第26回 部屋が荒廃しがちなお前たちへの有益情報回

文字数 2,292文字

稀代にして奇態、現代を生きる伝説の漫画家・カレー沢薫がtreeに帰還!


前作「ひきこもり処世術」で大ひきこもり時代を総括したひきこもり・ジェダイ・マスターが次に取り上げるのは……「お金」!


お金にまつわる四方山話を集め資産2兆円(脳内)を目指すカレー沢薫の新たなる旅が始まるーー。

前にも書いたが自宅の10年点検があった。

よって、ハウスメーカーの人に家の中を見せなければいけないのだが、問題は私の部屋である。

他の部屋は夫が管理しているため築10年にしてはまだキレイな方だと思うのだが、私の部屋だけ明らかに50年ぐらい経過してしまっているのだ。


つまり私の部屋は精神と時の部屋と化しているので、これを見ているZ戦士の方は、私の部屋に修行をしにきてくれても構わない。かなり過酷な環境なので修行には持って来いだ。特に肺がやられる。


一応私にもまだ恥という概念が残っているので前日に多少掃除したのだが、どれだけ掃除しても床が腐っているのでどうしようもない。虫歯をどれだけ磨いても治らないのと同じだ。


いざとなったらドアに大量のお札、もしくは「大麻栽培中」の張り紙をして中に入らせないようにしようかと思ったが、結論からいうと今回の点検は私の部屋に入る必要はなかったようで、掃除し損であった。


点検自体は滞りなく終わり、幸い問題は見つからなかった。

しかし、以前から夫にハウスメーカーが来たら聞いてみろと言われていたことがある。


それは、御社が部屋の片づけをする家事代行的なことをやっているか、ということだ。


実は先日私の部屋にかなりデカめのGが出た。私的には私の部屋で発生した地元Gではなく、たまたま私の部屋に立ち寄った観光Gだと思っているのだが、夫的にはついに私がGを発生させたということで業を煮やし、「もうあなたの部屋は業者を入れた方がいい」と言われた次第である。


ここで私に部屋を片付けろと言うのではなく、「業者を入れろ」と言うあたり私へのわかりみが深くて助かる。

私もいよいよどうしようもなくなったら業者に頼もうと思っていたので、点検終了後「貴社、部屋の清掃とかやってくれる感じ?」と軽く聞いてみたところ、「やってますよ、どの部屋のどんな清掃ですか?」と聞かれてしまった。


そこで適当なことを言えばよかったのだが、私はアドリブに弱く、想定していないことを聞かれると、脳と口の間に市民待望の直通トンネルが開通してしまうため、つい「私の部屋が汚すぎるから代わりに掃除してもらえないかと思って」とドストレートなことを言ってしまった。


するとメーカーもまさか特殊清掃案件とは思っていなかったようで、「壁とか床の清掃やワックスがけはやっていますが」と急に声が小さくなってしまった。

何度も言うが腐った床にワックスをかけても多分無意味だし、壁には近々「堕天使」と書く予定なので清掃はいらない。


つまり、壁や床を掃除してもらうために、あらかじめこちらが壁や床が見える状態まで掃除しておかなければいけないということである。

そんなの、屏風のトラを捕まえるからまず屏風からトラを出してくれ、と言ってドヤ顔している一休と同じではないか。俺が殿様だったら首を撥ねている。


どうやら私が求めているゴミ屋敷清掃はやっていないようで、ただ私の部屋が汚く、自分では掃除したくないということをお伝えしただけになってしまった。


床が腐っているレベルの清掃依頼を考えている方は、ハウスメーカーやダスキソ的なところに頼もうとするといらぬ恥をかく可能性があるので、最初から会社名に「特殊清掃」や「遺品整理」と入っているところに依頼した方が話が早いし、数々の凄惨な現場を見ている彼らからすれば、ペットボトルに尿を貯めた「尿コレ」がないだけ私の部屋はキレイな部類と思われる。


ただし、パブロソの粉末が床で結晶化していたりするので、別の病(ビョウ)の気配を感じるかもしれない。少なくともまだここで人は死んでいないという点だけは評価してほしい。


ちなみに今のところ家に問題はないが、シロアリ予防工事だけはした方が良いということだ。

家の寿命を縮める要因をなくしたいなら真っ先に私を駆除すべきだと思うが、驚くべきことに私の駆除は法律に反しているので仕方がない。


ところで、このシロアリ防止工事が「16万」なのである。

普通に高いが未然の予防を怠たるともっと金と時間がかかる事態になるということは、自分の歯で経験済だ。

実際同じ団地内でシロアリの被害に遭い、気づいたのが遅かったため、かなり大規模な工事になった家があったという。

そう聞いて工事をすることにはしたが、もしかしてこれは不安を煽って工事を受けさせる手口で、シロアリに食われた家などどこにもないのかもしれない。


そういえば、シロアリ駆除といえば典型的な老を狙った詐欺の手口であり、もし今日来たのが詐欺業者だったとしたらまんまと騙されていることになる。

ただこのハウスメーカーは、どっちかというと、少し前に地面師に50億ぐらい騙されていた側なので大丈夫だろう。


だが、騙されるときは相手のことを1ミリも疑わずに騙されるということである。契約ごとに関しては最初から疑ってかかるぐらいがちょうどよいのかもしれない。


どうせもう、特殊清掃を頼んでくるヤバ客だとバレているのだ。多少面倒な質問をしてきてもどうとも思われないだろう。

カレー沢薫

山口県在住の漫画家・コラムニスト。最新作に『ひとりでしにたい』原作(講談社)など。

Twitterはこちら:@rosia29

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