不安を飼い慣らす

文字数 1,284文字

 プライベートや日常生活から世界情勢に至るまで、規模や程度にかかわらず「不安」というものを意識せずに済むことが、かなり困難になったこのご時世。幸せそうに見えるあの人も、楽しそうに笑っているこの人も、ひとりになった時にはふと色々な不安が脳裏を(よぎ)るのかもしれない――そんなことを想像してしまうほど、現代における不安とは、生活をおくる上で誰もが避けて通れない障壁になっているのではないでしょうか。

 そんな身近な感情「不安」ですが、残念ながらいまだに「弱い心」と結びつけられることも多く、ともすると不安を克服できないことを「人として弱い」「根性が足りない」「甘えている」などと評価する人さえ見かけることがあります。しかし人間が不安を抱く根本的な原理は、その人の心が弱いからではありません。人間にとって「不安」とは、危険から心を(まも)るために誰もが持つ安全装置(セーフガード)としてのセンサーです。不安も迷いもなく前に突き進んでしまう人を想像すると、むしろ周囲の人をも巻き込み、大事故を起こしてしまう危険な人に見えてなりません。

 そこで「がんばらない人を応援する」をコンセプトとしている本シリーズの第二弾として、不安とは克服するものではなく「飼い慣らすもの」ではないかというテーマを選びました。徹底的に逃げて隠れ、息を潜めて静かに暮らす草食動物的な生き方を選んできた主人公の奏己ですが、本作ではさらなる護()術として、不安を飼い慣らす方法=「認知行動療法」を知ることになります。難しそうな漢字の羅列ですが、その基本を理解することは、専門的な知識がなくてもそれほど難しくはありません。もちろん他者に対して行う場合はハードルも高く専門の資格がありますが、自分の抱える不安に対して自ら行うセルフ・コントロールであれば、本作を読むだけで大まかに理解していただけるのではないか――つまり目指したのは「物語として読む認知行動療法の実用書・入門編」です。

 前作に引き続き本作を手に取っていただいた方たちが、これからも途切れることなくやってくる「不安」に対して、ひとつでも多くの対抗手段を得てもらえればと願いながら書き上げました。どうぞ本書を読み終わったあとには、その不安に対する【考え方】と【行動】と【感情】を、ぜひ上手く飼い慣らしてみてください。



藤山素心(ふじやま・もとみ)
広島県出身。東京都在住。医師。2017年にホビージャパン主催のHJ文庫大賞(現:HJ小説大賞)で金賞を受賞。以後は「江戸川西口あやかしクリニック」シリーズ(光文社キャラクター文庫)、「おいしい診療所の魔法の処方箋」シリーズ(双葉文庫)、「はい、総務部クリニック課です。」シリーズ(光文社文庫)、『呪ワレ者』(マイクロマガジン社)など、一般小説から児童書まで幅広く執筆している。

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