〈７月２６日〉 パリュスあや子
文字数 2,845文字
ドラゴンアイス
「アイス食 べたい」？
なんだこりゃ。風太 は気 が抜 けた。
――だから嫌 だったんだよ、菫 を仲 間 に入 れるなんて。
幼馴染 の陸斗 と書 き進 めている「交換 小 説 」。寝 る前 に話 を考 えて、携帯 で書 いて送 る。翌日 の夜 には、その続 きを陸斗 が書 いて送 ってくる。
一回 目 は特殊 能 力 をもったヒーローたちの話 にしたが、たちまちアイディアが浮 かばなくなり、風太 が「全 世 界 は救 われた。」で、むりやり終 わらせた。
仕 切 り直 して二回 目 、ドラゴンと少 年 という設定 でいこうと掃 除 の時 間 に盛 り上 がっているところを、同 じ班 の菫 に聞 かれてしまった。
「マンガ描 いてるの？」
風太 は「ちげぇよ」と流 そうとしたが、陸斗 が耳 を赤 くしながらも嬉 しそうに「交換 小 説 」の解説 を始 めた。コクコク頷 く菫 のほっぺたも、ふんわりピンク色 になっていく。
マズイ……風太 の予 感 は的 中 した。菫 も仲 間 に入 れてくれと訴 えて、引 かない。小 学校 高 学年 で初 めて同 じクラスになったが、おとなしい女 子 だと思 って油 断 していた。
結局 、陸斗 が「新 しい視 点 が入 るのも、いいんじゃないかな」とカッコつけたせいで、交換 小 説 用 にＬＩＮＥ の三人 グループを作 ることになってしまった。その結果 がコレだ。
――なんでドラゴンがアイスを食 べたくなるわけ？
風太 は頭 を抱 える。せっかく陸斗 がイイ感 じに物 語 を始 めてくれたのに、菫 のやつ！
ドラゴンがアイスを食 べようと口 を開 けば、熱 で溶 けてしまう。それを悲 しんでいるところに、独 りぼっちの少 年 が現 れ――続 きは風太 にバトンタッチされた。
少 年 が溶 けないアイスを作 る？
燃 えないストローでアイスを飲 ませる？
ドラゴンの息 を冷 ますとか？
テストでもこんなに頭 を使 うことはない。自 分 では考 えもしない考 えに真剣 に向 き合 うと疲 れると、よくわかった。なのにだんだん、おもしろくなってきたから不思議 だ。脳 みそが動 き出 すかんじ……いつのまにかベッドに涎 を垂 らしていた風太 は、ピロンという携帯 の音 に起 こされた。
「毎日 一行 は書 くのがルールじゃないの？」
菫 からの個 人 宛 メッセージ。液 晶 は「２３：５９」を告 げている。
――少 年 は言 った。「僕 もアイスを食 べたいけど、冷 たいと歯 にしみるんだ。一緒 に食 べられる、あたたかいアイスを探 しに行 こう」ドラゴンと少 年 の旅 が今 、始 まる。
一気 に書 いて送 った。００：００。ギリギリ間 に合 った、か？
ほとんどヤケクソだったが、風太 だけでは決 して思 いつかない展開 になったことにワクワクしていた。「新 しい視 点 」、悪 くないかも。
また、ピロンという音 がした。菫 からの一文字 。
「！」
風太 は満足 の溜息 をつくと、もう安 らかな寝 息 をたてていた。
パリュスあや子（ぱりゅす・あやこ）
神奈川 県 横浜 市 生 まれ、フランス在 住 。広告 代 理 店 勤 務 を経 て、東京 藝 術 大学 大学 院 映像 研 究 科 ・脚 本 領 域 に進学 。「山口 文子 」名 義 で映 画 「ずぶぬれて犬 ころ」（本田 孝義 監督 ／２０１９年 公開 ）脚 本 担当 、歌 集 『その言葉 は減 価 償 却 されました』（２０１５年 ）上 梓 。『隣人 Ｘ 』で第 １４回 小 説 現代 長 編 新人 賞 を受 賞 しデビュー。同作は２０２０年 ８月 ２６日 発売 。
【近刊 】
「アイス
なんだこりゃ。
――だから
一
「マンガ
マズイ……
――なんでドラゴンがアイスを
ドラゴンがアイスを
ドラゴンの
テストでもこんなに
「
――
ほとんどヤケクソだったが、
また、ピロンという
「！」
パリュスあや子（ぱりゅす・あやこ）
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