『立花三将伝』─戦国の世に輝いた若き三将の絆-ブックレビュー

文字数 2,456文字

戦国最強の武将・立花宗宗茂のひとつまえの時代、筑前で何があったのか──。

大友家と毛利家の争いの最前線で繰り広げられた感動の青春群像劇を描いた『立花三将伝』

『大友二階崩れ』『大友落月記』など「大友サーガ」シリーズの著者・赤神諒さんによる熱き武将たちのドラマを、ブックジャーナリストの内田剛さんにレビューしていただきました!

 時は仁義なき争いが繰り返された戦国時代。強く、そして美しく命の炎を燃やし続けた日々に、鮮烈な光を放つ青春ドラマがあった。場所は九州・筑前。メインは博多にほど近い要衝「立花」である。


 立花と聞けば日本史に詳しい方なら戦国最強の武将と謳われた立花宗茂の名前を思い浮かべるかもしれない。彼にもっと京都に近い場所に勢力地盤があったなら、天下人の名前とその後の歴史もガラッと変わったと思わせるほどの伝説的な猛将だ。本書はその宗茂が当主となる前のストーリーである。「毛利」と「大友」という強国に挟まれて翻弄され続ける「立花」の苦悩が、そのまま多くの人々の運命を左右させてしまうのだ。


 物語は関ヶ原前夜のシーンから始まる。天下分け目の戦場を目の前に、年老いた武者がかつて鎬を削りながら研鑽しあった仲間たちを回想する。もうすぐ迎える泰平の世。生き延びた者たちは、喜びよりも失った財産を憂い、亡き者たちは草葉の陰から運命の皮肉を噛みしめている。時の流れと決戦の舞台が少しでも違っていたら勝者と敗者は逆転していたかもしれない。現実にない風景を想像することが歴史の醍醐味であるが、『立花三将伝』はそんな生きた歴史を追体験できる一冊なのだ。ままならぬ運命の皮肉に、兵たちの強烈な生きざま、そして選びとった死に際。人々はいったい何のために殺し合わなければならなかったのか。数多の屍の上に現在があるという事実に気づかされる象徴的な物語だ。印象的な冒頭からラストの深い余韻を想像するのも一興だろう。


 本書に登場する「立花三将」とは米多比三左衛門、藤木和泉、菰野弥十郎のことである。まったくの無名であるが、それぞれ文武に秀でており心根が優しい好人物だ。こうした個性豊かな若き家臣たちが、お家の命運を背負っていたのである。年に一度、桜が咲き誇る頃に必ず集い、無邪気に友情を温めあった特別な関係性。人間味溢れたユーモア精神と何気ない日常が愛おしい。知られざる存在ゆえに新鮮な発見で溢れており、瑞々しい魂の交錯に不思議なほど共感してしまう。

「人は死ねば、終わりでござる。」

「誰かを守ろうとすれば、必ず誰かが傷つく。」

「あたう限り、運命に争うのだ。」

「生か死か。俺の最後の敵はどいつだ。」

 お家のために、主君のために、そしてかけがえのない友のために、たったひとつの命を擲たなければならない時もある。胸が張り裂けそうになるようなフレーズがあまりにも切実だ。「死」と隣り合わせの日々だからこそ、「生」への強い希求が脳裏に刻まれる。生きるか死ぬか、際どいバランスが保たれる日々はそう長くは続かない。いずれ虚しき天の声に誘われて非情なる結末を迎えなければならない。ともあれ刻々と変化する苛烈な運命に翻弄されながら、疾風のごとく時代を駆け抜けた者たちの姿が清々しく、読む者の心を激しく揺さぶるのだ。


 圧倒的な説得力は著者・赤神諒の比類なき筆力によるものである。その骨太にして高密度な物語世界の構築には目を見張るものがあるが、とりわけ戦国期の九州地方にまつわる物語は著者にとっても格別な思い入れが感じられて外すことができない。デビュー作であり日経小説大賞受賞の話題作『大友二階崩れ』、同じく大友家をテーマとした『大友落月記』などはご当地の英雄に光を照らす価値があり、「大友サーガ」シリーズと呼ばれ読み逃すことができない。歴史の闇に埋もれていた命に息吹を吹きこむシリーズといってよいだろう。未読の方はぜひこうした関連本から赤神文学の虜となってもらいたい。


ブックジャーナリスト 内田剛


内田 剛(うちだ・つよし)

ブックジャーナリスト。本屋大賞実行員会理事。約30年の書店勤務を経て、2020年よりフリーとなり文芸書を中心に各方面で読書普及活動を行なっている。これまでに書いたPOPは5000枚以上。全国学校図書館POPコンテストのアドバイザーとして学校や図書館でのワークショップも開催。著書に『POP王の本!』あり。
●1560年ころの立花城周辺●
※マップ制作/ジェイ・マップ

<あらすじ>

戦国最強と言われた立花宗茂が当主になる前、筑前に感動の青春群像ストーリーがあった。大国に翻弄された若き武将らを描く歴史長編!

関ヶ原の戦いに参戦せずとも、当時最強の武将と謳われた立花宗茂。だがその一世代前、宗茂活躍の礎ともなった若き武将や姫たちがいた。──時を遡ること40年、筑前国の要衝を占める立花家は、「西の大友」と呼ばれる名門であった。大友宗家から立花入りした15歳の三左衛門は、四つ年上の勇将・和泉、三つ上の軍師・弥十郎らと出会う。腕に覚えのあった三左衛門は和泉に打ち負かされるも、すぐに弟子入り。寡兵で大軍を退けた弥十郎の知略にも驚かされる。また、当主の娘・皐月姫や和泉の妹・佳月らの恋心も絡み、三将の絆は深まっていく。8年が過ぎる。筑前では毛利の調略が進み、諸将が次々に大友を離反。立花家は孤立していく中で家中も毛利派と大友派に分裂する。そしてついに、三将の運命を変える大きな政変が……。
赤神諒(あかがみ・りょう)

1972年京都府生まれ。同志社大学文学部卒業。私立大学教授、法学博士、弁護士。2017年、「義と愛と」(『大友二階崩れ』に改題)で第9回日経小説大賞を受賞に作家デビュー。同作品は「新人離れしたデビュー作」として大いに話題となった。他の著書に『大友の聖将』『大友落月記』『神遊の城』『戦神』『妙麟』『計策師 甲駿相三国同盟異聞』『空貝 村上水軍の神姫』『北前船用心棒 赤穂ノ湊 犬侍見参』『太陽の門』『仁王の本願』『はぐれ鴉』などがある。

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