『世界のまどねこ』新美敬子さんインタビュー!

文字数 3,095文字

猫の登場する本を紹介する、「ねこぶんーねこぶんがくー」が始まります!


第1弾は、『世界のまどねこ』

世界中を旅して、猫を追いかけているフォトグラファーの新美敬子さん

新美さんは言います。

「猫が窓辺でなんか言っているな~と近づいて撮ると、猫と仲良くなれ、飼い主さんとも話ができる。窓辺で光を感じながら過ごしている猫の瞳を見ていると、その家や街の物語が始まっていくんです」

そうして、素敵な猫フォトエッセイが出来上がりました。


『世界のまどねこ』刊行を記念して、新美敬子さんに撮影こぼれ話をおききしました!

――世界中のかわいい猫がいっぱいのオールカラー文庫ですね。「まどねこ」とは?


窓に寄り添っている猫のことです。最初から「窓と猫」にこだわってはいなかったのですが、「窓辺にいる猫がなんか言ってるな~」と近づいて、撮ると、猫と仲よくなれ、猫の飼い主さんとも話ができるという流れで、窓辺にいる猫に注目するようになりました。

いちばん古いのは、1990年12月撮影のフランス、マントンの猫です。当時は、ポジフィルムでしたね。この本は、30年以上前から撮り続けている「まどねこ」の集大成になります。そのフランスの猫はとても懐かしい1枚なので、冒頭に据えました。


――とくに印象深かった訪問先は?


ポルトガルですね。いろいろな猫と窓と飼い主さんとの関係にふれることができました。


――ポルトガルの猫というと、『世界のまどねこ』の帯にも登場するタヴィーラの青い首輪の猫が印象的です。


朝早い時間から散策をはじめ、常夜灯の明かりが消えたとき、わたしはその家が面している小道を歩いていました。明かりが消えて暗くなったその瞬間、なぜか肌寒くなったように感じました。すると、目の前の2階の窓からまるでお日様が上ったかのような明るい色の猫が姿を現しました。一瞬で気持ちがホカホカに。窓の下まで行くと、猫は少し身を乗り出しました。彼は、しばらく窓の外を見ていました。


――洗濯の物干しの手伝いをする猫が出てくるエヴォラという街も気になりますね。


ポルトガル・エヴォラのストーリー(窓、写真)は、5つ載っています。エヴォラには何度も訪れていて、3つの異なった撮影時期の写真が登場します。小高い丘の上にある旧市街。住宅街を歩けば、石畳の路地に面した家々の1階の腰高窓が様々な表情で出迎えてくれます。外壁の厚さの分だけ、窓は内側に入っているので、そこにできる15センチほどの額縁のスペースに猫が乗っていることがよくありました。猫をなでたりしていると、家の人が窓から顔を出して、猫自慢をはじめる……、そういうことのあるエヴォラへまた行きたいなと思ってしまうのです。


――飼い主に声をかけるのですか? 


写真を撮る前後に「まどねこ」の家の人に声をかけています。いろいろな話が聞けるのでエッセイが書けているのですが、あるときこんなことがありました。「うちの猫がきれいだから、撮ったの? そうよね。この猫ママなの。子猫がこれ、日光浴の時間」と、窓辺に子猫が置かれると、お母さん猫は子猫を舐めていました。しばらくすると、「撮った? 次はこれ」と、ウサギが出てきました。そのあと、亀が。すごいサービスをしてくれたと思います。これもポルトガル、エヴォラの思い出です。


――コロナ禍で旅行も制限されましたが、再開後に行きたいところは?


3年も海外に出ていないので、たびたび訪れていた街の猫たちのことが気になります。わたしの体力と旅行のカンも衰えているのは明白ですから、まずは近いところで台湾に行きたいです。そのあとは、『世界のまどねこ』を見ながら、どこに訪問しようか思いを巡らそうと思います。マルタ、アムステルダム(オランダ)、サルデーニャ島(イタリア)で出会った「まどねこ」たちにも、再会したいですね。


――サルデーニャ島の猫といえば、表紙にもなったレッドという名前の猫ですね。


 レッドの飼い主さんは若い女性でした。英語で話します。私の英語力はとても拙いのですが、どこの国でも若い人ならだいたい通じます。猫の名前や特技、性格などエピソードを聞くことはできます。飼い主さんが英語を話さない人だと名前すら聞けないことはしばしばでした。そんなことを想定して、あらかじめその国の言葉で、「猫」「可愛い」「立派だ」「名前は?」などの単語をメモ帳に書いておいて、発音も練習しておきます。名前を教えてもらったときには、メモ帳に英語表記で書きます。すると、飼い主さんはたいてい覗き込んでいて、間違っているときには、書き直してくれたこともありました。


――マルタ島では窓の下のビーグル犬を威嚇する猫が出てきますね。新美さんがシャッターチャンスをとらえるのが素早いのか、猫のほうが猫好きのにおいをかぎつけるのか、どちらでしょう?


 ビーグル犬を威嚇する猫は、町歩きをしていて偶然出会いました。まぁ、ほとんどみんな偶然に出会ったものなのですが。猫が、窓から乗り出している姿が目に入ったので、近づくと、猫はテンションが上がっている途中で体を大きく見せはじめていました。そこで初めて、私は耳を澄まし、音が近づいてくることに気がつきます。なんの音だろうと思ったら、ビーグル犬が耳を地面につけながら歩いてきました。きっと、犬も猫も日課なのだと思います。犬は、下を向いて臭いを嗅いで歩いているので、窓から威嚇している猫の姿は目に入っていないはず。それでも、犬が窓の近くを通るときにシッポをぶるんぶるんと振って威嚇していた猫。どうして、それほどまでに神経質になっているのだろうと思えば、背後にもう1匹猫がいました。三毛猫なので妹です。そこから、「妹を守るため」というタイトルにしました。

シャッターチャンスをとらえるのは、それは素早いと思います。ただ、この場面は、どういう状況なのかが把握できたので、物語が捉えられた一瞬でした。のんびりと近づいてきているビーグル犬に、猫がしびれを切らした瞬間かもしれません。


――猫の写真を撮るときのワンポイントアドバイスをお願いします。


まず、猫とアイコンタクト。「撮っていい?」とカメラを見せて聞くと、「いいよ」と合図をくれます。そのあと、「あなたの一番いいところを引き出すよう撮るからね、シャッターチャンスをくださいね」と思いながら、猫の背景に注意します。ほんの少しカメラを構える位置を変えるだけで背景が整理できます。猫が周囲の色に溶け込んで目立たなくなってしまわないよう、背景を気にして撮影ポイントを探りましょう。


――おうちで「まどねこ」を撮るときは?


部屋の内側から窓辺にいる猫を撮ろうとすると、たいていはシルエットになってしまいます。部屋の中から撮るときは、できるだけ窓の面に対して角度を鋭角にとるようにします。窓に近づいて「右から」「左から」「下から」「上から」少しずつ角度を変えて、猫がきれいに見えるアングルを探ります。庭やベランダから撮ることができるのでしたら、外から撮るのもおすすめ。ガラスに映り込む反射に気をつけて、クローズアップで猫のいろいろな表情を収めましょう。


――ありがとうございました。


新美 敬子(ニイミ ケイコ)

1962年愛知県生まれ。犬猫写真家。1988年よりテレビ番組制作の仕事につき、写真と映像を学ぶ。世界を旅して出会った猫や犬と人々との関係を、写真とエッセイで発表し続ける。近著に『猫のハローワーク』『猫のハローワーク2』(講談社文庫)をはじめ、『世界の看板にゃんこ』(河出書房新社)、『わたしが撮りたい”猫となり”』(主婦の友社)など。

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色