〈7月18日〉 今村翔吾

文字数 3,245文字

(おに)(たたか)

赤丸(あかまる)(さま)!」
 (おお)(ひろ)()一人(ひとり)(おとこ)()けこんで()た。黄介(きすけ)はその()(とお)(はだ)()(しょく)。いや、厳密(げんみつ)()えば(ぎゃく)で、()(いろ)(はだ)()まれたから黄介(きすけ)なのだ。(おれ)たち一族(いちぞく)はそれぞれ(はだ)(いろ)(ちが)って()まれる。そしてその(はだ)(いろ)()わせた()()ける(なら)わしだ。そのような(おれ)たちを(ひと)(いや)しんで「(おに)」と(べっ)(しょう)()んでいる。
黄介(きすけ)、どうだ」
 赤丸(あかまる)胡坐(あぐら)()いたまま()()()した。
(まこと)でした……すでに(ふね)に。()もなく()ます」
 昨日(きのう)
――吉備(きび)桃太郎(ももたろう)(ごう)(ゆう)(はい)()(にん)(とも)(おに)()(しま)目指(めざ)しているとの(よし)
 というよからぬ(はなし)(はい)った。
 そもそも「(おに)()(しま)」なる島名(とうめい)(ひと)勝手(かって)名付(なづ)けただけで、(おれ)たちはこの(しま)をただ「(しま)」とだけ()んでいる。
 そして(くだん)桃太郎(ももたろう)(うわさ)には()いている。(なに)やら(かわ)(なが)れた(もも)から()まれたなどという。まず眉唾(まゆつば)(ばなし)であろう。その(わん)(りょく)()(がみ)()きで、(となり)(むら)との(あらそ)いでは、百(にん)若者(わかもの)をたった一人(ひとり)()(たお)したという。
 その桃太郎(ももたろう)(むら)(えき)(びょう)見舞(みま)われたらしい。(はたら)くことも出来(でき)ずに(こん)(きゅう)する村人(むらびと)(たい)し、人並(ひとなみ)(はず)れて(げん)()だった桃太郎(ももたろう)は、
――(おに)()(しま)には財宝(ざいほう)があるという。(うば)って()る。
 といって出立(しゅったつ)。しかも()(ちゅう)犬神村(いぬがみむら)用心棒(ようじんぼう)犬五郎(いぬごろう)(きじ)(とうげ)盗賊(とうぞく)雉之介(きじのすけ)猿渡(さるわたり)(みさき)海賊(かいぞく)猿右衛門(さるえもん)(はい)()(くわ)わったという。
(やつ)らこのような(じょう)(せい)(なぐ)()うとは正気(しょうき)か」
 昨今(さっこん)正体(しょうたい)()(めい)(えき)(びょう)蔓延(まんえん)している。感染(かんせん)すると()にも(いた)()(けん)(やまい)である。(おそ)らく桃太郎(ももたろう)(むら)(おそ)ったのもそれだ。だが対策(たいさく)()いでもない。()まめに()(あら)うこと、そして(たが)いに一(けん)(はん)()(じょう)(きょ)()()けることだ。(ゆえ)(いま)黄介(きすけ)とこの(きょ)()(たも)っているのだ。
「あっ……()たようです。流石(さすが)(はや)い!」
 (そと)(さわ)がしくなったので、黄介(きすけ)吃驚(きっきょう)(こえ)()げた。赤丸(あかまる)(いそ)いで(おもて)()()けると、(なか)()()(まど)い、それを桃太郎(ももたろう)らが()(まわ)していた。
「おい、桃太郎(ももたろう)!」
「お(まえ)(かしら)か。いざ(じん)(じょう)(しょう)()!」
 ()かってくる桃太郎(ももたろう)を、赤丸(あかまる)諸手(もろて)()()して()めた。
()て、()て、()て! お(まえ)馬鹿(ばか)か! 二(けん)()けないと()(けん)だ!」
「えっ……何故(なぜ)だ?」
()らぬのか……」
 赤丸(あかまる)滔々(とうとう)(えき)(びょう)について説明(せつめい)すると、桃太郎(ももたろう)(かお)がそれこそ同朋(どうほう)のように(あお)()まる。
「では(おれ)も……」
「ああ、(けん)()したほうがよい」
「だが村人(むらびと)(こま)っているんだ」
(かね)なら()けてやる」
「え……」
(こま)った(とき)はお(たが)(さま)だ。(いま)(あらそ)うべきではない。(たたか)うべきは(ほか)にいるのだ」
 赤丸(あかまる)凛然(りんぜん)()うと、桃太郎(ももたろう)()(まど)いながらも(ふか)(うなず)いた。


今村翔吾(いまむら・しょうご)
1984(ねん)京都(きょうと)()()まれ。2017(ねん)()(くい)(どり) ()(しゅう)ぼろ(とび)(ぐみ)』でデビューし、同作(どうさく)(だい)(かい)(れき)()()(だい)作家(さっか)クラブ(しょう)(ぶん)()()()ろし新人(しんじん)(しょう)受賞(じゅしょう)。「()(しゅう)ぼろ(とび)(ぐみ)」は(だい)ヒットシリーズとなり、(だい)(かい)吉川(よしかわ)英治(えいじ)(ぶん)()(しょう)(こう)()に。’18(ねん)童神(どうしん)」(刊行時(かんこうじ)(わらべ)(かみ)』に改題(かいだい))で(だい)10(かい)角川(かどかわ)春樹(はるき)(しょう)(せつ)(しょう)(じゅ)(しょう)同作(どうさく)(だい)160(かい)(なお)()(しょう)(こう)()となった。『(はち)(ほん)()(やり)』で(だい)41(かい)吉川(よしかわ)英治(えいじ)文学(ぶんがく)新人(しんじん)(しょう)(だい)(かい)野村(のむら)胡堂(こどう)文学(ぶんがく)(しょう)をダブル(じゅ)(しょう)近著(きんちょ)の『じんかん』が(だい)163(かい)(なお)()(しょう)(こう)()となる。

近刊(きんかん)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み