受け継がれていくもの

文字数 1,006文字

 私の手元に一枚の会津塗のお盆がある。木目を生かした拭き漆のそれは、少し前に亡くなった祖母の形見としてもらったものだ。箱や中に入っていたパンフレットを見る限り三十年以上は前のもののはずだけれど、つやつやととても美しく古いものには全く見えない。正直なところ生前の祖母に漆器というイメージはなかったのだが、もらったお盆を見て、祖母の家に遊びに行ったときに祖母が似たようなお盆でお茶を出してくれた思い出が蘇った。いつもテーブルの上に置いてあったお菓子の入った器も同じような質感のものだったから、ひょっとしたらそれも会津塗のものだったのかもしれない。

 実はそのお盆を受け取ったのは、ちょうど私が会津塗の出てくる小説を書き始めた頃だった。これを私にと選んでくれた母はそんなことは知らなかったこともあり、このタイミングで私の手元に会津塗の漆器が来たことに不思議な縁を感じた。そしてそれと同時に、自分が思うよりも漆器はずっと身近なものだったのだと気付いた。

 その会津塗が出てくる小説――『不思議な現象解決します』は代々会津で漆器店を営んでいる家に生まれた早希が主人公。早希は大切にされたものに宿る付喪神という存在を見ることが出来る。そんな早希が、叔母から「付喪神が引き起こしたと思われる不思議な現象を解決する窓口」を引き継ぐことになり、同じく付喪神が見える桐生という青年との関わりや、ちょっとした事件を通して成長していく物語だ。作中に出てくる漆器は、付喪神が生まれる条件もあり、人から受け継がれてきたものが多い。早希の身近にもそのような品物がある。漆器は耐久性も高く手入れも簡単、大切に使えば長持ちする。先祖代々と大仰なところまではいかなくても、長く使われ人の手に渡った漆器は多いのだろう。私が祖母からお盆を受け継いだように。

 ちなみにそのお盆はなかなか使う機会がなくてしまったままになっている。しかし、それももったいないので、今度思い切って使ってみようと思う。



広野未沙(ひろの・みさ)
福島県出身、1980年生まれ。2014年『恋歌の魔法をあなたと』(ネオスブックス ブロッサムサイド)でデビュー。その他の著書に『伯爵と十五年目の花嫁 ~この結婚を無効にしてください! ~』(ネオスブックス ブロッサムサイド)がある。

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