第27回/仕事=誰かから嫌われるということ

文字数 2,166文字

こちらはインターネットに生息するふしぎないきもの・にゃるらがインターネットと独り暮らしとそれ以外について深夜に執筆している画像付きエッセイです。→@nyalra


第1回はこちらから

 仕事を行うというのは、「確実に誰かから嫌われる」ことだなとしみじみ感じます。仕方ない。労働とは人間関係であり、人間関係とは上手くいくパターンのほうが圧倒的に少ないのです。


 たいへんなことだ。たとえば、僕がコンビニで夜勤アルバイトをしていたころは、こき使ってくる嫌味な店長のことを心底恨んでいたし、逆に店長は態度も仕事ぶりも悪い僕のことを疎んじていた。店長は待機室で同僚と雑談する際、監視カメラに映った僕の胡乱な仕事ぶりを再生し、その愚鈍な様子を小馬鹿にしながら笑っていた。なんて悪辣非道な大人なのだとこちらも見下していた。もちろん立場的には向こうが完全に上だけど。


 今思えば、向こうだってそうするしかなかったのでしょうね。僕は要領も悪いし遅刻もするしで負債でしかない。かと言って、致命的なミスをしたわけじゃないのでクビにもできない。比較的カバーし易い夜勤に配置して放置するのが最善策である。それでもやっぱり僕は凡ミスを連発するので、そのたび叱らざるを得ない。コンビニ店長なんて余裕があるわけないので、何度も注意するうちに雇い主としての大らかさよりも苛立ちの方が先にきてもおかしくない。次第に、僕への指導は皮肉と嫌がらせに変わった。「笑い者」にする選択をしたのですね。


 藤子・F・不二雄の短編集に『イヤなイヤなイヤな奴』なるお話があり、宇宙船で長い旅を行うメンバーの中に敢えて他メンバーから嫌われる行動をとる「イヤな奴」が存在し、いったいなぜ彼がそんな不可解で不愉快な行動をするのか……といったあらすじ。オチとしては彼は憎まれるために雇われた存在で、全員から嫌われることで宇宙船内のクルーを一致団結させることが仕事なのでした。


 アルバイトだって同じ理屈だ。どんな集団もわかりやすい「敵」が居ると団結する。僕が勤務していたコンビニの店長は、使いようのないカスアルバイターを反面教師のマヌケとして晒してみんなで嘲笑わせることにより、せめて他のアルバイト・社員たちがまとまるよう仕向けたのです。


 実際、気持ちよかったことでしょう。わかりやすい底辺の道化が同僚に居ることで、「コイツにならないように頑張ろう」「こんなヤツより私はマシだ」とやる気もでるし安心もする。「使えない同僚の悪口」という最強の共通言語によって仲間意識も発生しつつコミュニケーションが円滑になるのだ。そういった意味では、僕はかなり当コンビニへ貢献したとも言える。まあ、普通に仕事をそつなくこなす人間のほうが嬉しいだろうけれど……。


 それがイヤになって僕は辞めましたが、その後も店長は僕の次に使えない人間に対して同じことをするだろう。そうじゃないと一時間900円くらいで労働に従事しなければならない若者をコントロールできないから。正攻法としての労働環境の改善なんて、小さなコンビニの雇われ店長には現実的でない。時給も増やせなければ仕事量を減らすことも不可能なはず。なんなら、店長だって本社のエリートからはイジメられている身かもしれない。バックヤードに本社のマネージャーが視察にくるたび、人が変わったようにぺこぺこ頭を下げて媚びを売る姿が情けなかった。


 別にコンビニでなくとも、集団で働くかぎり同じ事例は起きるでしょう。大なり小なりこういった人間関係のドロドロは生まれ、絶対に誰かが嫌われる。これをクリアするには、その集団で大きな成果を生み出し、みんなが成功して平等に満足な対価と達成感を得るしかない。それは確率としてごく僅かなことだ。自分もゲーム製作を通して感じましたが、もしあんなに時間をかけて創り上げた作品がぜんぜん評価されなければ、きっとメンバー同士の仲はギスギス……とまではいかなくとも円滑なものではなかったはず。運良く僕らは現在でも同じグループで雑談するくらいにはチームワークは保たれました。もし全く売れずに批判だけされ続けるゲームになってしまっていたら、実質リーダーであった僕とはもう仕事をしてくれなかった未来もある。目に見えて険悪とならずとも、うっすら距離を置かれる。


 人間関係は怖い。その最小単位は作家と編集の2人だ。だから、人間関係が苦手な方は作家となることで、信頼できる編集と2人だけでやっていく選択もあり得る。もちろん、それ以上に人を増やせばそれだけ人間関係も複雑となり、嫌われる・恨まれる可能性も上がっていく。世捨て人に近い存在となって完全に独りで生きる手もあるが……。


 この話に教訓やオチもありません。どうあっても「労働」に臨めば他者から嫌われることになる。ただそれだけ。悲しい。けれども、それが生きるということなのでしょうね。

【スコープドッグのクッション】


ファッションセンターしまむらで購入したボトムズのクッション。まさか、しまむらで最低野郎に関するグッズを購入するなんてね。こういう謎コラボ(もちろんファンとしてありがたいけれど)のたびに、いったいどんな企画や会議か行われたのか気になってしまうのは職業病か。
来週も月曜深夜に更新予定です。それでは、おやすみなさい。

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色