『創竜伝』完結記念エッセイ⑤『創竜伝』再始動! ビフォー&アフター/担当O

文字数 2,904文字

田中芳樹さんの大人気伝奇アクション小説『創竜伝』の完結編第15巻が文庫化です!

完結編文庫化を記念して、歴代担当編集者や大ファンの編集者が、ノベルス版刊行時(2020年)に寄せてくれた「『創竜伝』とわたし」のエッセイを再掲載! 


第5回は、第14~15巻の担当編集O氏による、『創竜伝』休眠時代、そしてついに山が動いた歴史的瞬間を綴った「『創竜伝』再始動! ビフォー&アフターです!

『創竜伝』再始動! ビフォー&アフター/編集担当O

創竜伝」シリーズ完結! 田中先生、おめでとうございます! ファンの皆さま、おめでとうございます!


さかのぼること2019年10月9日『創竜伝14<月への門>』発売の日。16年ぶりのシリーズ新作にファンの皆さまが大いに沸く頃、担当編集の私は大きな呪縛から解き放たれていたのでした。


私が田中先生の担当を引き継いだのは2004年頃のことであります。つまり『創竜伝13』が刊行された翌年。さあ、勘のいい方ならピンとくるかもしれません。『創竜伝』新刊出ない歴=田中先生担当歴だったのです(厳密に言えば何年かは担当を外れていますが……)。その間の『創竜伝』業務と言えば、読者からの電話対応がほとんど。


読者Aさん「創竜伝の新刊はいつ頃出るのでしょうか?」

「申し訳ありません、今のところ未定です。決まりましたらホームページなどで告知します」

読者Bさん「父も私も創竜伝が大好きでずっと読んでました。だから新刊が早く読みたいんです。田中先生にお伝えください!」

「ご愛読ありがとうございます。先生にお気持ちをお伝えしますね」

読者Cさん「私が死ぬまでに新刊が出るのでしょうか?」

「楽しみにお待ちくださいね」


その他にも竜堂四兄弟への思いをお話しいただくなど、ファンの皆さまからのお電話をいくつも頂戴しました。講談社ノベルスとして田中先生の作品が出ていなかったわけではありません。『薬師寺涼子の怪奇事件簿』『タイタニア』『ラインの虜囚』も。ところが『創竜伝』再始動のお話はとーんと伝わってこないのです。あぁ、これは竜をも動かせない“悪い気”を私が持ってきてしまったのか。ファンに私の存在がバレてしまったら、「五〇億人抹殺計画」ならぬ「担当抹殺計画」があるかもしれない……それは半ば冗談ですが、プレッシャーを感じていたのは事実です。


しかし2019年3月、ついに歴史は動きました。『創竜伝14第一章「幕府の予算について」脱稿です!


さてここからは原稿を頂戴する儀式(?)の説明とともに話を進めていきましょう。


田中先生は400字詰め原稿用紙に手書きで作品を執筆されています。ほぼ1章ごとに事務所へ取りに伺い、先生の前で拝読、最後に感想を述べて、編集部に持ち帰るというのが一連の流れ。


原稿拝読中、先生は新聞を読みながらお待ちになられることが多いのですが、チラチラとこちらの反応をチェックされているかもしれません。まさに緊張の時間です。

ところが物語のスピード感、面白さに原稿を繰る手が止まらず。スマホなど最新アイテムは出てくるものの、16年のブランクなどまったく感じさせない筆致です。昔からお読みになられたファンも引き続き楽しんでいただけると確信。この緊張の時間は気持ちの良い読書の時間へと変わっていきました。そして最後に原稿用紙をテーブルに置き、「面白かったです! ○○がいいですね!」。

編集者冥利に尽きる時間を過ごすことができました。


 ところでこの気持ちよさはどこから生まれるのでしょう。

面白いドラマやキャラクターからというのは当然のことです。それに加えて田中先生の執筆ルールにもあると考えています。

先生の作品は1章ごとの原稿枚数が決まっています。デビュー時に受けた編集者のアドバイスを忠実に守られているそうです。

ちなみに読者の皆さまにもそれが分かる方法があります。

『創竜伝14』と『創竜伝15』の目次を比べてご覧ください。ほとんどページが一緒ですよね。いつもと同じ分量で物語が展開することで、自ずとこのテンポに気持ちよさを感じてしまっているのではないかと考えています。


さて14巻の帯に2020年完結告知を収録し、SNSなどでかなり話題になりました。

私自身に物語はまだまだ広がるのではないかという期待があり、完結告知してよいのか失礼ながら先生に何度かお尋ねした記憶があります。

それでも15巻の最終章の原稿を頂戴するまでは、その告知が正しかったのかドキドキが続いたのは、ここだけの秘密。


コロナ禍で15巻の原稿を頂戴する儀式はほとんど行われず、先生とお会いする時間はとれませんでしたが、メールを介してスキャンされた原稿を頂戴し、無事に完結編『創竜伝15<旅立つ日まで>』を刊行することができました。予告どおり2020年の刊行です!(2032年頃の刊行を勝手に予測しているサイトがあり、卒倒しましたが……)


ファンの皆さま、<刊行する日まで>お待ちいただきありがとうございました。田中先生、<完結する日まで>ご執筆ありがとうございました。


竜堂四兄弟にどのような結末が待ち受けているのか、最後まで目が離せない展開が続きます。ぜひお楽しみください!


追伸

「メフィスト2019VOL.3」の「あとがきのあとがき」コーナーに寄せられた田中先生の文章の一部をご紹介いたします。


<『創竜伝』については、15巻くらいで終わらせよう、と思っていた。ありがたいことに、「いつまでもつづけてください」と言ってくださる読者の方もいらっしゃるのだが、いちおう本筋は、それくらいで終わらせたい。場合によっては「読み切り外伝」という形もありえるが、それはそのとき考えることだ。>


田中先生はインタビュー等で本当に完結したと明言されています。編集者としては信じるしかありません。ですが、いつか「そのとき」が来ることを願う、あきらめの悪いファンでいさせてください。


伝説シリーズの完結巻、待望の文庫化! 

四兄弟とともに旅をしてきたすべての人へ。


富士山は大噴火、日本政府は機能不全。京都幕府を開いた怪女・小早川奈津子は新たな野望を抱き猛進する! 未曾有の大混乱の中、異形の者たちは人間を無慈悲に襲い続けた。人類の未来を背負った竜堂四兄弟は、牛種との決戦の地・月の内部へ。ついに正体を現す最兇の主君。その口から語られた「五〇億人抹殺計画」究極の狙いとは? 恐るべき強敵を迎え、始・続・終・余、四人の竜王の死力を尽くした戦いが始まる!

田中芳樹(たなか・よしき)

1952年熊本県生まれ。学習院大学大学院修了。1978年『緑の草原に……』で第3回幻影城新人賞を受賞してデビュー。1988年『銀河英雄伝説』で第19回星雲賞、2006年『ラインの虜囚』で第22回うつのみやこども賞を受賞。活躍はSFロマンにとどまらず、中国歴史小説やミステリもものし、壮大な物語と魅力的な登場人物は男女問わず多くの読者を楽しませ続けている。コミック化、アニメ化された作品も多い。代表作に『創竜伝』『薬師寺涼子の怪奇事件簿』『銀河英雄伝説』『岳飛伝』『アルスラーン戦記』などがある。

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