『創竜伝』完結記念エッセイ②「始か続か終か、はたまた余か⁉/ W
文字数 2,010文字
田中芳樹さんの大人気伝奇アクション小説『創竜伝』の完結編第15巻が文庫化です!
完結編文庫化を記念して、歴代担当編集者や大ファンの編集者が、ノベルス版刊行時(2020年)に寄せてくれた「『創竜伝』とわたし」のエッセイを再掲載!
凄まじい超能力を秘めた竜堂四兄弟も思わず赤面する熱き想いをここに‼
第2回は、熱烈なファンを自任するW氏の妄想が暴走する「始か続か終か、はたまた余か!?」です。
田中芳樹さんの『創竜伝』がついに完結を迎えた。幸運にも講談社の編集者になった私は、本になる前の田中さんの原稿を読ませていただいたり、天野喜孝さんの原画を拝ませていただいたりした。講談社に入ってよかったと、こんなに思ったことはない。
思えば『創竜伝』は私の妄想の源だった。十代の頃から、私は始と付き合うべきか続を好きになるべきか、いや終と一緒にいた方が楽しいかもしれないし、大器晩成と言われた余を選ぶのが賢明ではないかと、悶々と悩んできた。
架空の作中の登場人物になりきり、茉理ちゃんと始を取り合ったこともあるし、毒舌の続の理解者として彼を癒やしたこともあるし、終と共謀していたずらをしたこともあれば、黒竜に変身した余をなだめて人身に戻したこともある。
『創竜伝』は途中、何年も刊行が止まっていた時もあるが、退屈することはなかった。妄想の中で、いくらでも始たちに会えていたからだ。
始は守ってくれそうだけど、真面目すぎて長年一緒にいると息苦しくなるかもなぁ。正座できなかったりお箸の持ち方がなっていなかったりしたら怒られそうなイメージ。続は白皙の美貌を誇っているけれど、いざとなると兄弟を優先しそう。いやいや、彼のような男こそ、本気で惚れた女には尽くしてくれるに違いない。終はカラッと明るくて、一緒に冒険もできそうで、無鉄砲だけどいいやつだし。でも自由すぎてまめに連絡とかしてくれなさそうだし、振り回されて疲れるかも。余はさすがに年下だからないか? しかしおっとりしていて癒やされるし将来性ありそうだし、年を重ねたら年下の男の子が可愛く思えたりして。
その妄想歴、なんと十余年。我ながら恐ろしすぎる……。
始の影響で、一番好きなビールは凍る寸前まで冷やしたバドワイザーになった。続をまねて舌鋒鋭くなり、友達との喧嘩ではよく相手を泣かした。余のように綺麗に魚を食べることができなかったので、終を真似て骨まで食べるようにした。竜堂兄弟が私に与えた影響は計り知れない。
私の妄想人生を支えてきた、『創竜伝』。
いよいよ完結ということは去年から担当者から聞いており、私の心は激しく乱れていた。
そもそも、本当に完結するのか(だって話のスケールが大きすぎて、あと1巻で終わるとはとても思えない)。茉理と始は結ばれてしまうのか(そうなったらさすがに妄想から始を除外しないといけないだろう)。
完結したら、私は何を妄想の糧にすればいいのか(ついに、ついに、誰と付き合うか、結論を出さねばならないのか)!
しかし、原稿を読んで、その心配は無用だったということが分かった。
ネタバレになってしまうから詳しくは書けないのだが、私が妄想できる登場人物と世界観を、田中さんはたっぷり用意してくださっていたのだ!
これは田中さんが、私が妄想の種がなくなることを悲しんでいるのを察してくれたに違いない(いや、それこそ妄想だから)!
田中さん、ありがとうございます!
まだまだ妄想はできることが判明したので、私も覚悟を決めて、生涯を『創竜伝』の妄想に捧げようと思います。
というわけで、最終巻のタイトルは「旅立つ日まで」なのだが、私の妄想の旅も、四兄弟と共に、永久に続くのであった。
伝説シリーズの完結巻、待望の文庫化!
四兄弟とともに旅をしてきたすべての人へ。
富士山は大噴火、日本政府は機能不全。京都幕府を開いた怪女・小早川奈津子は新たな野望を抱き猛進する! 未曾有の大混乱の中、異形の者たちは人間を無慈悲に襲い続けた。人類の未来を背負った竜堂四兄弟は、牛種との決戦の地・月の内部へ。ついに正体を現す最兇の主君。その口から語られた「五〇億人抹殺計画」究極の狙いとは? 恐るべき強敵を迎え、始・続・終・余、四人の竜王の死力を尽くした戦いが始まる!
田中芳樹(たなか・よしき)
1952年熊本県生まれ。学習院大学大学院修了。1978年『緑の草原に……』で第3回幻影城新人賞を受賞してデビュー。1988年『銀河英雄伝説』で第19回星雲賞、2006年『ラインの虜囚』で第22回うつのみやこども賞を受賞。活躍はSFロマンにとどまらず、中国歴史小説やミステリもものし、壮大な物語と魅力的な登場人物は男女問わず多くの読者を楽しませ続けている。コミック化、アニメ化された作品も多い。代表作に『創竜伝』『薬師寺涼子の怪奇事件簿』『銀河英雄伝説』『岳飛伝』『アルスラーン戦記』などがある。