少々問題がある方が、面白い

文字数 1,071文字

 刑事は銃を常に携帯し、必要とあらば武器を持った犯人に向けて発砲するというのが一般の日本人のイメージではなかろうか。テレビや映画の世界では当たり前のようだが、現実で目にすることはないだろう。
 銃の携帯には許可がいるし、普段の訓練は銃を持たずに構えるだけで、米国のように警察署の地下に射撃訓練場があるわけでもない。
 殺人課と呼ばれる捜査一課の刑事は誰しも殺人現場に臨場することはなく、捜査会議で得た情報を基にひたすら聞き込みや張り込みをする。そんな地味な刑事をテーマにしたのが、「警視庁特命捜査対策室九係」である。
 警視庁の特命捜査対策室は、過去の未解決、いわゆる「お宮入り」した事件を捜査する部署で第一係から第四係までがあるが、この小説では五から八まで飛ばして九係が新設されるところから物語がはじまる。
 九係は「お宮入り」させないという一課長坂巻昌幸肝煎りの部署で、他部署の捜査に介入する。そのため、捜査を混乱させる恐れがあるとして警視庁幹部の反対はあったが、坂巻はそれを押し切って設立した。
 ただ坂巻が採用した刑事には少々問題があった。係長には身内の不幸などが原因で鬱病を患っている山岡雄也、主任は殺人犯の逮捕時に銃の暴発で誤って犯人を死亡させてしまった岩城哲孝、部下はその犯人に銃撃されて心的外傷後ストレス障害(PTSD)に陥っている加山達雄という三人である。
 刑事部長からは、ミスをすれば退職を覚悟せよと三人は釘を刺されている。退職を意味する「休場」と彼らの立場は「窮状」であるため九係になったと、まことしやかな噂が庁内に流れるような顔ぶれなのだ。
 捜査一課のアウトロー三人組が、捜査に臨む手法は地味であり、時に奇抜でもある。シリーズ三作目からは、先輩警官のセクハラが原因で暴力事件を起こして警察官として崖っぷちの二人の若き女性警察官が加わり、物語に花を添える。眉唾だが、面白い作品なのでとくとご覧あれ。



渡辺裕之(わたなべ・ひろゆき)
1957年名古屋市生まれ。中央大学経済学部卒業。アパレルメーカー、広告制作会社を経て、2007年『傭兵代理店』でデビュー。著作に「傭兵代理店」シリーズ、「暗殺者メギド」シリーズ、「シックスコイン」シリーズ、「冷たい狂犬」シリーズ、「オッドアイ」シリーズ、「911代理店」シリーズなど。

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