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〈8月25日〉 折原みと
文字数 2,937文字
太陽
(
たいよう
)
の
子
(
こ
)
今年
(
ことし
)
の
梅雨
(
つゆ
)
は
長
(
なが
)
かった。
毎日
(
まいにち
)
毎日
(
まいにち
)
、たくさん
雨
(
あめ
)
が
降
(
ふ
)
って、
日
(
に
)
本
(
ほん
)
のあちこちで
町
(
まち
)
や
家
(
いえ
)
が
水
(
みず
)
浸
(
びた
)
しになったりした。
本当
(
ほんとう
)
なら、オリンピックが
始
(
はじ
)
まるはずだった7
月
(
がつ
)
の
末
(
すえ
)
になっても、
雨
(
あめ
)
は
止
(
や
)
まなかった。
空
(
そら
)
は、
鉛
(
なまり
)
色
(
いろ
)
のままだった。
今年
(
ことし
)
は、
夏
(
なつ
)
休
(
やす
)
みだって、いつもより
短
(
みじか
)
い。
なぜって?
それは、「コロナ」のせい。
わたしと
同
(
おな
)
じ
名
(
な
)
前
(
まえ
)
のウイルスのせい。
「コロナ」って
名
(
な
)
前
(
まえ
)
は、まるで「
呪
(
のろ
)
い」だ。
世
(
せ
)
界
(
かい
)
中
(
じゅう
)
の
人
(
ひと
)
に、
憎
(
にく
)
まれているような
気
(
き
)
分
(
ぶん
)
になる。
世
(
せ
)
界
(
かい
)
中
(
じゅう
)
で
何
(
なん
)
十
万
(
まん
)
人
(
にん
)
もの
人
(
ひと
)
が、わたしのせいで
死
(
し
)
んでしまったような
気
(
き
)
分
(
ぶん
)
になる。
いつ
終
(
お
)
わるんだろう?
もしかして、ずっと?
怖
(
こわ
)
くて、
息
(
いき
)
苦
(
ぐる
)
しくて、
先
(
さき
)
が
見
(
み
)
えない。
もう二
度
(
ど
)
と、
楽
(
たの
)
しい
毎日
(
まいにち
)
には
戻
(
もど
)
れないって
思
(
おも
)
ってた。
でもね、
今日
(
きょう
)
、
梅雨
(
つゆ
)
が
明
(
あ
)
けたんだ。
いつもは8
時
(
じ
)
過
(
す
)
ぎにママに
起
(
お
)
こされるのに、
今日
(
きょう
)
は、なぜか5
時
(
じ
)
ごろに
目
(
め
)
が
覚
(
さ
)
めた。
二
階
(
かい
)
のベランダに
出
(
で
)
ると、
空
(
そら
)
はあいかわらず
鉛
(
なまり
)
色
(
いろ
)
の
雲
(
くも
)
に
覆
(
おお
)
われていた。
夜
(
よる
)
は
明
(
あ
)
けているはずなのに
薄
(
うす
)
暗
(
ぐら
)
くて、
「
今日
(
きょう
)
もまた
雨
(
あめ
)
か」
なんて、
憂鬱
(
ゆううつ
)
な
気
(
き
)
持
(
も
)
ちでぼんやり
空
(
そら
)
を
見上
(
みあ
)
げてたんだ。
その
時
(
とき
)
、
分
(
ぶ
)
厚
(
あつ
)
い
雲
(
くも
)
に、ふいに
小
(
ちい
)
さな
穴
(
あな
)
が
空
(
あ
)
いた。
そして、その
隙
(
すき
)
間
(
ま
)
から、サファイヤみたいに
透
(
す
)
き
通
(
とお
)
った
青
(
あお
)
がのぞいたの。
それは、そのうち
切
(
き
)
れ
切
(
ぎ
)
れの
細
(
ほそ
)
い
川
(
かわ
)
のようになって、
空
(
そら
)
に
青
(
あお
)
い
裂
(
さ
)
け
目
(
め
)
を
作
(
つく
)
っていく。
やがて、
雲
(
くも
)
の
切
(
き
)
れ
間
(
ま
)
から、まぶしい
金色
(
きんいろ
)
の
光
(
ひかり
)
が
差
(
さ
)
した。
朝
(
あさ
)
日
(
ひ
)
だった。
久
(
ひさ
)
しぶりに
見
(
み
)
る
太陽
(
たいよう
)
は、まるで
光
(
ひかり
)
の
剣
(
けん
)
を
振
(
ふ
)
るう
勇者
(
ゆうしゃ
)
のように、ぐんぐん
雲
(
くも
)
を
切
(
き
)
り
裂
(
さ
)
きはじめた。
ぐんぐん、ぐんぐん。
鉛
(
なまり
)
色
(
いろ
)
の
雲
(
くも
)
は
追
(
お
)
いやられて、
青
(
あお
)
の
領
(
りょう
)
域
(
いき
)
が
広
(
ひろ
)
がっていく。
いつのまにか、
空
(
そら
)
は、
青
(
あお
)
と
鉛
(
なまり
)
色
(
いろ
)
のふたつにパッキリと
分
(
わ
)
かれていた。
梅雨
(
つゆ
)
と
夏
(
なつ
)
の
境
(
さかい
)
目
(
め
)
を、わたしは、
生
(
う
)
まれて
初
(
はじ
)
めて
見
(
み
)
たような
気
(
き
)
がしたんだ。
お
昼
(
ひる
)
のニュースで、
関東
(
かんとう
)
地
(
ち
)
方
(
ほう
)
の
梅雨
(
つゆ
)
明
(
あ
)
けが
発
(
はっ
)
表
(
ぴょう
)
された。
8
月
(
がつ
)
に
入
(
はい
)
って
最初
(
さいしょ
)
の
日
(
ひ
)
、2020
年
(
ねん
)
の
夏
(
なつ
)
がやってきたんだ。
梅雨
(
つゆ
)
明
(
あ
)
けを
伝
(
つた
)
えるアナウンサーの
顔
(
かお
)
は、いつもより
明
(
あか
)
るかった。
テレビの
画
(
が
)
面
(
めん
)
に
映
(
うつ
)
る
街
(
まち
)
も
人
(
ひと
)
も、
昨日
(
きのう
)
までと
違
(
ちが
)
って
見
(
み
)
える。
灰色
(
はいいろ
)
の
景
(
け
)
色
(
しき
)
に、
希
(
き
)
望
(
ぼう
)
という
色
(
いろ
)
がついた。
太陽
(
たいよう
)
が、
世
(
せ
)
界
(
かい
)
を
照
(
て
)
らしているから。
二
学
(
がっ
)
期
(
き
)
が
始
(
はじ
)
まったら、
入
(
にゅう
)
学
(
がく
)
以
(
い
)
来
(
らい
)
、一
度
(
ど
)
もいっていない
学校
(
がっこう
)
にいこう。
初
(
はじ
)
めて
会
(
あ
)
うクラスメイトたちに、
胸
(
むね
)
を
張
(
は
)
って
自己
(
じこ
)
紹
(
しょう
)
介
(
かい
)
しよう。
「わたしの
名
(
な
)
前
(
まえ
)
はコロナです。
太陽
(
たいよう
)
と
書
(
か
)
いて、コロナと
読
(
よ
)
みます」
暗闇
(
くらやみ
)
の
中
(
なか
)
で
怯
(
おび
)
えるのは、もうやめよう。
雨
(
あめ
)
は
止
(
や
)
む。
太陽
(
たいよう
)
は
輝
(
かがや
)
く。
どんな
年
(
とし
)
だって、
夏
(
なつ
)
は
必
(
かなら
)
ずやってくる。
いつかわたしたちは、「コロナ
世
(
せ
)
代
(
だい
)
」という
名
(
な
)
前
(
まえ
)
で
呼
(
よ
)
ばれるのかもしれない。
だけど、きっとそれは、
「
暗闇
(
くらやみ
)
の
時
(
じ
)
代
(
だい
)
を
乗
(
の
)
り
越
(
こ
)
えた、たくましい
子
(
こ
)
供
(
ども
)
たち」の
称
(
しょう
)
号
(
ごう
)
になるはずだ。
わたしの
名
(
な
)
前
(
まえ
)
はコロナ。
太陽
(
たいよう
)
の
子
(
こ
)
。
「
呪
(
のろ
)
い」を
解
(
と
)
くのは、
自
(
じ
)
分
(
ぶん
)
自
(
じ
)
身
(
しん
)
だ。
折原みと(おりはら・みと)
1985
年
(
ねん
)
に
少
(
しょう
)
女
(
じょ
)
マンガ
家
(
か
)
として、87
年
(
ねん
)
に
小
(
しょう
)
説
(
せつ
)
家
(
か
)
としてデビュー。91
年
(
ねん
)
刊行
(
かんこう
)
の
小
(
しょう
)
説
(
せつ
)
『
時
(
とき
)
の
輝
(
かがや
)
き』が110
万
(
まん
)
部
(
ぶ
)
のベストセラーとなる。
人
(
にん
)
気
(
き
)
シリーズ『アナトゥール
星
(
せい
)
伝
(
でん
)
』や
同
(
どう
)
コミック
版
(
ばん
)
、マンガ『
天
(
てん
)
使
(
し
)
のいる
場
(
ば
)
所
(
しょ
)
~
Dr
(
ドクター
)
.ぴよこの
研
(
けん
)
修
(
しゅう
)
ノート』『
永遠
(
えいえん
)
の
鼓
(
お
)
動
(
と
)
』、
小
(
しょう
)
説
(
せつ
)
『
制服
(
せいふく
)
のころ、
君
(
きみ
)
に
恋
(
こい
)
した。』『
天国
(
てんごく
)
の
郵便
(
ゆうびん
)
ポスト』『
幸福
(
こうふく
)
のパズル』『
乙女
(
おとめ
)
の
花束
(
はなたば
)
』の
他
(
ほか
)
、エッセイ、
絵
(
え
)
本
(
ほん
)
、
詩
(
し
)
集
(
しゅう
)
、
料
(
りょう
)
理
(
り
)
本
(
ぼん
)
、
CD
(
シーディー
)
などで
幅
(
はば
)
広
(
ひろ
)
く
活躍
(
かつやく
)
。
【
近刊
(
きんかん
)
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〈7月31日〉 乗代雄介
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〈8月8日〉 大山誠一郎
〈8月9日〉 阿部智里
〈8月10日〉 朝倉宏景
〈8月11日〉 宮西真冬
〈8月12日〉 澤田瞳子
〈8月13日〉 三津田信三
〈8月14日〉 石崎洋司
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〈8月16日〉 一木けい
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〈8月23日〉 伴名練
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〈8月25日〉 折原みと
〈8月26日〉 武田綾乃
〈8月27日〉 伊藤理佐
〈8月28日〉 西尾維新
〈8月29日〉 須賀しのぶ
〈8月30日〉 辻村深月
〈8月31日〉 森見登美彦
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