『掟上今日子の鑑札票』刊行記念クロスレビュー#1

文字数 1,451文字

西尾維新の大人気シリーズ「忘却探偵シリーズ」の最新作がついに発売!

タイトルは『掟上今日子の鑑札票』――

シリーズ13作目であり、「必読の一冊!」と編集部が熱弁する本作の発売を記念して、

ミステリをこよなく愛する3名の著者によるクロスレビューを、短期集中連載!

第1回は、ときわ書房本店の書店員・宇田川拓也さんです!

度を越えた「まさか」と本屋の店員的注目ポイント

宇田川拓也(ときわ書房本店)

 

 ミステリに「まさか」の展開はつきものだが、寝ると記憶がリセットされてしまうがゆえ、どんな難事件もほぼ一日で解決に導く“最速の探偵”の活躍を描く〈忘却探偵〉シリーズ第十三弾、西尾維新『掟上今日子の鑑札票』におけるそれは度を超えている。


 レギュラーキャラクターである比類なき冤罪体質の青年――隠館厄介が、今回最有力の容疑者になってしまった狙撃事件の現場検証中、彼女は何者かに頭を撃ち抜かれてしまう。一命をとりとめるものの、探偵であることだけでなく、なんと『探偵』の意味も忘れてしまう「まさか」を皮切りに、エスピオナージやミリタリー・アクションもかくやの「まさか」の出来事が、つぎつぎと巻き起こる。しかし、驚くのはまだ早い。本作はシリーズを重ねても明かされることのなかった掟上今日子の“失われた設定”に、ついに踏み込んだ内容になっているのだ(この一冊によって既刊十二冊の捉え方も変わってくるのだが、ここではひとまず措く)。


 端的に表すなら、稀代のストーリーテラーによる探偵小説シリーズが到達した、『探偵』についての物語――である本作には、ミステリとして、またシリーズとしての注目すべき読みどころがほかにもある。とはいえ、ひとつひとつ触れていくとうっかり興を削ぎかねないので、代わりに本屋の店員である筆者ならではの注目ポイントをご紹介しておきたい。


 第5話「掟上今日子の徴兵制」において、隠館厄介はある場所で犯人と対峙することになるのだが、圧倒的に不利な状況下で、彼は(抽象的な表現になってしまうが)本の特性と役割について熱く説いていく。このシーンを読んだとき、よくぞ書いてくださったと、胸が震えた。売り場に足を運ばずとも、指先ひとつでデータを入手し、端末で愉しめる現在、いったい自分が日々何を扱い、この仕事にどのような意味があるのか、改めて教えられたように思う。読者の方々のなかにも、厄介の言葉に肯いてくださる向きが少なからずいらっしゃることを願いたいものである。


 最後に、発売に先駆けて本編を拝読したいま、とても気になっていることがある。それは、表紙のイラストがどのようになるのか、である。なぜそんなに気になるのか。読めばみなさんにも、筆者の気持ちがご理解いただけるはずだ。

『掟上今日子の鑑札票』

著:西尾維新 

illustration:VOFAN 

発売日:2021年04月22日

定価:1,540円(本体1,400円)

ISBN 978-4-06-522792-3

四六判ソフトカバー・256ページ


推理力を奪われた今日子さんのため、相棒・厄介(やくすけ)が奔走!

シリーズ最大の敵にどう挑む? タイムリミットミステリー!


「天井に書かれていた文字。あれを書いたのは私だ」


殺人未遂事件の容疑者にされた青年・隠館厄介。

いつも通り忘却探偵・掟上今日子に事件解決を依頼するも、

その最中、今日子さんが狙撃されてしまう。

一命を取り留めた彼女だったが、最速の推理力を喪失する。

犯人を追う厄介の前に現れたのは、忘却探偵の過去を知る人物だった――。

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色