◆No.3 運命は変えられるか
文字数 1,731文字
この作品のテーマは『運命は変えられるか』です。
例えばシェイクスピアの『マクベス』では、魔女が予言した通りに主人公が身を滅ぼしていきます。「運命は変えられなかった」わけです。
この作品では、謎の軍師・角隈石宗がちらりと登場して、こっそり重要な役割も果たすのですが、彼に預言者の役割を担わせています。
石宗が予言したのは結局、
<小原鑑元は大友家に対し叛乱を起こし、敗死する>
という運命でした。史実はまさしくこの通りです。
鑑元は運命に敗北した男に見えます。
同時代の人もそう思ったでしょうし、後世の人たちも史実としては敗北者と見ざるを得ない。
でも、真実は違う。彼は運命に抗い、そして勝利したのだ――
そんな物語を描きたいと思いました。
謎だらけの小原鑑元という人物は、加判衆(中央政治を動かす重臣)を務め、肥後方分(肥後国の最高責任者・軍事司令官)という大役を任されていました。
他紋衆の出であり、名門というほどの家柄ではないので、この出世だけでも、並みの人物ではなかったはずです。彼の居城である肥後・南関城に大軍が集結したという話を史実とすれば、相当人望もあったのでしょう。
出世した人物で、叛乱を起こしたのですから、野心家だったのかも知れませんが、この物語では正反対の人格として描きました。
月落不離天
〈月は落ちても天を離れず〉という禅語があります。
月が沈んで地に落ちるように見えても、本当は天にあるままですよね。
見た目は変化したように見えても、本質は変わらない。
本作の鑑元の人生を考えた時、この禅語がまさにぴったりだと考えて、タイトルにも用いました。
さて、冒頭のテーマ。
運命がなければ、変える必要はないし、運命を知り得なければ、知らぬが仏。
そもそも「運命があるのか」「運命を知り得るのか」が前提として問題なのですが、この辺りは戸次鑑連にラストで言わせています。
鑑元は運命に敗れたのか、それとも打ち克ったのか。
読者の皆様は、お読みくださった後にどのようにお感じになるでしょうか。
▲南関城(熊本県)
※地元郷土史家の方にご提供いただきました。ありがとうございます。(南関城取材時の写真を紛失してしまいました)
■主な登場人物
吉弘賀兵衛(鎮信)(よしひろ・かへえ(しげのぶ)):重臣吉弘家の長子で、大友義鎮の近習。義鎮派。18歳。
小原鑑元(神五郎)(おばら・あきもと(じんごろう)):大友第二の宿将。肥後方分。他紋衆。宗亀派。
杏:鑑元の娘。16歳。
八幡丸:鑑元の嫡男。8歳。
田原民部(たわら・みんぶ):近習頭。義鎮の義弟で腹心。後の紹忍。25歳。
大友義鎮(おおとも・よししげ):大友家当主。後の宗麟。26歳。
田原宗亀(たわら・そうき):田原宗家の惣領。大友家中の最高実力者。
大津山修理亮(おおつやま・しゅりのすけ):肥後山之上衆の若き当主。
小井出掃部(こいで・かもん):小原家家老。
角隈石宗(つのくま・せきそう):大友軍師。
志賀道輝(しが・どうき):大友重臣。加判衆の一人。宗亀派。
田北鑑生(たきた・あきなり):大友重臣。筆頭加判衆。宗亀派。
仲屋:府内の豪商。おかみが取り仕切る。
戸次鑑連(べっき・あきつら):「鬼」と渾名される大友家最高の将。後の立花道雪