第14回

文字数 2,574文字

東京を中心に、コロナ感染者が再び激増し、政府肝いりの”Go Toキャンペーン”も迷走している。

隙あらば、BBQやシャンパンタワーに興じたいという向きには、まだまだ厳しい時代が続きそうだ。


「ひきこもりこそ世界を救う」という千年に一度のパラダイムシフトが起きつつある今、どうすれば人類が生き抜けるのか、意外とためになるヒントが、そのライフスタイルからは見えてくる。


脳内とネットでは饒舌な「ひきこもり」の代弁者・カレー沢薫がお届けする、困難な時代のサバイブ術!

コロナウィルスの影響による緊急事態宣言が解除され、「最大の危機は脱した」という雰囲気になったのもつかの間、現在東京では連日200人越えの感染者が報告されており、我が村にも「人口が多い場所ばかりコロナの影響を受けては申し訳ない」と思ってくださったのか、ユーチューバーの方がウィルスを持って表敬訪問したことで大騒ぎになっている。


我が村がこんなに注目されたのはキムタクがドラマのロケに、全国で唯一裏口がない我が国の空港に来てしまって以来だ。(個人の感想)


つまり、全く「危機を脱した」と言えるような状態ではなく、引き続き不要不急の乱交パーティなどは慎むなど自粛が必要な状態なのである。


しかし、一度漂った「もう大丈夫ムード」を払拭するのは難しい上、長く苦しい自粛生活の反動もあるせいか、すでに電車やショッピングモール等はコロナ前と同じぐらいの人口密度になってしまっているという。


つまり非常に良くない雰囲気である。


確かに、家に閉じ込められ、アイマスクとボールギャグの装着だけ許された日々にはもう戻りたくない、という気持ちはわかる。

しかし、ここで油断してアイマスクとボールギャグだけで外出してしまうと、まず逮捕されてしまうし、ついでにウイルスをもらったりばら撒いてしまう恐れもある。


そうなると逆にまた、安心して外出や旅行、イベントが楽しめる日々が遠ざかってしまうではないか。

ちなみに世の中がどれだけ平和になっても、アイマスクとボールギャグだけで外に出てはいけない。


結論からいうと、まだ「ひきこもっておいた方が無難」ということである。

しかし、それでメンがヘルになってしまっては意味がない。

よって今一度「快適なひきこもり生活」について考え、無理なく外出を控える方法を考える時期に来ているのではないだろうか。


ひきこもり生活を良くするにはまず自分の「ひきこもり生活」に対するモチベーションを上げることが大事である。

最初から、仕方なく、嫌々やっていては苦痛に感じるのは当然なのだ。


そこで最近利用しているのがyoutubeだ。

今更youtubeかよ、言われなくてもデッドバイデイライトのゲーム実況シーズン7まで見たわ、という人も多いと思う。

しかしここでおススメするのは「他人の生活ルーティン動画」だ。


Youtubeには、一般人が自分の家での一日の過ごし方を動画にして配信している人が結構いるのである。


別に煌びやかな生活をしている人だけではなく中には「底辺無職中年の一日」という、大変親近感と安心感の湧く動画をあげてくださっている方もいらっしゃるのだが、そんなのはわざわざyoutubeで見なくても、自分の部屋を定点カメラで撮影すれば見られるものである。


それよりもあえて、普通のOLや会社員でありながら明らかに「己のライフスタイルに自信あり」という人の動画を見ることをお勧めする。


そういう人たちは一般人なので、決して部屋が広いわけではなく、どこのご家庭にもあるワインセラーなどは出てこないが、その代わり、部屋は片付いており、朝っぱらから木のプレートに薄めに切られた、茶色のやたら小さい食パンを載せて、手作りのすももジャムを塗って食ったり、15時になると、ホットケーキミックスで手作りおやつを作り出したりするのである。


そういう動画は、本人が顔出ししたり喋るタイプもあるが、顔や声は出さず、木べらが生地をざっくり混ぜる音に自分の人生観を交えた字幕のみというタイプも多いので、「部屋キレイだけどブスじゃん」とか「部屋キレイだけど嫁がブスじゃん」という、程度が最も低いツッコミも起こりづらい。


端的に言えばしゃらくさいのだが、そういう動画は「無印のモデルルーム」と同じで、見ていると、中学二年生が眼帯を見つけた時のようにワクワクしてしまうのだ。

つまり、ウィルスから逃れるための強制ひきこもり生活が「ていねいなお家暮らし」に思えてきて、むしろ楽しみにさえ思えて来たりするのである。


実際は、チリ紙や、チラシで作ったゴミ入れ一つ置いていない無印ルームで暮らすなど現実的ではなく、不便極まりないだけだ。

Youtubeの暮らし動画も、当然編集されているので、おキャット様がゲロを吐いた瞬間や、カナブンが闖入してくるハプニングなどはカットされ、キレイな部分だけが公開されているため、同じような生活をしようとしても無理である。

しかし、どうせやらなければいけないなら、ひきこもり生活に少しでも良いイメージを持って始めた方が良いし、その方が苦になりづらい。


ただ、こういう動画を見すぎると、俺が何やってもダメなのは、木のプレートがないからだとか、白い三段チェストがないからだという風にも思えて来て、無印で無駄にオシャレ雑貨を買ってしまうように、とりあえず通販で、理想のひきこもり生活を送るためのグッズを大量に買ってしまう恐れがある。


そしてチェストが組み立て式とわかった時点でやる気がなくなり、巨大なアマゾンと書かれた段ボールが余計部屋を狭くし、景観を損ねることになる。


「通販をしすぎるな」


これもひきこもり生活というか、生活自体を破綻させないために重要なことである。

★8月7日(金)公開です。

カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。長州出身の維新派。漫画作品に『クレムリン』『アンモラルカスタマイズZ』『ニコニコはんしょくアクマ』『やわらかい。課長 起田総司』『ヤリへん』『猫工船』『きみにかわれるまえに』。エッセイに『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』『猥談ひとり旅』『非リア王』など。現在「モーニング」で『ひとりでしにたい』連載中&第1巻発売中。最新刊『きみにかわれるまえに』(日本文芸社)も発売中。

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