「群像」2021年8月号

文字数 1,683文字

編集後記は、文芸誌の裏方である編集者の顔が見えるページ。

このコーナーでは、そんな編集後記を選り抜きでお届けします。

「群像」2021年8月号より

〈ケアは人間の本質そのものでもある。(中略)誰の助けも必要とせずに生きることができる人は存在しない。人間社会では、いつも誰かが誰かをサポートしている。ならば、「独りでは生存することができない仲間を助ける生物」として、人間を定義することもできるのではないか。弱さを他の人が支えること。これが人間の条件であり、可能性であるといえないだろうか。〉〈ケアとは困難を出発点として、切れかけたつながりを修復する営みでもあるのだ。〉


 村上靖彦さん『ケアとは何か 看護・福祉で大事なこと』(中公新書)からの一節です。おもに医療や介護の分野での具体例から「ケア」についての考察を深めていきますが、村上さんご自身も〈誰もが日常的に家族や周囲に対して行っているようなケアにも拡張できる〉とおっしゃっているように、「非当事者」かなと思っていた自分がいつしか「当事者」として考えているという、示唆と新たな発見にあふれた本でした。

 

 今月は、この「ケア」についての小特集を組んでいます。本誌で「ケアの倫理とエンパワメント」(単行本8月刊行予定)を集中連載された小川公代さんの新連載がスタート。堀越英美さんと惠愛由さんには批評を、articleでは、医学書院で「シリーズ ケアをひらく」を長年編集されてきた白石正明さんにお話をうかがいました。19人の「自分をケアする料理」からは、食という生活になじんだケアの断面が見いだせます。ケアというのはとても広い概念で、とてもひとくくりにはできません。ですが、この「コロナ禍」という困難な時代において、さまざまな分野で灯台のようにあるいは熾火のように光を放つなにかは、この「ケア」という言葉に包摂されているように感じています。本誌では今後も、それぞれの光を見つめていきたいと思っています。


 巻頭は〈長嶋有の20年〉。デビュー20年を迎えた長嶋さんに150枚一挙書き下ろしを、江南亜美子さんには長嶋有論を、インタビューでは北村浩子さんに聞き手をお願いし、これまでの歩みをたどっています。


◎橋本倫史さん「水納島再訪」は、沖縄の離島のみならず日本の近代まで見すえた集中連載。


◎創作は「初夏短篇饗宴」で5つの短篇と、砂川文次さんの中篇「ブラックボックス」一挙。


◎宮澤隆義さんの批評「大江健三郎のquarantine」では、パンデミックによって露わにされた統治される「群れ」としての「民衆」を、大江とブレヒトの読解を通して捉え返します。


◎「文芸文庫通信」今回は拡大版。7月刊『溶ける街 透ける路』から、多和田葉子さんのあとがきと鴻巣友季子さんの解説を掲載。「旅」欲がきわまっているかと思います、ぜひ本書を。


◎増村十七さん「100分de名言を求めて」が描くのは「老い」、講師は上野千鶴子さんです。


◎「DIG」では飯盛元章さんが永井均『私・今・そして神 開闢の哲学』を取りあげています。

 

6月1日から、編集部に新入社員Oが加わりました。群像に新入社員が配属されるのは、実に14年ぶり。ちなみに、創刊75年で新入社員が入ったのは5人だけだとか……07年入社のSはいま編集部に、89年入社のMは単行本にいますが群像も一緒に作っていて、「3世代」が同居することに。活躍をご期待ください。今月もどうぞよろしくお願いいたします。 (T)


〇第165回芥川龍之介賞の候補作に、石沢麻依さん「貝に続く場所にて」(本誌6月号)、くどうれいんさん「氷柱の声」(本誌4月号)が選出されました。

〇投稿はすべて新人賞への応募原稿として取り扱わせていただきます。なお原稿は返却いたしませんので必ずコピーをとってお送りください。

〇斎藤幸平氏、保阪正康氏、鷲田清一氏の連載、創作合評は休載いたします。

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