今月の平台/『標本作家』小川楽喜

文字数 2,393文字

ひら-だい【平台】…書店で、書籍や雑誌を平積みする台のこと。


書店の一等地といっても過言ではない「平台」は、今最も注目のオススメ本&新刊本が集まる読書好き要チェックの胸アツスポット!

毎月刊行される多くの小説の中から、現役書店員「これは平台で仕掛けたい!」と思うオススメ書目1冊をPick Up!&読みどころをご紹介!

さらに、月替わりで「今月の平台」担当書店員がオススメの1冊を熱烈アピールしちゃいます!

「今月の平台」担当書店員、

紀伊國屋書店梅田本店小泉真規子さんが熱烈アピールする一冊は――

小川楽喜『標本作家』

 地球上に物語が生まれて数千年。膨大な数の作品が今現在もなお生み出され続けているが、果たしてこの先数千数万年後、あるいは未来永劫物語はあるのだろうか?


 第10回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作である本作の舞台は西暦80万2700年。人類滅亡後、高等知的生命体「玲伎種」は人類の文化を研究するため、収容施設「終古の人籃」を設立し、標本と化した蘇生した歴史上の名だたる作家たちに小説を執筆させていた。その代償は、不老不死の肉体を与えることと、彼らの願いを一つだけ叶えること。だが、さすがの文豪たちもその才能を枯渇させていき、玲伎種によって〈異才混淆〉──他者の主観を我がことのように理解するシステム──を導入され、歪んだ共著を数万年強いられ続けてきた。そんな現状に対して、作家と玲伎種の交渉役である〈巡稿者〉メアリ・カヴァンは、ささやかな、しかし重大な反逆を試みた──。


 普段SF作品に変な苦手意識があり、いつもならなかなか手に取らないのだが、本作は初見でなぜか気になって思わず手を伸ばしていた。西暦80万年なんて途方もない未来、SF脳ではない私には想像も出来ないけれど、「人類滅亡後の地球で再生された歴史上の文豪たちが永遠に小説を書き続ける」世界なんて本読みとしては気になるに決まっている!! そんな風にして出会えた本作は、壮大で重厚で、平凡な私にはとてもじゃないけれど語ることは出来ないと思えるほどだった。


 かつて天才と呼ばれた文豪たちは、果たして永遠に傑作を生み出し続けることは出来るのだろうか。人類が滅亡しても物語を生み出し続けることは可能なのだろうか。ゼロから物語を生み出す労力を、いつもただ本を読むだけの私にはなかなか理解しえない。これはきっと、物語を愛するがゆえに物語を永遠に求めてしまう人たちへ贈る、「物語のための物語」なのだろう。

 21世紀の現代では毎日たくさんの本が紙や電子で出版され、日々たくさんの作家たちによって物語が生み出されている。物語を読み続けられている今に、強く強く感謝したいと思う。

現役書店員が今月「仕掛けたい!」と思う一冊は――

丸善名古屋本店 竹腰香里さんの一冊


『がらんどう』

大谷朝子 集英社


平井と菅沼。ルームシェアを始めた40過ぎの二人の女性。気兼ねなく心地良い共同生活。そんな中、主人公の平井の心の焦りがだんだん溢れ出していく。読後はもう共感しかなく、私は? と自分を振り返り、色々と考え込んでしまいました。生きづらさを感じる人に捧げたい物語。

ときわ書房本店 宇田川拓也さんの一冊


『インヴェンション・オブ・サウンド』

チャック・パラニューク 早川書房


『ファイト・クラブ』の著者、じつに18年ぶりとなる新刊邦訳。行方不明の娘を探し続ける危ない男と悲鳴に囚われたハリウッドの音響技師の女。ふたりが迎える凄惨極まりないクライマックスに我を忘れる。やっぱパラニューク、やべえな。

大垣書店イオンモールKYOTO店 井上哲也さんの一冊


『漂流都市』

嶋戸悠祐 講談社


元電器屋の店員であった著者だからこそ描くことの出来たリアリティ、拘りのディテール。轟家電のきめ細やかなサポートは、老人達の生活に食い込み、心の奥底まで深く染み込んで、逃れることを許さない。暗澹たる想いが残るが、これは「今ここにある危機」その物なのかも知れない。

丸善博多店 徳永圭子さんの一冊


『荒地の家族』

佐藤厚志 新潮社


消えることのない喪失感を負って、地域社会を生きていく。地に足つかず羽ばたかない人々がリアルで、仕事や労働、家族が軸にも枷にもなって藻搔くように暮らす主人公の姿が、静かに描かれていく。流れる時間の速度の緩急を感じながら読んでほしい。

紀伊國屋書店横浜店 川俣めぐみさんの一冊


『黄色い家』

川上未映子 中央公論新社


お金も、親からの愛情も持っていなかった少女。ただ一生懸命に生きていただけだった彼女が「犯罪」に手を染めていく過程があまりにも自然で読みながら震えた。お金と風水を鎧にして生きていく不安と闘っていた少女をぜひ見守ってほしい。

うなぎBOOKS 本間悠さんの一冊


『黄色い家』

川上未映子 中央公論新社


彼女たちと年代がバチ被りなのもあり、当時の空気感漂う……というか、当時の空気のただなかにブチ込まれたような。「もし自分だったら」を問うまでもなく、自分の目で、自分の手で、自分の身体そのもので体感する濃厚な読書でした。川上未映子万歳!

丸善丸の内本店 高頭佐和子さんの一冊


『真珠とダイヤモンド(上)(下)』

桐野夏生 毎日新聞出版


夢を叶えるために証券会社に入社した二人の女性を通し、バブルという狂騒の時代を描いた傑作。凄まじいほどの臨場感とスピード感。容赦なく襲いかかる過酷な運命。あの時代は、私たちに何を残したのだろうか。

出張書店員 内田剛さんの一冊


『覇王の轍』

相場英雄 小学館


眩しい開発の裏側には深い闇が横たわっており、歪んだ線路の下には名もなき人々の命が地層となっている。組織による隠蔽、巨悪による脅迫。真の正義はこの世に一つ。未来のためにこれ以上の犠牲は絶対に許してはならない。怒りの声が高らかに聞こえる告発の書だ!

この書評は、「小説現代」2023年4月号に掲載されました。

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