「ヴォイド・シェイパシリーズ」の講談社ノベルス化に寄せて/森 博嗣

文字数 1,054文字

イラスト/山田章博

 僕は、視覚的な想像をそのまま文章に落とす方法で小説を書いています。「ヴォイド・シェイパ」シリーズは、特にこの傾向が強く表出した作品だと思います。『スカイ・クロラ』を書いている当時から、侍を主人公にした物語を書きたいと考えていて、ようやく機会が回ってきました。


 ところが、この最もビジュアルな作品が、これまでにビジュアル化される機会に恵まれませんでした。唯一、単行本(中央公論新社で発行)のカバーが、雰囲気をカラフルに象徴して素晴らしいものだったのですが、残念ながら、あっという間に絶版になってしまいました。


 今回、講談社ノベルスからシリーズ全作を出していただけることになりました。編集者には、「是非、山田章博氏に絵をお願いして下さい」と提案しました。

イラスト/山田章博

 ご存知のとおり、山田氏は、40年以上まえ漫画同人誌を作っていた頃の仲間で、僕も山田氏も、僕の奥様(あえて敬称)も、そして山田氏の奥様もペンマンとして参加していた同人会でした。


 これまでに、幾度か山田氏に、小説のカバー装画や挿絵を描いていただきました。彼は、下描きをせずぶっつけ本番で、鉛筆もペンも使わず筆で絵を描くのです。つまり、描く以前に、白い紙の上に絵が見えているわけです。実は小説でも同じで、文章を書く以前から、あらゆるシーンが見えているのです。


 その意味でビジュアルな作品だ、ということです。この「ヴォイド・シェイパ」シリーズは今回、山田氏の新たなイラストで、より生来に相応しい作品になることでしょう。

※このエッセィは「ヴォイド・シェイパシリーズ」講談社ノベルス版刊行開始時に作成した書店配布用小冊子のために書き下ろされたものです。

『ヴォイド・シェイパ』 

 紅の鞘に納められた細身の刃。ゼンは師から譲り受けたその剣だけを友に山を下り、旅に出る。師であるカシュウは死んだ。ゼンに旅立つよう言い残して。親も知らず、山奥で育てられた理由もわからない。だが山での生活は、ゼンを強く、賢くした。

 道を極めるためのあてどない修行の旅。剣を構え、しのぎを削り、出会いと別れを重ねながら、多くに気づき学び取るゼン。

 動的でありながら内省的な侍の成長を描く、傑作剣豪小説!

森 博嗣 MORI Hiroshi

工学博士。1996年、『すべてがFになる』で第1回メフィスト賞を受賞しデビュー。「S&Mシリーズ」や「Vシリーズ」ほかのミステリィシリーズや、「スカイ・クロラ」シリーズなどのSF作品、エッセィや新書など活躍は多岐にわたる。

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