第26回/シロウネリの価値観

文字数 1,653文字

こちらはインターネットに生息するふしぎないきもの・にゃるらがインターネットと独り暮らしとそれ以外について深夜に執筆している画像付きエッセイです。→@nyalra


第1回はこちらから

 最近、東映の公式がアップしているカクレンジャーの配信が毎週の楽しみです。

 なぜ数ある戦隊シリーズのなかで僕がカクレンジャーが特に好きかを説明するには、このコラムのスペースだと狭すぎるので、そこは各自にゃるらのnoteやツイートを検索してみてください。まず忍者って存在がいいよね。


 そんなカクレンジャーの敵に『シロウネリ』という妖怪が登場する。


 シロウネリは自らが世界で一番醜いことに酔っている妖怪で、ボロボロのものこそ至高という価値観を持っている。もちろん本人の見た目もボロボロ。清潔感のかけらもありはしないので、こんなやつと現代女性が出会ってしまったら、「ありえないほど汚い男性から声かけられた話(1/16)」とエッセイ漫画にされてしまうことでしょう。


 そんなシロウネリなので、街の人間たちの服装をどんどんボロボロにしてしまう。なぜなら、彼は「物を大切にする人が最も嫌い」だからだ。とうぜん正義のカクレンジャーがそんな悪者を許すわけがなく見事に退治する。やっぱり物を大切にする気持ちっていいよね! と教育的なオチで。子供向け番組なのだからそりゃそうだ。1から10まで納得しかないぜ。お茶の間のお父さん・お母さんも、安心して息子さんにお見せすることができるでしょう。


 で、ここはひとつ大人の価値観でシロウネリを見てみたい。


 シロウネリは人間の主観で見たら文句なしに退治するべき最悪の妖怪ですが、本人の主観では己の美的感覚に従って生きているだけです。「醜いものこそ最高」と認識しているのだから、世の中を醜くしていくことは理にかなっている。無論、自身の価値観を他人に強要するなと言われるとそれまでですが。カクレンジャーが怒ったのはそこじゃないし。


 こういうことは現実でもあるでしょう。一般では醜い/汚いとされているものでも、当人の美的感覚で言えば素晴らしい一品なのだ。それこそ多様性である。自分がそう信じているのだから、その価値観を貫けばいいのだが、やはり圧倒的多数から疎外されると堪えるものがあるはずだ。


 時に、インターネットでは「汚い」とされている行為や人物に惹かれてしまうことがある。「こんなにたくさんの人から叩かれていても活動することがそもそもカッコいいぜ」って感覚もあって。ラッパーなどもそういう感じじゃないか。世間なんてどうでもよくて、己の気持ちよさと美醜がすべて。自分らしく強く生きている姿にファンは惹かれる。暴力/暴言や薬物すらもカッコいいモノとして主張する彼らの生き様は、まさにシロウネリと同じではないか。ラッパーでなくとも、「これがいいんだ!!」と胸を張っている人たちは少なくない。最近では風当たりが強い鉄オタなども同じ気持ちでしょう。どんなに周囲から叩かれようとも、決まった角度で電車を撮影することが生きがいなのだから仕方ない。僕は、そのこと自体はわりと「良いな」と感じています。細かい部分はともかく好きに一直線な姿はカッコいいのさ。


 なので、「ボロボロなものを愛しているだけ」「物を大切にする人が最も嫌い」という一般的にはイレギュラーな感覚で生まれてしまっただけのシロウネリが退治されるのは、ちょっぴりかわいそうに思える。いや、こんなやつ退治しておかないと社会の迷惑でしかないのだけれど。カクレンジャーは正しいことをしている。人を隠れて悪を斬るのが彼らの使命なのだから。


 とはいえ、とはいえだな~っと、少しだけ怪人の悲哀に自身を重ねてしまった夜でした。現実世界のシロウネリたち、強く生きていきましょうね。

【ドロンチェンジャー】


カクレンジャーの変身アイテム。右はネックレス。ボタンを押すと音が鳴るだけのシンプルなシステムが味。ゴールドの高級感がいいよね

来週も月曜深夜に更新予定です。それでは、おやすみなさい。

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