メフィスト賞2022年下期 印象に残った作品

文字数 1,829文字

座談会にはあと一歩届かなかったけれど、編集部員が読んで印象に残った作品を公開いたします。

『チャンネル登録者が欲しいので、ヒバゴンを殺そうと思います』

 文章に勢いがあり読みやすく、書き慣れた方という印象です。最後に明かされる主人公の正体を知らずに読み進めることになるので、主人公があっけらかんとして魅力的なキャラクターなのにもかかわらず、チャンネル登録者を増やしたいがために「ヒバゴンを殺す」と発想することに違和感を持ちました。疾走感という魅力の一方で、雑に思えてしまう部分が気になりました。

 

『RGBロック』

 日常に舞い込んだ突然の事件、冒頭からワクワクさせられました! 冒頭の「盗聴」という言葉など、わかるなあと思わされる表現も多かったです。作品に書きたいことを詰め込みすぎて全体的に冗長になってしまっているので、読者が読むということを念頭に置いて、書き込むところと削るところを意識していただけたらさらに魅力的な展開が映えると思いました。


『ロンダリング・バタフライ』

土 バトルロワイアル的生き残りゲームという題材としては選ばれがちなものながら、文章力と構成で一気に世界観に引き込まれました。ただ、残念ながら殺し合いをさせる理由となる「人工超知能」の設定と物語においての説明が弱く、本編と乖離してしまっているため、読者を納得させるところまで到達しているとは言い難いものになっています。ぜひラストで「だから、この導入、展開だったのか」と思わせる構成を目指してください。次回作を楽しみにしております。

 

『神の邪視』

U 書き手の方の知識と、調べたことを小説にいかす技術が感じられる力作で、世界観に引き込まれながら読み進めました。ただ、入り込むまでにはなかなか時間が必要で、舞台やテーマのハイブローさを思うと、もっと読み手を引き込む工夫をした方が良いと感じました。ミステリの真相もはまりきっていません。モチーフと舞台とストーリーがより嚙み合うテーマをこの方なら見つけられると思います。

 

『あれから それからーー技術者 長渡の日常ーー』

冥 とてもしっかりとしたミステリでした。次はさらに外連味たっぷりの、やりすぎなくらいの設定のものが読みたいなと思いました。

 

『恋するクローン』

冥 大胆な設定とキャラクターがとても魅力的でした。また違う作品も読みたい!と思いました。

 

『赤の女王の窮追』

巳 文体も確立されている悲しくも美しく思索的な作品でした。サンチマンタリスムと表現したくなるような感傷と、ひんやりとした知性が魅力的です。内省的で主人公のモノローグで進んでいくので、物語を動かすエピソードや出来事によって、読み手の先を読みたいという気持ちをひっぱることができると、エンタテインメントとして楽しめる作品になると思います。

 

『僕とメタフィジカルな《彼女》』

 作者が表現したいことを詰め込んだ力のこもった作品だと感じました。高いハードルにチャレンジしていることに敬意を表したいと思います。視覚に訴えるシーンが多く、そこが読者の想像に託されているので、もっと言葉で伝えてほしい。文章は修飾語句が多くもたつく印象です。文章のスキル、構成力が磨かれると完成度が大きく上がると思います。

 

『精神科医神森来夢』

巳 専門的な知識をベースに書かれているので、精神科医の目から見た患者、その家族、病状、診察などを興味深く読みました。「臨床の神」と呼ばれる精神科医の診察や見立てには魅力があります。こうした専門知識を活かした作品は、なかなか他の方には書けないので強みになると思います。反面、知識が深いために噓を書くことができず、ドラマが小さくなってしまう面もあるかと思います。病気にスポットを当てるのか、患者の物語か、研修医の成長を描くのか、焦点を決めて物語として一本筋が通ると小説として楽しめる作品に挑戦していただきたいと思います。

 

『妄想特区メルティチュー 〜彼女と彼女の妄想〜』

 冒頭から作品の設定と作者の妄想に連れ込まれる感覚でした。奇妙な世界の中で起きた事件の真相が、実にエモーショナルな点にも魅力がありました。個性的な登場人物たちが、奇妙な世界で事件に出会い解決するストーリーなのですが、ストーリーよりも設定や世界観を描くことに力点があるように感じました。その分、妄想特区を受容できるかどうか、あるいは設定に圧倒的な個性があるかが問われるように思います。

 

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