第38回

文字数 2,430文字

流石にちょっと寒すぎる。厳冬にこそひきこもり。

ガンガン部屋を熱して乗り過ごしましょう、コロナ・ウインター。


どんな季節も自室に籠城、

インターネットが私たちの庭なんです。


脳内とネットでは饒舌な「ひきこもり」の代弁者・カレー沢薫がお届けする、

困難な時代のサバイブ術!

これを書いているのは1月2日である、ちなみにまさかと思ったが、本当に1月1日に記事が更新されいた。正月とは一体何なのか。


しかし、漫画家と編集が正月から真の意味で反社会的な活動をしている一方で、堅気には堅気の正月というものがある。


私の親族は双方堅気であり、正月には集会を開く。

本来なら私のような反社は遠慮して、年末録画したオールザッツ漫才を今更見ているぐらいがちょうどいいのだが、終始半笑いで余計なことを言わないという条件で末席に居させてもらっている。


我が実家はウィキペディアの「少子高齢化」項目に写真が掲載されているでおなじみであり、現世より来世に近い人間の方が多いのだが、夫の実家は10代の若人が多い。


高校卒業を間近に控えている子もいるのだが、車の免許をとったり、つぶしの効く資格が取れる専門学校への入学を決めていたり、すでに具体的に将来のことを考えていた。


私が高校三年の時は「クリエイター」になるなどと、うすらぼんやりとした供述を繰り返すのみだった。

今回だけではなく、未だかつて私よりも寝ぼけている高校生には出会ったことがないので、日本はまだ捨てたものではない気がする。


親にとって子どもがちゃんと自立するか否かというのは、一大事である。

子どもがひきこもりになりそのまま数十年経過、8050問題に発展し、最終的に80代の親が50代の息子を仕留めるという、ガッツのあるニュースになることも珍しくない。


しかし、子どものひきこもりというのは本人の資質や親の教育の問題ではなく、世相も大きく関係している。

実際今、8050問題の50側を主に担当しているのは、就職氷河期時代にひきこもりになってしまった層と言われている。


現在コロナによる失業、就職難が予想され、休校などで精神的に不安定になり不登校になっている子どもも増えているらしいので、ひきこもりも増加する可能性がある。

このように、ひきこもりは各家庭の問題というより社会全体の問題なので、発生してしまった場合は家庭内で解決しようとはせずに、早めに外部に助けを求めた方が良い。


しかし、外部に助けを求めろと言っても、外部ならなんでも良いというわけではない。


先日、ひきこもりの息子を「更生」させるため「引き出し屋」に依頼をし、親子関係がさらに断絶してしまったという記事を読んだ。

「引き出し屋」というのは、ひきこもりを強制的に部屋の外に出し、施設へ強制入居させる業者のことである。


確かに何十年もひきこもりを放置していると聞いたら、何故無理やりにでも外に出さないのか、甘やかしているからそうなる、とりあえず窓から手りゅう弾を投げこめ、と思うかもしれない。


しかし世間がイメージしているような「労働は負け組がすること」「親には製造したものの面倒を最後まで見る義務がある」などと言っている、バルサンでいぶり出した方がいい陽キャのひきこもりというのは少数派である。


多くのひきこもりは、まず社会と他人への恐怖、そして社会に適合できない自分への劣等感でひきこもっている場合が多い。


そういうひきこもりを無理矢理外に引きずり出すというのは、社会と他人への恐怖を増幅させ、もはや自分は親にまで見放された存在として劣等感を高めるだけの行為な気がする。


むしろ、いきなり部屋に踏み込んできた初対面の人間たちに脇をロックされ、良く知らない場所に強制収容、全ての通信機器と人権を奪われた状態で、謎の反省文、もしくはスピリチュアル臭の強いストレッチを毎日させられてもなお、社会復帰できるような強靭な精神力があったら最初からひきこもらないような気がする。

それで挫けないのはジャック・バウアーぐらいだろう。


もちろん、ひきこもりなど問題を抱える者同士が共同生活をすることで回復し、社会復帰を果たす例も少なくなく、ちゃんとした施設も多い。


だが「1月1日にジャンプしたから正月俺は地球に存在しなかった」という主張と同じように「部屋から無理やり引きずり出し、部屋に戻れないようにすればひきこもりを脱したと言える」と言い張る暴力的な施設もなくはない。


暴力的なだけではなく、藁をもすがる思いの親から多額の料金をだましとる業者もいるという。

もし、家族がひきこもりになったら、早めに外部の手を借りるのは大切だが、そこでチョイスミスをすると、子どもが一生謎の施設から出てこないという「ひきこもる場所が変わっただけ」という事態になりかねない。


親のすねをかじって何十年もひきこもっていると言ったら、おそろしく図太い人間のように聞こえるかもしれないが、繊細だからひきこもっている場合の方が多い。


繊細な人間を、菓子パンの如く袋に手を突っ込んで、ガッサっーと引きずり出したら粉々になってしまうのは当然である。


面倒だとは思うが、ひきこもりに対してはたとえ相手がどれだけ小太りな中年でも、硝子の少年に接するように「丁寧」することが大事なのである。


★次回更新は1月22日(金)です。

カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。長州出身の維新派。漫画作品に『クレムリン』『アンモラルカスタマイズZ』『ニコニコはんしょくアクマ』『やわらかい。課長 起田総司』『ヤリへん』『猫工船』『きみにかわれるまえに』。エッセイに『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』『猥談ひとり旅』『非リア王』など。現在「モーニング」で『ひとりでしにたい』連載中&第1巻発売中。最新刊『きみにかわれるまえに』(日本文芸社)も発売中

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