしれぬ。

が、『六とん』が持つ引力は実際凄まじいものだ。

考えるに、繋がりとか突拍子とか、本来あるべきものがあまりにも無さ過ぎて、却ってハマってしまうのだ。

「クセになる」と言ってもいい。

パンチドランカー状態かもしれぬが、これほど手を替え品を替えて、読者を飽きさせない短編集は他にないのもまた事実である。

いつだって笑っていたいけど、特に笑いたい時にどうぞ。

⑦『折れた竜骨』米澤穂信

十二世紀のヨーロッパ。

北海に浮かぶ小国家、ソロン諸島では慎ましくも平和な時が流れていた。

しかし平和は長く続かない。

一人の老兵の死、心臓を貫かれて絶命した領主、正体不明の「暗殺騎士」とは……。

動く青銅人形、塔に囚われた不死身の青年、捜査のカギを握る騎士の魔術。

ミステリと魔法が見事な融合を果たした一冊。

カンテラやビスケットを使用した捜査パートが爆裂にアガるのは確かだが、大迫力の戦闘シーンもたまらない。

ミステリ、ファンタジー、時代物。

小説を構成するすべてのレイヤーが最高級品、楽しさ全部載せの一冊。

⑧『夜は短し歩けよ乙女』森見登美彦

京都の大学生男女二人が主人公の連作短編集。

夜も更けた妖しき京都の街を飲み歩く乙女と、そこで出くわす様々な不思議を描いた表題作。

そのほか古本市や学園祭などのひょんな一幕を、軽妙かつクドイ、独特な文体で描き切った一冊。

何と言っても文体が面白い。

その個性的な文章は物語全体に爆発的な推進力をもたらしており、グイグイとページをめくる手が止まらない。

読み終わる頃にはお酒も狭い部屋も雑多な思考とかも、ちょっと素敵なものに思えるかも……?

⑨『私はあなたの瞳の林檎』舞城王太郎

最高が三つ、ギュッと詰まった短編集。

壁にぶつかる事もあるだろうし、それはきっと必要なことなのだろうけれどやっぱり辛くて、そんなとき足場になってくれるかもしれない一冊。

怒涛の勢いで流れ込む言葉が気持ちよすぎて叫んでしまう。

愛だ恋だ惚れた腫れた、たしかに使い古されて耳ダコなテーマかもしれないけれど、それでも本書で描かれる愛はホンモノだ、わたしホンモノの愛知らないけど。

⑩『アルカトラズ幻想』島田荘司

小説を論じる軸の一つに大きさが挙げられる。

四六判とか厚みではなく、ここで論点となるのは中身の大きさである。

猟奇殺人、恐竜絶滅の謎、脱獄不可能の監獄島アルカトラズ、地底に広がるパンプキン王国……。

荒唐無稽なこれらをアクロバティックに纏め上げたのがこの『アルカトラズ幻想』である。

ハンバーガーに具を挟んでいる側とそれ以外のすべてを挟んでいる側があるように、所詮はインクの染み付いた紙束に過ぎない一冊の本が超ド級の世界を内包することもあるのだ。

天を動かす奇想であなたもメロメロに。

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