第76回

文字数 2,402文字

秋シーズン到来!


天高くひきこもりデブる季節、みなさんいかがお過ごしでしょうか。


脳内とネットでは饒舌な「ひきこもり」の代弁者・カレー沢薫がお届けする、

困難な時代のサバイブ術!

先日、某ガス会社が反社会的組織との取引はしないと発表して話題になっていた。


ちなみに私は社会にお席がご用意されなかっただけで、反しているというわけではない。

以前から国は暴力団絶対殺すマンになっており、反社会認定されると、賃貸契約ができなかったり口座が作れなかったりと、様々な制限が課せられるようになった。


それがついにガスというライフラインにまで及んだため、これは人権侵害ではという意見もすでに上がっている。

そもそも家が借りられないのにガスだけ送って来られてもどうしようもないし、社会に反してなくても「期日までに料金を払う」という約束に反したおかげで、ガスどころかついに水まで止められたニキもいらっしゃるので、この決定が良いのか悪いのかは一概に言えないが、社会に反してもあまり良いことはない、ということはわかる。

しかし、“反社”界の一休さん的な人が「反社じゃなければいいんですね、将軍様」とトンチを効かせたせいで、反社認定されないまま反社ムーブをかます「半グレ」が増えたという、いたちプレイになってしまっている感もある。


そんなわけで、社会的にはそろそろ異世界転生してエルフと農業をするしかなくなってきている社会に反している人たちだが、そんな方々にもコロナウィルスのチケットはご用意されているのだ。

ただし、何せ賃貸の契約ができないため、お手元に届いているかは謎である。


これは本人のためではなく、コロナに罹ってそれを蔓延させたら大変だからである、つまり周りにいる一般市民の皆さまのためだ。


このように日本は、「周りに迷惑をかけるのが一番悪い」という考えが非常に強い国である。それは美徳でもあるのだが、この「周りに迷惑をかけるのは悪」という考え方から起こる陰惨な事件や事故というのも、結構多いのである。


コロナも全盛だった時、感染した人が地域で迫害されている、という噂をよく聞いた。

冷静に考えれば病人を責めるというのは、妊婦の腹にローリングソバットぐらい正気ではない気もするのだが、「感染るかもしれない病気に罹る」というのは「周囲に対する迷惑行為」であり、迫害されて当然の悪ということになってしまうのだ。


そして責められる側も、周りに迷惑をかけて申し訳ないと思っているため「うるせー!どんなに気を付けても罹る時は罹るんだよ!」と、猟銃日本刀ノーマスク、という令和の八つ墓村ルックで反撃することもなく、ひたすら家に籠って耐え続ける、というパターンが多い。

よって、ひきこもりになった理由も「周囲に迷惑をかけてしまったから」、そして「これ以上周りに迷惑をかけたくないから」が結構多いのである。

つまり、ひきこもりが日本特有の現象なのは「死んでも他人に迷惑をかけるな」という風潮がどの国よりも強いからである可能性が高い。

しかし、死んでも他人に迷惑をかけたくないという気持ちから、マジで死んでしまう人が多いのも事実である。


もちろん、人んちの庭にゲロを吐きにいくなどの迷惑は、かけないにこしたことはない。

しかし日本は「他人の世話になること」すら「迷惑」、つまり「悪いこと」と思っている節がある。


よく「国の世話になりたくない」と言って生活保護を受けない方がいるが、それは世話になることが悪いと思っている、もしくは周りに国の世話になるなんて悪いことだと責める人間がいるということだ。


しかし、人に世話や迷惑をかけないで生きるということは無理であり、世話や迷惑をかけてしまいがちな人間というのもいる。

そういう人間が、これ以上周りに迷惑や世話をかけたくないと思ったら「ひきこもり」が最適解なのである。

人の庭に意図せずゲロを吐いてしまったり、周りの親切な人にポカリを差し出されて、お礼替わりに追いゲロしてしまうのも外に出てしまったからであり、根本である「外出」を断てば、他人に迷惑や世話をかけることは格段に減るのである。

また、親がひきこもりを何十年も匿ってしまうのも「他人に迷惑をかけるぐらいなら、自分たちでこいつのゲロを全部受け止めた方がマシ」と思っているからである。


つまり、日本からひきこもりを減らしたかったら、他人に世話や迷惑をかけることがこの世で一番悪いという考え方自体を変えていかなければいけない。


一方で「ひきこもれば他人に迷惑をかける率が下がる」というのは非常に画期的な事実である。


私もひきこもったことによりさらに孤立し、日本語や二足歩行を忘れるという弊害をまねきつつも、あんまり他人に迷惑をかけずに仕事ができるようになったという点では、精神的に非常に楽になった。

もちろん私の場合は共に仕事をする編集者が「人に入らない」という幸運もあったが、ひきこもりは害なだけではなく、外に出るとどうも人に世話になりがちな気がして心苦しくなりがちな人が負担なく生きる方法の一つでもあるのだ。


もちろん自分も、他人の世話をすることや迷惑をかけられることに関して、寛大にならなければならない


「人間だもの、ゲロも吐けばウンコも漏らす」というみつをスピリッツを胸に和彫りしておこう。

カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。長州出身の維新派。漫画作品に『クレムリン』『アンモラルカスタマイズZ』『ニコニコはんしょくアクマ』『やわらかい。課長 起田総司』『ヤリへん』『猫工船』『きみにかわれるまえに』。エッセイに『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』『猥談ひとり旅』『非リア王』など。現在「モーニング」で『ひとりでしにたい』連載中&第1巻発売中。最新刊『きみにかわれるまえに』(日本文芸社)も発売中

★次回更新は10月15日(金)です。

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