ゾフィー上田の「自分では出会わない本について語る会」第十六回
文字数 2,217文字
お笑いファンに絶大な支持を得るコント師・ゾフィー上田航平さんは、読書家としても知られています。
でも、最近ふだんの読書だけでは物足りない様子。。。
そこで当コーナーでは、編集部からご自身では絶対に買わなそうな本をチョイスして、上田さんに読んで語ってもらいます!
〇日本人のご先祖様もひっくり返る⁉ 遠くて近い、ラテンアメリカの文化の魅力とは?
表紙には、虹色の光を放つUFOと、カラフルな骸骨。ポップなオカルト感。ラテンといえば明るくてご陽気なイメージがあるけど、実際のところはどうなんだろうか? 裏表紙には、ドクロのフェイスペイントをした人たちが楽器を演奏している。
あれ? この感じ、なんかあれだな? ピクサーのアニメ映画「リメンバー・ミー」っぽいな。調べてみるとあの映画はメキシコの「死者の日」が舞台になっていることがわかった。日本のお盆みたいな感覚で、みんなある時期は帰省して、スカルメイクでパレードしたりするらしい。もしも何も知らない日本の勤勉な祖父母たちが見たらブチギレそうな儀式である。興味津々。ラテン、もっと知りたい。
作者の嘉山正太さんは、かつて日本の映像制作会社で働いていたが、2008年からメキシコに移住して以降、ラテンアメリカ全域で日本のテレビ番組などのコーディネーターをされているらしい。
そんな嘉山さんが、ラテンアメリカで出会ったさまざまな経験を綴っているのだが、これがいきなりぶっ飛んでいた。
まずUFO大国で有名なメキシコが世界に誇るUFO研究家ハイメ・マウサンという人物が登場する。この男にUFOの映像を見てもらってコメントをもらうという番組のロケで彼が突然、瓶詰めされた妖精のミイラを見せてくる、というエピソードから始まる。
そもそもメキシコがUFO大国だったことも知らなかった。メキシコではめちゃくちゃUFOが目撃されているらしく、メキシコの空軍すらその存在を認めるほどらしい。どうもラテンアメリカの人は、国民性として、不思議なものを不思議なまま受け入れる感覚があるようだ。スペイン人の征服と殺戮によって、どういう理由でその儀式が行われていたかという大事な記録が全部抹消されてしまったからだ。
目的不明の儀式を継続するのは困難だ。全身に何かを塗りたくりながら「村長、これって何の為にやってるんですかね?」「わしもわからんが、とにかくやるのじゃ」伝統として続いちゃっているもんだからやめるにやめられない(というコントを昔書いたことがある。うん、あれまたどこかでやってみようかな)
とにかくその漠然とした動機を埋めるのは、想像力と寛容さ。UFOすらも理由なくあるがまま受け入れる。とはいえ、妖精のミイラは。妖精ならまだしも、ミイラって。そういえばコロンビア出身の作家であるガルシアマルケスの短編小説に、老人の天使が村に流れ着いてくるメルヘンな話があったけど、もしかするとラテンは、ファンタジーが日常と地続きになったのかも知れない。だから妖精がミイラになっちゃったり、天使が老人になっちゃったり、現実との境界線がなく、しっかりと寓話が生きている。
当然そこには、現実社会もしっかりと横たわっている。
ベネズエラでは政情が安定せず、空港は停電して、トマトレタスバーガーにトマトとレタスが入っていなかったり。
コロンビア政府がゲリラ組織と和平交渉を経て終戦を迎えたにも関わらず、社会復帰しようとする元ゲリラ兵に対する怒りが収まっていなかったり。
ホンジュラスには世界一凶悪なギャングがいたり。
日本で安穏と暮らしている人間からすると、現実すら現実離れしている。遠い国の話だ。しかしコロナの影響によって、沈鬱とした暮らしを余儀なくされる人々も描かれている。
そんな中、メキシコのプロレス「ルチャ・リブレ」でレスラーを目指す少女の話はどんな遠い国でもグッと心を掴まれる。コロナという、これまでの生活を一変されたこの異世界は、世界で同時に起こることによって、同じ異世界になった。この不遇な機会は、文化は違えども人類がまるごと共感できる機会でもある。
違いより、共通点を探すこと。自分と相手の円が重なる中心点は必ずある。最近知り合ったマイアミに住む大学生は、マイアミはヒスパニック系が多いので、アメリカ文化よりラテン文化が強い都市だと話していた。
自分はコメディが好きだと打ち明けると、彼もコメディは好きだと言う。円が重なった。興奮する気持ちを抑えつつ、つたない英語で「どんなコメディが好きですか?」とたずねると、すぐに彼からつたない日本語で返事が返ってきた。「オードリー、そして千鳥、そしてチョコプラが好きです」。ごりごりの日本のお笑い好き。思ったよりも円が重なっていることもある。世界はまだまだ広い。
1984年生まれ。神奈川県出身。慶應大法学部卒。2014年にサイトウナオキとゾフィーを結成、2017年、2019年「キングオブコント」ファイナリストとなった。また、ネタ作り担当として、「東京03の好きにさせるかッ!」(NHKラジオ第1)でコント台本を手がけるなど、コンビ内外で幅広く活動している。趣味は読書とサウナ。なお、祖父は神奈川県を中心に展開する書店チェーン店「有隣堂」の副社長を勤めたこともある。